なんで?プロジェクトを通じた 子ども起業家教育の取組(講演資料)
2019年1月21日に、埼玉県産業労働部産業支援課主催の、平成30年度第2回起業支援関係者ネットワーク会議で、掲題の講演を行ってきました。
経済産業省が2018年から推進する「地域創業機運醸成事業」における、起業家教育プログラムをお探しの方の参考になると思い、ここに要旨を残しておきます。
地域創業機運醸成事業では、起業家教育プログラムが各市町村で行われることを期待されています。
そのプログラムとして、なんで?プロジェクトで行なっている「なんで?ワークショップ」が活用できるのではないかという県産業支援課の方からのオファーを受けて、講演を行いました。
まず、起業家に求められる素養、すなわちアントレプレナーシップとは何か?ということをまず定義しましょう。
かのピーター・ドラッカーはこう言っています。
イノベーションとは何か?
この言葉の生みの親、シュンペーターの定義はこうです。
豊田章男氏や岡田元也氏など、日本を代表する経営者を数多く輩出し、米国で23年にわたり「アントレプレナーシップ教育部門」のトップを独占し続けているバブソン大学では、アントレプレナーシップをこのように定義しています。
このバブソン大学のことを調べている途中、同大学史上初の女性学長となったケリー・ヘリー氏のこんな言葉を見つけました。
ここで述べられている通り、起業家と聞くと、私たちは一般的に「お金をたくさん稼ぎたいんだな」という印象を持つと思います。
でも、近年はそうでもないらしい。
同じく多くの起業家を輩出してきたスタンフォード大学で、アップル社のイノベーションの鍵でもある「デザイン思考」を取り入れた起業家支援講義を行うチャック・イーズリー氏はこう述べています。
彼らの言葉を拠り所にして言うなら、かつては儲かりそうな、市場で勝てそうなジャンルや商材を選び、どうやって稼ぎ、儲けるかといった「What」や「How」が重視されていました。
その技術・サイエンスはいまなお有効であること変わりありませんが、もう一段遡るような、「なぜ、こんな問題が起きているのか?」、「なぜ、このような仕組みになっているのか?」「なぜそのビジネスを私が行うのか?」という、内面から沸き起こるものを見つけ、見つめて、掘り起こすといったことが求められているようです。
こうした起業家(精神)を子どものころから涵養するにあたって、望ましいのはどのようなことでしょうか?
大人の世界では、多くのビジネススクールが存在し、アントレプレナーならぬイントレプレナーやオープンイノベーションなど、必ずしもリスクのある(と思われている)独立起業をしなくても、チャレンジができる環境ができつつあります。また、テクノロジーや法整備によって起業コストが大きく低下しました。
子ども向けのプログラムに目をうつせば、独創性を育むようなワークショップ、フリーマーケットなどでお金を稼ぐ経験など、各種のイベント・プログラムが散見されます。
ここで、私はみなさんにこう問いかけます。
大人が子どもに、多くのものごとを与えている陰で、無意識に殺してしまっているものはないか?
私は「ものの見方」がそれにあたると考えます。
大人が無自覚・無意識にもってしまった常識、固定概念、知ったつもりになっていることによって、子どもの自由で、型破りの、一見理解しがたいものごとの捉え方(と、それに伴う表現の仕方)を、私たち大人は奪ってしまってはいないでしょうか?
