子どもがよろこぶ「おはなし」の作り方

子供の寝かしつけをしていたら100%寝落ちしてしまう前田です。
2歳、3歳ともなると寝かしつけの時に子供から“おはなし”をせがまれると思います。わが家もその例に漏れず、娘が「おはなしして」と言うようになりました。
この時、慌てふためくことなく即興で、オリジナルのちゃんとしたおはなしを作れる方法を知ったのでご紹介します。

■自分の創作センスのなさにガッカリ。

娘が「パパ、おはなしして」と目をキラキラ輝かせながら私にせがんだのは2歳も後半に入るある秋の夜のことでした。

このブログを読んでくださる皆さんにはお分かりの通り、私には文才も創作する力もございません。
それでも娘の期待に応えるべく、これまで娘に読み聞かせてきた絵本タイトルを思い浮かべながら、「どんなお話にする?」と聞くと、

「えーとねぇ、、、、、ぼうしさま!」

と、読んだことも聞いたこともないキャラクター名を口にしました。

ぼうしさまにつながるキャラクターはせいぜい「ドロロンえん魔くん」の「シャポーじい」か、ハリポタの組み分け帽子くらいしか思いつきません。

娘にドロロンえん魔くんを見せたことはない。

(※なお、ぼうしさまの画像検索結果はこちら)


仕方がないので、以下のようなぼうしさまのお話をしました。
  • 昔々あるところに、ぼうしさまがいました。
  • ぼうしさまはいつもお姫様の頭の上にのっかっていました。
  • ある日、 お姫様と一緒にお姫様のおじいさんのお城にお出かけしました。
  • 途中、船に乗ると海から大きなヘビが出ておそいかかってきました。
  • ぼうしさまが呪文をとなえると、お姫様の姿がきえたので、ヘビはお姫様をみうしない、海にもどっていきました。
  • そうしてお姫様とぼうしさまは無事におじいさんのお城につきました。
  • おしまい。
一応それらしいお話に見えますが、お話している最中は次の展開に話をつなぐのに、「えー」とか「あー」とか、「そうしてぇぇぇぇええええ」などと懸命に考える時間を稼ぐ一方、こちとら眠いので途中何度もネバーランドへ落ちかける度に、

「パパっ、ねないでっ」

と娘にするどく呼び起される始末。

さらには、

「ねぇねぇ、ふねはだれがくれたの?」と質問されたり、船の色は青色だと言うと「ちがうよ、さっきあかっていった」などと訂正されたりして、すやすやと、いえ、やすやすと話を進ませてくれません。
これも私のお話のリズムやテンポが悪かったり、辻褄があっていなかったりする事が原因と思われます。

そこで、即興で短い物語をさくっと作ることのできるノウハウをググってみることにしました。


■物語づくりの2大文法。「行って帰る」 と 「欠如からの回復」

いくつかある関連書籍の中から最も役に立ったのが『ストーリーメーカー 創作のための物語論』です。


本書は『多重人格探偵サイコ』などの漫画原作者、民俗学者、批評家などとして著名な大塚英志さんの著書です。
本書は、ウラジーミル・プロップの『昔話の形態学』における昔話の構造が31の機能からなる説や、ジョーゼフ・キャンベルの『千の顔をもつ英雄』からハリウッド映画のストーリーにキャンベルの神話論が活用されている事例を紹介しながら、既存の物語論を元に大塚さんが考案した30の質問に答えていくだけで物語が作れてしまうという物語創作のマニュアル本です。
このマニュアルに沿えば、特別な創作のセンスや能力がなくても物語ができてしまう訳ですが、詳しい内容は本書をお読み頂くとして、3歳の娘へのおはなしづくりに参考になったのは、物語づくりにおける以下の2大文法でした。


英雄譚、冒険譚や昔話には、
「行って帰る」 と 「欠如からの回復」 という2つの文法があります。

まず「行って帰る」とは、主人公が今いる場所(日常)から別の場所(異日常)に向かい、戻ってくるというパターン。戻ってくる場所は元いた場所でも、そことは異なる場所であってもかまいません。

「欠如からの回復」は主人公や主人公が属する環境が不完全な状態、何らかの加害を受けている状態から、あるべき状態へと回復していくパターンです。

これを図にすると以下のようになります。

『ストーリーメーカー』付図より


この2大パターンをベースに、主人公に「異日常へ向かう乗物(道具)を与える者」や、「主人公を助ける者」、「主人公が救うべき存在」のようなキャラクターや、「敵との闘争(奪還)」など物語を進行させるための作用を持つ“機能”によって物語が構成されています。

