子どもの“なんで?”を育む、『なんで?カメラ』を開発しました。

一部のみなさまにはお馴染み、なんで?おじさんの前田です。
突然ですが、カメラをつくりました。
このカメラは、自分で部材を調達し、3Dプリンタで筐体をつくり、組み立て、コードを書けば、自分で完成させることができます。
そのための設計図、回路図、コードをすべてオープンソースで提供します。

名前は「なんで?」カメラと言います。

なんで、なんで?カメラをつくることにしたのか。
そして、それをなんでオープンソースで提供することにしたのかについて、ここでお伝えしたいと思って記事を書きました。


アーネが3才後半の頃から発した「なんで~なの?」に驚かされ、ハッとさせられ、考えこまされ、はや5年。
「なんで?」には、大人が知らない間に持ってしまった固定概念やモノの見方をグラつけせたり、覆したりする力があり、また、子ども自身の好奇心や探究心、推論する力を養う源泉になると考えてきました。


なんで、ミニーはミッキーよりもちいさいの?
なんで、フリスクのはこはこんなかたちなのあ?
なんで、まじょなのにおかしのいえにすんでないの?
なんで、「わるいけど」っていうの?
なんで、チューをくちとくちでするの?
なんで、ゆびは5ほんなのに、ピアノはドレミファソラシドまであるの?
なんで、あそぶのはたのしいのに、かたづけはたのしくないんだろう?
なんで、おふろのみずはむらさきなのに、すくうととうめいなんだろう?
なんで、おおきなおさらのうえに、ちいさい料理しかのせないの?

挙げていったらキリがありません。その他のなんで?は、『4歳娘が「なんで?」と質問したこと100選』をご覧いただくとして、先に進みます。

2018年にミヤモトタクヤさんと「なんで?プロジェクト」を立ち上げ、学びの道研究所の池田哲哉さんにプログラム監修を行っていただき、富士フイルムさんやキヤノンマーケティングジャパンさんの協力を得て、docomoさんや小田急百貨店さんなどで、「なんで?ワークショップ」を開催してきました。


ワークショップには3才から10才くらいの子どもとその親のみなさんに参加いただき、なんで?の面白さや楽しさや価値を感じていただくことができました。
ただ、私自身感じていたことですが、参加された方から「継続して子どものなんで?を記録するのは難しいですね」と言われました。ワークショップに参加して「なんで?」が大事なのはわかったけれど、その気持ちを持続するのは難しいとも。

そうなのです。私はこれまで200近い娘の「なんで?」を集めてきましたが、それは私がアーネとジージョの傍にいて、「なんで?」と発したものを運よく手元にあったスマホでメモしたり写真を撮ったりしたものに過ぎません。アーネもジージョも私が傍にいない間に、もっと多くの「なんで?」を感じているはずです。

これは子どもからしたらお節介でうっとうしい話しかも知れないですが、その「なんで?」をもっと記録できないだろうか?
その「なんで?」を親もいっしょに「なんでだろう?」とわからなくなって、につながる本なり遊びなりの体験を提供することができれば、楽しくなるんじゃないかと考えました。

ただ、「なんで?」を記録するためにスマホやデジカメを買い与えるのはちょっともったいない。YouTubeを見られる必要はないし、超高画質である必要も写真にフィルターをかける必要もありません。

「なんで?」だけが撮れればいい。 それを親が見ることができればいい。

実現したいことはたったこれだけのことです。

あれ待てよ。それだけのことなら、カメラをつくれちゃうんじゃないか?

そう思ったのが、「なんで?カメラ」開発の始まりでした。

ただ、私はカメラはもちろんのこと、何かを作るための設計図を書いたこともなければ、部品製造も、組み立て作業の経験もありません。経験がなく、イチからそのための知識と技術を習得する時間が惜しければ、お仕事として発注すれば良いことです。
幸いにして、私にはまったく意図していなかった書籍の印税が入る見込みがありました。あぶく銭なら、何か新しく価値のありそうなものに投資すべきです。

docomoイノベーションビレッジで開催した勉強会に参加されていた松本哲生さんが、何がキッカケだったか忘れましたが話に乗ってくれ、DMM.make AKIBA日野圭さんを紹介してくれました。

日野さんから製造はできるけど、カメラの設計が必要ですよと言われ(そんなことも知らなかった)、Facebookにカメラの外側と内部設計ができる方をダメもとで募ってみました。


すると、神が降臨。
sansanで開催したプロジェクトマネジメントの勉強会に参加されていたときに面識ができ、その数か月後、慶応SFCの井庭先生の勉強会に偶然見かけて声をかけ、Facebookでつながった出水宏治さんがメッセージを送ってくれました。(声をかけて本当に良かった・・・



その後、出水さんと日野さんと私の三者で品川駅のデニーズで打合せをし、なんで?カメラのプロトタイプを開発するという目標に対し、こうなれば成功という勝利条件をお二人に伝えました。

勝利条件というのは、プロジェクトの目標に対し、どうなっていたら成功と言えるかという評価指標・判断基準のことです。なんで?カメラの勝利条件は、以下のように設定しました。

日常生活で「なんで?」と感じたものをすぐ撮影し、撮ったらクラウドに飛ばして保存され、親がスマホで写真を閲覧し、子どもの興味関心について知るという体験をする

この勝利条件を実現するために、デザインや安全性、クオリティはどうあるべきかといったことと、私が使えるお金(予算)やスケジュールなど所与の条件を考慮しながら、どのような技術や素材が採用できるかアイデアを出しあいました。そのときのメモがこちら。