世の中に数多くある「イノベーションを起こす流れ」を整理すると、このような流れをとります。
ものの見方は、この流れにおける1から3に影響を与えるものです。
起業や新規事業を、「0→1(ゼロイチ)」と表現する慣習があります。
スティーブ・ジョブズもこのような言葉を残しています。
ものの見方。どこに目を留めるか。
それはすなわち、どの・どんな「0(ゼロ)」に着目するか、ということが重要であるということを意味しています。
子どもは、私たち以上に不確実で、未知の社会を生きます。
そのとき、もはや問題は誰からも与えられません。
自ら問題を発見・創造する必要がある。
『イノベーションのジレンマ』の著者、クレイトン・クリステンセン氏は、多くのイノベーションが失敗に帰する原因を、以下のように表現しています。
ビジネススクールで正しく、論理的に、正解を導き出すことのできるスキルを習得したとしても、そもそもの「質問のつくり方」が間違っていたら、間違った問題に、全力で、正しく間違うことになります。
どんな0に着目し、それをどのように問題・質問として表現することができるか。問いをつくることができるか。
私はここまでの文章で、子ども期に涵養するものとして、「ものの見方と問い方」を育むべきではないかという結論に至りました。
この「ものの見方と問い方」を育む活動として、私は「なんで?プロジェクト」を行っています。
なんで?プロジェクトでは、子どもが発見した「なんで?」を撮影し、プリントした写真についての「なんで?」をグループで出し合い、なんで?の解明や解決を行うというプログラムを提供しています。そこで育みたいと考えている力に、以下のようなものがあります。
子どもが、どのようなものごとに対して「なんで?」と感じているかについては、以下のブログでご覧頂くとして、ここではまず子どもの「なんで?」が持つ力について説明します。
(※参考 『4歳娘が「なんで?」と質問したこと100選』)
まず、結論から申し上げると、子どもの「なんで?」には、大人の固定概念や思い込みを疑い、覆し、バラす力と、原始的なイノベーションの可能性を有しています。
その証左となり得るエピソードをご紹介しましょう。
先に掲示した「なんで?100選」の中に、「なんで、おとこのひとのパンツは、そんなにかわいくないの?」というものがありました。
これに類似する「なんで?」に、「なんで、おとなのおむつは、そんなかたちなの?」というものがあります。
この問いを見つけ、解決したのが、米国のキンバリー・クラーク社の成人用おむつの例です。
先ほど登場頂いたクリステンセン教授の著書『ジョブ理論』から引用します。
会場周辺のなんで?をカメラをもって撮影します。
(このとき、同伴する大人は、「さぁ、なに撮る?」と聞きます。聞かなくていいんです)
撮影した写真のうち、最も「なんで?」と感じるものをプリントします。
(このとき、同伴する大人はよく、「え?それでいいの!?」と言います。いいんです)
プリントしたら台紙に貼って、「なんで◯◯◯◯◯?」と書き込みます。
(このとき、同伴する大人はよく、「◯◯◯だからでしょ」と言います。口を閉じましょう)
グループになって、なんで?台紙を回し合い、他人が書いた「なんで?」シートの写真や文章を見て、自分が感じた「なんで?」を書き込みます。こうして、他者の視点・人によって着目する場所や質問の仕方が異なることに気づくことを狙いにしています。
子どもの「なんで?」が向かう先に、なんで?の解明と、なにかしらの解決を行うという、大きく二つの方向があります。
ここからゼロをイチにしていくフェーズになります。
このゼロイチフェーズでは、プロジェクト型学習スタイルを取りますが、この詳細はまた別の機会に説明したいと思います。
この「なんで?ワークショップ」の講習会を、2019年3月16日(日)14:00から、埼玉県の創業・ベンチャー支援センター埼玉で行います。
もし、ご興味のある方がいらっしゃいましたら、私まで直接ご連絡ください。
経済産業省が2018年から推進する「地域創業機運醸成事業」における、起業家教育プログラムをお探しの方の参考になると思い、ここに要旨を残しておきます。
地域創業機運醸成事業では、起業家教育プログラムが各市町村で行われることを期待されています。
そのプログラムとして、なんで?プロジェクトで行なっている「なんで?ワークショップ」が活用できるのではないかという県産業支援課の方からのオファーを受けて、講演を行いました。
まず、起業家に求められる素養、すなわちアントレプレナーシップとは何か?ということをまず定義しましょう。
かのピーター・ドラッカーはこう言っています。
イノベーションとは何か?
この言葉の生みの親、シュンペーターの定義はこうです。
豊田章男氏や岡田元也氏など、日本を代表する経営者を数多く輩出し、米国で23年にわたり「アントレプレナーシップ教育部門」のトップを独占し続けているバブソン大学では、アントレプレナーシップをこのように定義しています。
このバブソン大学のことを調べている途中、同大学史上初の女性学長となったケリー・ヘリー氏のこんな言葉を見つけました。
ここで述べられている通り、起業家と聞くと、私たちは一般的に「お金をたくさん稼ぎたいんだな」という印象を持つと思います。
でも、近年はそうでもないらしい。
同じく多くの起業家を輩出してきたスタンフォード大学で、アップル社のイノベーションの鍵でもある「デザイン思考」を取り入れた起業家支援講義を行うチャック・イーズリー氏はこう述べています。
彼らの言葉を拠り所にして言うなら、かつては儲かりそうな、市場で勝てそうなジャンルや商材を選び、どうやって稼ぎ、儲けるかといった「What」や「How」が重視されていました。
その技術・サイエンスはいまなお有効であること変わりありませんが、もう一段遡るような、「なぜ、こんな問題が起きているのか?」、「なぜ、このような仕組みになっているのか?」「なぜそのビジネスを私が行うのか?」という、内面から沸き起こるものを見つけ、見つめて、掘り起こすといったことが求められているようです。
こうした起業家(精神)を子どものころから涵養するにあたって、望ましいのはどのようなことでしょうか?