物語というと情緒的なもののように感じますが、その多くは上記のような文法に則って必要な“機能”を選択し、組み合わせていくことで作る事のできる論理的な産物であると言えます。

詳しい文法や機能については本書の他、ウラジーミル・プロップ『昔話の形態学』、ジョーゼフ・キャンベル『千の顔をもつ英雄』、 内田信子『子どもの文章 書くこと・考えること』をお読み頂くとして、子供へのおはなしレベルでは「行って帰る」と「欠如からの回復」を意識すれば十分におはなし創作が可能なので、この文法に則って娘からリクエストのあった「ぼうしさま」のおはなしを作ってみたいと思います。


■オリジナリティは所定の構造の上に生まれる

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『ぼうしさま』のおはなし

●日常(欠如の状態)
  • 昔々ぼうしさまがおりました。
  • ぼうしさまが大人になるには、自分をかぶってくれる人間が必要でした。
  • そこでぼうしさまは自分をかぶってくれる人間を探しに出かけました。

●異日常へ行く
  • ぼうしさまは初めて人間がたくさんいる世界にやってきました。
  • ぼうしさまは自分をかぶってくれる人間に出会うため、ぼうしがたくさんあるお店に行きました。
  • 最初にかぶってくれたおばさんは、頭が大きすぎてぼうしさまが頭に入りませんでした。
  • 次にかぶってくれたおばあさんは、頭が小さすぎてぶかぶかでぼうしさまが落っこちてしまいました。
  • その次にかぶってくれたお姉さんは、とても強い香りがしてぼうしさまの鼻がちぎれてしまいそうになったので、かぶられるのをあきらめました。
  • あきらめかけた時、小学生くらいの女の子がぼうしさまを手に取ってかぶりました。
  • すると、ぼうしさまと女の子の頭の大きさがピッタリ合い、ぼうしさまをかぶった女の子はとてもかわいくなりました。
(※ちなみに、同じ行為を繰り返すことも物語における「機能」の一つ。桃太郎のきびだんごを犬、猿、雉にあげるシーンを思い出して下さい)


●日常へ帰る(回復した状態)
  • ぼうしさまは女の子と一緒におうちに行くことになりました。
  • その後、ぼうしさまは女の子といつも仲良く一緒にお出かけするようになりましたとさ。
  • おしまい。
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おぉぉ。それっぽいおはなしになっているではないか。

この文法を知って以降、娘が「今日のおはなしは“おすしさま”!」と言っても、「ボタンさま!」と無茶ぶりしても慌てずおはなしを創作できるようになりました。

(※ちなみに、知人のイラストレーターがボタンさまを書いてくれたところ、こうなった)

ド●ミちゃん、ベイ●ックスみたいやな。。


このように、物語にはその制作時の拠り所となる基本的な文法があり、その文法に則って作られた数多の物語には類型的なテンプレートがあり、それらを踏まえて制作していけば、創作センスがなくても読まれる(聞かれる)に足る物語をつくることができます。

こうした文法やテンプレートに従ってつくる、という事について批判的な感想を持たれる方がいらっしゃると思いますが、『ストーリーメーカー』の著者、大塚さんは以下のように本書内で語っています。
「構造に従って書く」このに対して、自分の固有性を制限され、作り手として個性が奪われると感じるかもしれないが、このような「肉付け」や「選択」の中にこそ、より明確な作家性が、より具体的に発現すると考えている。

ここでいう 「肉付け」「選択」は、上述した物語の進行に影響を与える“機能”のことを指していますが、基本的な文法をおさえ、読まれるに足る水準を担保した上で、個性はそのアレンジに現れると受け取って良いのではないでしょうか。
(それらの一切を無視して受け手に影響を与える作品を創作できる人を、天才と呼ぶのだと思います)

みなさんも、寝かしつけの際にお子さんからおはなしをせがまれましたら、ぜひ上記の方法でおはなしをつくられてみてはいかがでしょうか?


■余談だが

妻と寝ようとしていた娘が、
「パパ、おとなりきて、おはなしして。」
と言う。
会得した創作おはなしをし終えると、
「あぁ、おもしろかったッ!」
と言ってくれたので、心の中でガッツポーズ繰り返してたら、
「パパ、じぶんのふとんいっていいよ」
と追い出されて泣いてる。。


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