クロスバイクを買ったら在宅QOLが爆上がりした件

在宅勤務生活が3年目に入ろうとするころ、運動不足解消のためにクロスバイクを買った。

私はスポーツジムに通うとか、趣味で野球やテニスに高じるということがなく、通勤や顧客訪問のための徒歩移動が、私にとっては唯一からだを動かす行為だった。

コロナの影響で都内のオフィスがなくなり、徒歩というからだを動かす行為がなくなった結果、それを補うために毎朝20~30分ウォーキングをしていた。

しかし、仕事のための歩行という目的に付随する行為ではなく、歩くこと自体が目的の歩行というのはたいへんつまらない。

私が暮らす埼玉県行田市は、今まで暮らしていた東京都杉並区とは違い、街路樹はバッサリ伐採して木陰がなく、ウォーキングが快適ではない。くわえて、日本一暑い街として名高い熊谷市の煽りを受けて、真夏は心臓に響くくらいどっしりと暑い。(快適なのは、せいぜい夏の間に早朝の新幹線の高架下にできる影くらいである)

田んぼのあぜ道を縫うようにして歩くのは趣がある。

歩道橋を見つければあえて登る。
日々の散歩の中に少しでも変化をつけようと思うが、徒歩では遠くまで行けず、バリエーションにも限りがある。

毎日似たような道を歩くのは本当に飽きる。飽きないよう歩きながら音楽、ラジオ、オーディオブックを聴くということを試したが、自分には合わなかった。

いろいろと試行錯誤した結果、採用した手段がクロスバイクだったわけである。

クロスバイクは行田市に隣接する鴻巣市のサイクルワークスオオタキで購入した。

人生で初めてクロスバイクに乗ったとき、その加速のなめらかさ、否、ヌルヌルさに驚いた。

本当にス―――ッと、ヌルヌルと加速していくのだ。

どのくらいヌルヌルかというと、マンチェスターユナイテッドに所属するフランス人ストライカー、アントニー・マルシャルのドリブルくらいヌルヌルなのだ。

ヌルヌルと加速し、ギアが最高段階に入ると、これまで味わったことのない速さの世界に入る。グングングンと上がるスピードに驚きながら自分の意志とは無関係に足がペダルをこいでいるような感覚に陥る。これまで自分が経験してきた以上のスピードで足が回る。

いける…、もっと…もっと早く…!

と思った刹那、自分が息をしていないことに気づき、同時にこのカットが脳裏に浮かんだ。

(『鬼滅の刃』コミックス10巻より)

お兄ちゃん 息をして!! お願い!!

(ちなみに私に妹はおらず、弟が二人いる)


このクロスバイクを買って以降、私の在宅勤務生活は激変した。QOLが爆上がりした。

クロスバイクを買う以前、あまりに身体を動かさない生活に嫌気がさすというか、手足が纏足のようにムリヤリちぢこませられるような感覚への反動か、ママチャリで約1時間10分かかるデニーズへGODIVAとのコラボパフェを食べに行ったり、同じく約50分かかるイオンモール羽生に行ったりしたが、それは年に1回あるかないかのビッグイベントだった。

自転車で遠出をするというのは気力体力が充実し、ビデオMTGが一つも入っていない時しかできないことだったのだが、クロスバイク購入後は、ちょっと気が向けば15km圏内は気軽に出かけられる場所になった。5km圏内であればちょっと近所のコンビニへ、感覚である。

この移動距離の広がりと気楽に遠出ができることによって起きた最も大きな変化は読書量である。

在宅勤務前は、職場近くにある港区立三田図書館でよく本を借りていた。図書館にない本は、区内の別の図書館にあれば取り寄せてくれた。しかし、私が住む行田市内には図書館が一つしかない。市内の図書館へは自転車で20分である。クロスバイク購入前は、自転車で20分かかる場所に行く発想すらなく、読書量が激減したのだが、クロスバイク購入後、隣接する県立熊谷図書館や市立熊谷図書館、同じく隣接する鴻巣市立中央図書館や吹上図書館にも気軽に出かけられるようになった。ほぼ群馬県の熊谷市立妻沼図書館にもちょっとひと乗り、という感覚である。

図書館の広がりは読みたい本の広がりと同義である。読みたいと思った本をすぐ読めるようになった結果、読書量が急増した。

特筆すべきは県立熊谷図書館である。

この図書館は、通常の図書館にはない学術書や稀少本が揃っている。また同図書館には、同じく県立久喜図書館の蔵書も取り寄せられるのである。

「熊谷市民に過ぎたるものが二つあり。県立熊谷図書館と八木橋」である。

八木橋は熊谷市民の誇り、老舗のデパートなのだが、この文章とはあまり関係ないので割愛する。

クロスバイクによる移動距離圏の拡大は、書籍以外に新しい生活の楽しみをもたらしてくれた。

各地域のパン屋である。

埼玉県は麦の主要な生産県となっており生産量24,000トンで全国第9位(令和3年産)である。中でも小麦については、製粉業界等の実需者から安定した品質、産地と工場が近い地理的な条件などにより高い評価を受けており、それは地場のパン屋の数や質にも現れているように思える。

熊谷のboulangerie Matsuoka (ブーランジュリ マツオカ)や小麦の丘。

行田のツキモバザール。

羽生のパン工房 学舎やみやび亭。

北本の天然酵母パン airiekitchen こなの香。

加須のオサルナ(ここはパンよりも台湾カステラがお勧め)など。

一度は足を運ぶ価値のあるパン屋が埼玉県北にはいくつもある。

私はこれらのパン屋を「足を伸ばせば」というGoogleマップのリストをつくり、目当ての本を借りにいくついでパン屋に寄る、もしくはパンを買うついでに本を借りるようになった。


車で30分くらいの距離であれば、十分自転車で行ける範囲である。

毎年冬に行う人間ドッグ。クロスバイクによってどんな変化が起きているか、今から楽しみである。


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