大人の世界では、多くのビジネススクールが存在し、アントレプレナーならぬイントレプレナーやオープンイノベーションなど、必ずしもリスクのある(と思われている)独立起業をしなくても、チャレンジができる環境ができつつあります。また、テクノロジーや法整備によって起業コストが大きく低下しました。
子ども向けのプログラムに目をうつせば、独創性を育むようなワークショップ、フリーマーケットなどでお金を稼ぐ経験など、各種のイベント・プログラムが散見されます。
ここで、私はみなさんにこう問いかけます。
大人が子どもに、多くのものごとを与えている陰で、無意識に殺してしまっているものはないか?
私は「ものの見方」がそれにあたると考えます。
大人が無自覚・無意識にもってしまった常識、固定概念、知ったつもりになっていることによって、子どもの自由で、型破りの、一見理解しがたいものごとの捉え方(と、それに伴う表現の仕方)を、私たち大人は奪ってしまってはいないでしょうか?
世の中に数多くある「イノベーションを起こす流れ」を整理すると、このような流れをとります。
- 好奇心を持ち、一人のユーザーとして事象に相対する。
- 事象に相対、遭遇した時、固定概念でもって見ない。
- 変わった見方をすること、発言することを恐れない。
- 一つの事象に対して、とことん探求する。
- 新しい「問い(仮説)」や「テーマ」を設定する。
- 問いやテーマを設定したら、プロトタイプをいち早く出し、実証する。
- うまくいかなかったら、問い方・やり方を変える。
ものの見方は、この流れにおける1から3に影響を与えるものです。
起業や新規事業を、「0→1(ゼロイチ)」と表現する慣習があります。
言葉遊びをするつもりはないのですが、これからの世の中では、0から1を生む以前のことが問われるようになるのではないでしょうか。
レオナルド・ダ・ヴィンチの言葉を紹介します。
スティーブ・ジョブズもこのような言葉を残しています。
ものの見方。どこに目を留めるか。
それはすなわち、どの・どんな「0(ゼロ)」に着目するか、ということが重要であるということを意味しています。
子どもは、私たち以上に不確実で、未知の社会を生きます。
そのとき、もはや問題は誰からも与えられません。
自ら問題を発見・創造する必要がある。
『イノベーションのジレンマ』の著者、クレイトン・クリステンセン氏は、多くのイノベーションが失敗に帰する原因を、以下のように表現しています。
ビジネススクールで正しく、論理的に、正解を導き出すことのできるスキルを習得したとしても、そもそもの「質問のつくり方」が間違っていたら、間違った問題に、全力で、正しく間違うことになります。
どんな0に着目し、それをどのように問題・質問として表現することができるか。問いをつくることができるか。
私はここまでの文章で、子ども期に涵養するものとして、「ものの見方と問い方」を育むべきではないかという結論に至りました。
この「ものの見方と問い方」を育む活動として、私は「なんで?プロジェクト」を行っています。
なんで?プロジェクトでは、子どもが発見した「なんで?」を撮影し、プリントした写真についての「なんで?」をグループで出し合い、なんで?の解明や解決を行うというプログラムを提供しています。そこで育みたいと考えている力に、以下のようなものがあります。
子どもが、どのようなものごとに対して「なんで?」と感じているかについては、以下のブログでご覧頂くとして、ここではまず子どもの「なんで?」が持つ力について説明します。
(※参考 『4歳娘が「なんで?」と質問したこと100選』)
まず、結論から申し上げると、子どもの「なんで?」には、大人の固定概念や思い込みを疑い、覆し、バラす力と、原始的なイノベーションの可能性を有しています。
その証左となり得るエピソードをご紹介しましょう。
先に掲示した「なんで?100選」の中に、「なんで、おとこのひとのパンツは、そんなにかわいくないの?」というものがありました。
これに類似する「なんで?」に、「なんで、おとなのおむつは、そんなかたちなの?」というものがあります。
この問いを見つけ、解決したのが、米国のキンバリー・クラーク社の成人用おむつの例です。
先ほど登場頂いたクリステンセン教授の著書『ジョブ理論』から引用します。
