プロジェクトの「質問・問いかけ」を活かせないアンチパターン
プロジェクトの問題を解決する「質問・問いかけ」
私はプロジェクトの伴走・支援を行っている者ですが、なにかの業界や業務に特化するということはなく、毎回異なるプロジェクトに携わっています。
業界・業務・テーマ・課題は異なったとしても、プロジェクトは以下のような特徴を持ちます。
- 未知
- 不確実、想定外
- 有限有期
- 他者との協働
こうした特徴はそのままプロジェクトに取り組み、進めていくときの問題・障害になります。
- 事前に教えられない。正解やマニュアルがない。
- 状況や環境が刻一刻と変わる不確実さや、想定外の事象との遭遇。
- 限られた時間でじっくり話し合ったり教えたりする余裕がない。
- 異なる経験、価値観、期待、思惑の人々と、情報を表現し共有する難しさ。
これらの問題・障害を取り除くために、それぞれ以下のようなことが必要です。
- 未知:更新前提の仮説を立てる
- 不確実、想定外:全体の目標に向かい、状況に応じた暫定解を出す
- 有限有期:各人が主体的、自律的に思考・行動する
- 他者との協働:相手を受け容れる。進め方や意思決定の基準・評価基準に合意する
これらのことをひっくるめると下記のように表現できます
全員が、互いのことを知り、全体の成功の定義、進め方や基準に合意して、全体の目標に向かって自分自身で考えて行動し、仮説を実行した結果を形成的に振り返りながら、進めていく
こうした状態を実現する際に有用なのが、この記事の主題である「質問・問いかけ」です。
質問・問いかけのメリット
私のプロジェクトの伴走・支援メニューは大きく4つありますが、それぞれ「質問・問いかけ」のアクティビティが組み込まれています。
アクティビティには1対1で私がカウンセラーになって問いかけるもの。複数人のステークホルダーやプロジェクトメンバーに対して、私がファシリテーターとなって問いかけて、グループに分かれて意見を出し合うもの。プロジェクトの状況をグループ全員で振り返るものなどがあります。
これらのアクティビティには質問パターンがあります。
- プロジェクトの見通しを立てるための質問パターン。
- ステークホルダーと全体の進め方に合意するための質問パターン。
- プロジェクトを振り返ったり、追加要件、想定外の事象の遭遇に対応するための質問パターン。
これらの質問パターンを伴走・支援するプロジェクトの状況や文脈に応じて私が使ったり、プロジェクトメンバーが自分自身で使ったりしています。
質問や問いかけを行うことには多くのメリットがあります。
- 同じ目標・対象でも、問いかけ方を変えると出てこなかった答えを見つけることができる
- 質問されることで、自分とは異なる角度や筋道から考えられるようになる
- 他者に質問することで自分にはわからない問題を他者の力を借りて表現したり解決したりできる
- 質問を重ねることで、持っていなかった答え、新しい視点や考え方を生成する
- 質問されることで言語化できていなかったものが明らかになる
- 質問することで自分で考えることを促す
- 相手の考えを引き出すことができる(自分の考えが口にしやすくなる)
- 質問されることで、自分の考えを述べやすくなる
- 質問し、質問されることで、他者の考えを知ることができる。他者の受け容れにつながる
質問する側にも、質問される側にも。マネージャーとスタッフ、マネージャーと経営者。クライアントとベンダーなど、立場が異なっても、プロジェクトチームやステークホルダー全体にメリットがあります。
これらのメリットは、「全員が互いのことを知り、全体の成功の定義、進め方や基準に合意して、全体の目標に向かって自分自身で考えて行動し、仮説を実行した結果を形成的に振り返りながら、進めていく」状態につながっていくのですが、残念ながら質問する側にも、質問される側にも問題があって、うまく質問・問いかけを活用することができないことが多いのです。
質問・問いかけをうまく活用できないアンチパターン
質問・問いかけをうまく活用できないアンチパターンを、二つ見てみましょう。一つ目は上司やクライアントから「指示」されて、それに対して質問し回答するというもの。二つ目は上司やクライアントから「質問」されて、それに回答してフィードバックするというものです。
下図の一つ目のケースではオレンジ色が上司やクライアント。水色がスタッフやベンダーです。上司やクライアントが指示を出し。スタッフやベンダーが質問するという図式です。字が小さすぎ見えないので拡大してご覧ください。
