書くこととタイプすることの「失敗のコスト」


敬老の日に祖父母に手紙を書くことにした。僕が書いている膝に乗って手紙を書くのをじっと見ているので、ジージョ(6才・年長)も書いてみる?と聞くと、やる気満々で「書く!」と言う。
ジージョは「じぃじ、ばぁば、サンげんきですか?」で始まる短い文章を便せんに鉛筆で書く。(※サンは犬の名前)
ジージョはまだ

頭の中で考えたことを、
指に持った鉛筆で、
筆を動かして書く
ということがスムーズにできない。

「“げ”ってどう書くんだっけ?」「カタカナのンはどう書くの?」と書いている途中で聞いてくる。便箋の傍に裏紙を用意して、お手本の字を書き、ジージョはそれを見て書き進める。

ときどき書き間違えて、消しゴムで消そうとすると、勢い余って紙がグシャッとなってしまう。4Bという濃い鉛筆の書き間違いを消すと、黒ずみが残ってしまう。そんな便箋を見て、「きたない~」と泣いてしまう。

自分も手紙を書こうと思っただけなのに、うまく書き進められない。完成させることができない。

頭の中で考えたことを、
指に持った鉛筆で、
筆を動かして書く
ということがスムーズにできないために、もともとの「自分も手紙を書きたい」という願いを実現できない。これは本人からしたらつらいことだろう。そこで違う方法を考えてみる。

ジージョが頭で考えた手紙の内容を一度全部僕が書き出してお手本とする。ジージョがそれを見て書いて(写して)いく。もしくは、便箋を写し紙のようなものに変えて、お手本の上に置いて写す。

ジージョはまだ習得していないけれど、もしタイピングができるようになっていたら、頭の中で考えたことを両手の指をつかってキーボードをたたいて書くことができる。

繰り返しになるが、タイピングを習得していれば、筆で書くよりも頭の中で考えたことを外に出すスピードはずっと速い。また、書き間違えたとしてもBack Spaceですぐに消すことができる。紙はヨレもしないし汚くもならない。書き間違えることを気にせずに済む。
失敗のコストが低くなる。

筆で書くことの習得コストとキーボードでタイプすることの取得コストはここでは考えない。考えたいのは、パッと自分の中で腹落ちしない思い込みについてだ。

僕はなんとなく、手紙は手書きの方がいいと思っている。両親に宛てる手紙は便せんにペンで書く。タイプして印刷するということはほとんどない。タイプしてメールするということはときどきある。それはただ単にそうしたいというだけで、手書きの方が想いが伝わるとかそういうことは思わない。

ただ話をジージョのような幼児にうつしたとき、誰かに自分の想いを伝えたいという願いを実現するために、他者が手書きの方が想いが伝わるとか受け取った相手が喜ぶとかいうことを持ち出して、あれこれ励まして鉛筆で書かせるということが良いとは思えない。

それが手紙を書く当の本人にとってつらい体験になって、手紙を書くということが嫌いになったら元も子もない。

手で書くのとタイプするのとでは文字の習得に大きな違いがあったり、その後の運用に大きな影響があるという話を聞いたことがないので、このあたりのことはよくわからない。

ちょっと話が変わる。

ジージョが頭の中で考えたことを紙に書き出そうとするとき、お手本を一度書いてしまって、それを写すという方法があると書いた。
これは自分で考えて書いたのではなく「写した」だけじゃないかと思ったのだが、書いてあるものは自分で考えたことなので、この場合の「写した」には自分がちゃんとある。

ここでまたよくわからない考えが頭をもたげてくる。

考えながら書いていると、書いているうちに書こうと思っていたことが変わってくることがしばしばある。どの語を先に持ってくるかで話の展開が変わってしまったり、細かい背景情報を書くのが億劫になって話を端折ってしまったりすることがある。ああこう考えているうちに誤字してしまい、慌てて修正テープや二本線をひいて訂正する。

こんなとき、先にタイプして下書きを書いておいて、それを写した方がいいんじゃないかと思う。実際に何度か試してみたが、下書きに時間がかかるように思うものの、考えながら書くよりも効率がいい。

効率がいいのに、ついつい筆を持ち、便箋を広げ、考えながら書いてしまう。

あるトピックを書き終えたとき、最初はつながるとは思っておらず、手紙に書こうと思いもしていなかった出来事や考えとの接点が見つかって、自分も相手も喜びそうな文章が書けることもある。このような体験は考えながら書く(清書する)のと、タイプして下書きをつくるのとで比較したことがないのでよくわからない。
ただ、以前下記のツイートをしたときまぁまぁ反響があってたことを思い出した。

 

タイプすることで、書く内容が豊かになったり、もっともっと書きたいことが書けるようになったら、それはいいことなんじゃないかと思うが、手書き文化で育ってきた自分にはまだ腑の奥底まで落ちていない。

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