同社の成人用おむつ「ディペンド」を製造し始めたのは、おもに疾患や加齢による失禁に悩むひとたちに好機を見出した80年代。しかし、ディペンドもほかの商品も雇用せずに我慢している人がおおぜいいた。同社も気を遣ってパッケージには肌着と表示していたが、外観が成人用おむつそのものだった。乳幼児用紙おむつのパッケージと形や大きさがそっくりで、触るとがさがさ音をたてるところがいやがられた。ところが、片づけるべきジョブのレンズを通して調査したところ、50歳以上のほぼ40パーセントが失禁や尿漏れに悩まされていて、18歳以上の女性の3人に1人が失禁に関するなんらかの悩みを抱えているにもかかわらず、実際に専用の製品を購入している人はわずかしかいない。「恥ずかしさと不安が、失禁で悩む人たちの生活の質を著しく下げている」こうした洞察のもと、女性用の「ディペンド・シルエット・ショーツ」や男性用の「リアル・フィット・ブリーフ」を開発し、この問題に伴う恥ずかしさを打ち消し、購入者の尊厳の回復に注力することにした。何よりもだいじなのは、成人用おむつとは見た目も付け心地もまるでちがう製品をつくることだった。そのため、素材と製法から根本的に見直した。(透明な窓をつけて商品が本物の肌着とそっくりであることが買う前にわかるように!)結果的に、発売1年目に6000万ドルを売上、ニールセン・ブレークスルー・イノベーション賞を受賞し、2年目には30パーセントの伸びを見せた。
4才娘の「なんで?」と、企業が見つけた「なんで?」を根本的には同じ問いであると言うことに、私はなんの恥ずかしさも衒いもありません。
ふと感じる「なんで?」に気を留めて、それについて考えてみる。「そういうものだから」と片づけないで、「たしかに、なんでだろう?」と問い直してみる。それが、アントレプレナーシップを育む、もっともprimitiveな要素になるのではないでしょうか。
最後に、「ものの見方と問い方」を育むなんで?ワークショップのプログラムをご紹介して、終わりにします。
なんで?ワークショップは以下のように進めています。
ふと感じる「なんで?」に気を留めて、それについて考えてみる。「そういうものだから」と片づけないで、「たしかに、なんでだろう?」と問い直してみる。それが、アントレプレナーシップを育む、もっともprimitiveな要素になるのではないでしょうか。
最後に、「ものの見方と問い方」を育むなんで?ワークショップのプログラムをご紹介して、終わりにします。
なんで?ワークショップは以下のように進めています。
- なんで?を見つける
- 写真に撮ってプリントする
- なんで?と質問してみる
- みんなのなんで?を出し合う
- 解明、解決、新結合する
会場周辺のなんで?をカメラをもって撮影します。
(このとき、同伴する大人は、「さぁ、なに撮る?」と聞きます。聞かなくていいんです)
撮影した写真のうち、最も「なんで?」と感じるものをプリントします。
(このとき、同伴する大人はよく、「え?それでいいの!?」と言います。いいんです)
プリントしたら台紙に貼って、「なんで◯◯◯◯◯?」と書き込みます。
(このとき、同伴する大人はよく、「◯◯◯だからでしょ」と言います。口を閉じましょう)
グループになって、なんで?台紙を回し合い、他人が書いた「なんで?」シートの写真や文章を見て、自分が感じた「なんで?」を書き込みます。こうして、他者の視点・人によって着目する場所や質問の仕方が異なることに気づくことを狙いにしています。
1回に行うワークショップは60~90分です。
単発で行うワークショップはこれで終了しますが、これをプロジェクト型学習にできることを講演会では説明しました。
単発で行うワークショップはこれで終了しますが、これをプロジェクト型学習にできることを講演会では説明しました。
子どもの「なんで?」が向かう先に、なんで?の解明と、なにかしらの解決を行うという、大きく二つの方向があります。
ここからゼロをイチにしていくフェーズになります。
このゼロイチフェーズでは、プロジェクト型学習スタイルを取りますが、この詳細はまた別の機会に説明したいと思います。
この「なんで?ワークショップ」の講習会を、2019年3月16日(日)14:00から、埼玉県の創業・ベンチャー支援センター埼玉で行います。
もし、ご興味のある方がいらっしゃいましたら、私まで直接ご連絡ください。