なんで?カメラを開発するにあたり、出水さんと私はそれぞれ本業があり、密に会って打合せをするということができませんでした。また、限られた予算と時間で開発を進めるために、何度も試行錯誤をする余裕もありません。
そこで、個々の認識にズレをなくし、なんで?カメラ開発の進捗を記録し、手戻りが起きないよう「プ譜」をつくって共有し、プロジェクトを進めていくことにしました。


出水さんと日野さんの協力を得て始まったなんで?カメラの開発プロジェクト。ここで私はモノづくりの思考と試行の素晴らしさを体験することになります。

なんで?カメラ開発プロジェクトの勝利条件は、要約すれば「撮影したデータが任意のフォルダに飛ぶ」です。「こういうものをつくりたい」という“ありたい姿”が明確で、かつ高画質やズーム機能などは一切望まず、「あれも入れたい、これも入れたい」を極端にそぎ落としました。「これだけのことなのだから」と、私はこの開発プロジェクトをとても簡単に考えていましたが、ところがどっこいモノづくりは甘くない。

例えば、カメラのデザインを検討するにあたり、「子どもが楽しんで使いたくなり、扱いやすい形状をしている」という中間目的に対し、一般的なカメラ型と虫メガネ型、そしていわゆるメガネ型のデザイン案が出ました。

「なんで?」と感じたものを虫メガネでパシャッ!は、なんで?プロジェクトのコンセプトに合っていて、かつ野心的で魅力的なものでした。私はこのアイデアに心奪われましたが、虫メガネ型にするには取っ手の部分に各種部材を格納しなければならず、予算内で調達する部材では、子どもでも持てるサイズの取っ手に格納しきれません。仮になんらかの方法で格納できたとしても、またwifiを拾う部材が熱を持ち、3Dプリンタで射出する筐体では、低温やけどする可能性も考えられました。

こうした、「こういうものをつくりたい。でも、コレとアレが制約になって、A案を採りたいがB案を採らざるを得ない」という、様々なトレードオフや意思決定の必要に迫られ続けるのです。

通常であれば頭の痛くなるところなのでしょうが、私にはこの体験がとても刺激的で楽しく、脳みその筋トレをしているような、自分の考える力を試されているような感じがしました。

なぜこのように感じることができたのかと考えると、プ譜にこのトレードオフの状況を可視化できていたことが大きな要因ではないかと思います。


あっちを立てればこっちが立たない関係性が明らかになっているため、メタ的にこの状況をとらえられる=俯瞰できるのです。状況を俯瞰できると、どっぷりとハマりこみ、直面しているモノゴトから距離を取ることができます。
そうすると、あれこれシミュレーションができる。このシミュレーションが脳みそを刺激します。考えやすくします。これを脳みその中だけでやると悶々としてしまいますが、プ譜に外在化することで、考えることがとても楽しくなったのです。

そしてただ楽しいだけではありません。少額とはいえ自分の意思決定次第で、使用する素材が無駄になるかも知れません。予算が増えてしまうかも知れません。その作業を行ってくれた関与者の時間を無駄にしてしまうことになるかも知れません(その試行錯誤もまた貴重な学習の経験ですが)。「楽しいなぁ、アハハ」とテキトーに決めることができません。ヒリヒリする。

このヒリヒリ感は、リアルなモノを扱うモノづくりだからこその感覚でありましょう。
楽しさとヒリヒリの連続。この経験は、現在の状況・条件から目標を達成するための思考と試行の格好の訓練になります。

なんで?と感じるセンス、感じたものを「なんで~なの?」と発し、問いにしていく力を養いたいと思って開発を始めたなんで?カメラですが、それとは異なる力を、なんで?カメラをつくることで養うことができるんじゃないか。

そこで私は、予算の制約もありましたが、今つくっているカメラが、“ありたい姿”に対してカメラの形である必要がなかったということ。この仕様、素材、技術を採用したのには、こういう理由・トレードオフを経ていること。こうしたことを追体験してもらいたいと考えました。

そのため、なんで?カメラはアッセンブリして完成品として提供しません。
必要な部材、3Dプリンター用の筐体設計図、コードなど一式をオープンソースで提供します。
そして、なんで?カメラの開発プロセス、経てきたトレードオフや意思決定も公開します。

ちなみに、なんで?カメラ開発プロジェクトについては、こちらの書籍にすこし紹介しているので、よろしければご覧ください。



今後は、なんで?カメラをハックして、新しい機能を開発するワークショップを開催する予定です。

また、なんで?カメラで撮影した写真データを投稿して、他の子どもや大人が投稿された「なんで?」に対し、異なる視点で「なんで?」を書き加えることで、「なんで?」が育ち、広がり、他の「なんで?」とくっついて、また新しい「なんで?」が生まれるコミュニティを構築していきます。


なんで?に対して性急に答えを出すよりも、もっともっと「なんで?」が広がったり深まったりしていく、世界一「なんで?」が集まる場所を目指していきます。

おもしろいねこれ!
こんなことできるんじゃないか?

と感じていただいたら、ぜひ下記までお気軽にメッセージください。

takaho78@gmail.com

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