研修やセミナー参加者の理解を促す“つなぎのリズム”

前回の記事(『「スライド“間”の呼吸」──構成の切れ目に“つなぎの言葉”を与えるNotebookLM』)では講師の視点から話してきましたが、少し立場を変えて、聴き手の視点で考えてみましょう。

私自身、他者の研修やプレゼンを受けるときに、「すごく理解できた」「テンポよく、気持ちよく聞けた」と感じるのは、決まって“間の語り”が巧みな人の話です。


聴き手の理解は「情報」ではなく「流れ」で生まれる

講師やプレゼンターはつい「何を話すか」に意識を向けますが、聴き手の体験はむしろ「どのように切り替わるか」で決まります。

一つの話題が終わってから次に入るまでのわずかな“間”のつなぎが、聴き手の理解のテンポを作り出します。

「さっきの話を踏まえると…」

「ここで一度立ち止まりましょう」

「視点を変えて考えてみます」

このような語りがあることで、聴き手の脳は「いま整理すべきか」「次を期待すべきか」を自然に判断できます。


聴き手の脳は「連続性」を聴いている

心理学ではこれを「連続性の原理(Principle of Continuity)」と呼びます。

人間の脳は、情報そのものよりも前後の関係性のつながりを手がかりに理解を組み立てるのです。

たとえば:

・「では次に…」という一言で、聴き手は“切り替え”を予期できる

・「ここで一度まとめますね」で、“区切り”を安心して受け止められる

・「今の話を別の角度から見てみましょう」で、“拡張”を予測できる


こうした“つなぎの語り”があると、聴き手はリズムを感じ、理解が滑らかに続きます。逆にこれがないと、脳は「どこで整理すればいいのか」がわからず、情報が流れ込むだけで消化できません。

そのとき私たちは無意識に「わかりづらい」「ちょっと疲れる」と感じるのです。


「間」は、講師と聴き手の共有する“拍”である

良い講義やプレゼンには、音楽と同じようにリズムがあります。メロディ(内容)を引き立てるのは、音と音のあいだの休符(間)です。

講師がつくる“間”は、聴き手の思考時間であり、聴き手が感じる“テンポ”は、講師の語りの設計そのものです。


NotebookLMが示した「聞きやすさの構造」

NotebookLMの音声解説を聴いていると、AIが自然に“間”をつくりながら説明していることに気づきます。

この“間の語り”は、まさに聴き手が理解しやすい時間的リズムを再現しています。講師がAIの音声を聴くことは、自分の研修を聴き手の耳でリハーサルすることに近い体験です。


おわりに──構成の呼吸 × 理解のリズム

私がNotebookLMに感じたのは、「AIが代わりに話してくれる」ことの便利さではなく、その“語りの連続性”が、構成の切れ目と聴き手の理解の両方を照らしてくれることでした。

自身の講演やプレゼンテーションの品質をさらに高めるための相棒として、ぜひNotebookLMの音声解説機能を使ってみてください。



補足として

2本の記事を読んで、パワーポイントの「ノート機能」を使えば“つなぎの言葉”は忘れないんじゃないの?とか、“つなぎの言葉”もスライドに全部書いてしまえばいんじゃないの?と思われる方がいると思います。
私もそのように考えて試してみたのですが、つなぎの言葉をスライドに書くと「読んでしまう」のです。どうも自然にならないというか、テンポが悪くなるというか…。
参加者の理解がそれによって深まっていればいいのですが、これは実際にABテストしているわけではないので、なんとも言えません。
例えば、下図のようなスライドを入れることで参加者に与える影響がどのようなものか。私はそれを実験するリソースがありませんので、関心のある方にぜひ研究いただきたいと思います。


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