下図の二つ目のケースもオレンジ色が上司やクライアント。水色がスタッフやベンダーですが、ここでは上司やクライアントから質問が発せられます。こちらも字が小さすぎるので拡大してご覧ください。
この図でお伝えしたかったのは、質問をする側にもされる側にも多くの問題があるということです。
指示を受けるスタッフやベンダーの立場だと、
- 疑問や違和感があっても共感・忖度しようとしてしまう。
- 質問すると自分が無知と思われて嫌、恥ずかしいと感じてしまって質問しない。
- そもそも上司やクライアントの言うことは正しいと思い込んで質問しないといった問題があります。
- 自分の意図・期待することを相手から引き出すための適切な質問をつくれない。
- 構造的に、遡って、文脈に応じた質問ができない。
といった問題もあります。
質問を受けた上司やクライアントは、
- そんなこともわからないのかと思ってしまう
- 相手に考えさせられない。いいヒントを出せない。足場掛けができない。どこに注目させればいいかわからない。
- 相手の意図=質問に対して、適切に答えられない。ちゃんと聞いていない、聞けていない
- 質問した相手の内容を正しく聞いていない。自分の都合のいいように、自分の解釈にあてはめて聞いてしまう
といった問題があります。
質問を受けるスタッフやベンダーの立場だと、
- 質問されると非難・試されているように感じてしまう
- 質問されて答えられないと恥ずかしいと感じてしまう。誰かの面前で答えられない体験をすると辱められたと感じてしまう
- わかっていなくてもわかったふりをする
- 言われた通りにやるので教えて下さいと言う(自分で考えなくなる)
といった問題があります。
これらの問題は質問する側が原因であることも多いです。
- 答えを持たず、答えを出すことに非協力的なまま、質問を繰り返す
- 非難、詰問(非難、詰問口調)になってしまう
といった問題です。
質問する側もされる側も、こうしたこと(体験)をしていると、問答・対話が続かなくなります。問答・対話をしたくなくなり、問答・対話はつらいもので、喜びがない状態になってしまいます。
このような状態になるとプロジェクトがどうなるか?
- 仮説のバリエーションや想定外の対応の打ち手の数が減る
- わかりあう機会、受容し・される機会が減る・なくなる
- 論理的に考える機会が減る・なくなる
- 主体的に考え、行動しなくなる(指示待ち、責任を追わなくなる)
- 特定の人や管理負担が大きくなる
これらの結果、プロジェクト進行のリスクが上がってしまいます。
問題はとても根深く絡み合っています。
わからないということ、質問するという行為へのネガティブなイメージ・価値観。知っていなければ・正答しなければならないという思い込み・強迫観念。答えのない問題をともに解こうとする姿勢・価値観や、相手の話を聞く技術や姿勢、質問をつくる技術の欠如。
これらの問題を解決、解きほぐさないかぎり、質問・問いかけの力を活かすことは叶いません。
質問・問いかけの力を活かすあるべき状態
質問・問いかけの力を活かすあるべき状態とは下記のようなものです。
- 自分でわからなくなる。質問した相手と一緒にわからなくなる
- 自分の経験や知識だけで質問の対象を見たり聞いたりしない
- なんでだろう?どうやるのだろう?といった疑問を持つ
- 目上の人や知識ある人の言うこと・することを鵜呑みにしない
- 一つの・同じ対象を観察して、多様な情報や要素を見出したり、対象が位置づけられている文脈や構造を把握することができる
これをファーストステップとして、セカンドステップとしては、下記の状態を目指します。
- 他者の質問に驚ける・感心できる。他者の質問から学べる・発見する
- 他者の質問を歓迎できる
- 教授・説得モードにならない
- 質問のパターンを文脈や構造に応じて使うことができる
こうした体験を積むことで、質問される耐性をつけ、質問する耐性をつけます。質問をする体制は表現を換えれば、質問することを嫌がらない、恥ずかしがらないというものです。
これら一連の状態を経て、問答・対話を通じて答えを見つける、生成する、新しい問いを見つけるという態度を身につけ、質問・問答・対話することに喜びを感じられるようになると考えています。
このようになるために、いったいどんな研修を受けなければいけないのかと思われるかもしれませんが、実はこれは、子どもが3歳ごろから発する「なんで?」(なぜなぜ期)で実践・練習することができます。
なぜ「なんで?」で実践・練習できるのか?については下記の記事で説明していますので、よろしければご覧ください。