児童生徒の書くプ譜の、問題のサイズ・ジャンプの幅の大小の特徴と得られる体験の違い
2020年から中学、高校、大学の探究の授業やPBLの支援をしています。この支援のなかで、「プ譜」というプロジェクトの仮説や過程を表現するツールを用いています。このプ譜を児童生徒が書くと、大きく3つの傾向が出てきます。
- 問題のサイズ・ジャンプの幅が小さいもの
- 問題のサイズ・ジャンプの幅が大きいもの
- 手段が目的になってしまっているもの
この記事ではそれぞれの傾向のうち、問題のサイズ・ジャンプの幅の大小の特徴と、その問題を解決するための問いかけについて書きます。
問題のサイズ、ジャンプの幅とは、PBLや探究で設定する目標(の計画)に含まれる推論しなければいけない量だとここではとらえてください。推論しなければいけない量は未知の量、未知の要素の数です。推論しなければいけない量は未知の量、未知の要素の数です。
問題のサイズ、ジャンプの幅が小さいと、未知の要素が減るのでプロジェクトの目標の実現可能性が高くなります。かける時間は短くて済みます。
問題のサイズ、ジャンプの幅が大きいと、未知の要素が増すのでプロジェクトの目標の実現可能性が低くなります。時間も長くかかります。
(下図はクリックして拡大表示してください)
プ譜は、この問題のサイズ、ジャンプの幅が大きいもの、つまり未知の要素の多い、推論の量が多い目標の可視化・構造化に向いています。何かをすることが直接的にその目標実現に有効かどうかがわからないものです。そのため実際に行うことと目標の間に「中間目的」という、行うことがつくる「状態」を記述し、何かの行動・作業・行為の結果、「こうなっている(いた)」から、目標が実現するだろうという推論のし方をします。
これが問題のサイズ、ジャンプの幅が小さいと、「こうすればこうなる」ということが見える・読めるので、することの状態を設定せずとも、これをすることが必要だろという「することリスト」さえつくれば事足りてしまいます。そのためわざわざ書くまでもない中間目的を記述しようとすると、中間目的が施策(すること)の親カテゴリーのような書き方になってしまったり、施策をむりやり中間目的風の表現にしてしまったりということが起きます。そうなるとどうにもよくわかりにくいプ譜になってしまいます。
問題のサイズ、ジャンプの幅が小さくなる原因はたいてい先生の働きかけ方、関わり方にあります。
限られた授業時間で、目標を実現することで得られる達成感を重視しようとすると、どうしても問題のサイズ、ジャンプの幅を小さくするような働きかけをしてしまうようなのです。
これはとても理解できる、悩ましい問題です。使える時間が短ければ目標のサイズを小さくするのは当然のことです。(企業では使える時間が短いのに目標のサイズを大きくしてプロジェクトを失敗させてしまうことが多いぶん、こちらの方が誠実なのではないかと思います)
このやり方が間違っているとは思いません。プ譜には合っていないだけで、プ譜ではない方法で計画を立てれば良いだけです。
ただ、問題のサイズ、ジャンプの幅の違いは、得られる体験やそこで鍛えられる能力に影響します。
得られる体験やそこで鍛えられる能力には、達成感、成功体験、試行錯誤の数、失敗から学ぶこと、推論・仮説を立てる力、計画立案、計画遂行、問題や想定外に遭遇したときの対応、他者との協働の頻度などがありましょう。
プロジェクトの内容や児童生徒の資質・センスによって得られ鍛えられるものごとは変わるでしょうが、問題のサイズ、ジャンプの幅が小さい方が目標実現の可能性が高く、目標を実現させたことによる達成感を味わいやすくなるでしょう。(その難易度がどの程度かによっても達成感の度合いは変わるでしょうが)
問題のサイズ、ジャンプの幅が大きい方が目標実現の可能性が低く、失敗の可能性は高くなりますが、失敗から学ぶという機会は多くなります。もちろん、本当に失敗から学べるかどうかも児童生徒や教師の働きかけによって変わることは言うまでもありません。大きすぎて何から始めればいいかわからず行動に移せないというリスクもあります。
問題のサイズ、ジャンプの幅が小さくなる原因はたいてい先生の働きかけ方、関わり方にあると書きましたが、PBLや探究の授業で児童生徒にどんな体験をさせて、その体験を通じてどんな能力を育みたいか?というポリシーや信念の影響も強く受けます。
ただいくらポリシーや信念があっても、使える時間に限りがある場合、サイズや幅をどうとるかは先生を悩ませるでしょう。児童生徒のグループごとに取り組むテーマや成功の定義が異なると、各グループにかけられる時間は減ってしまい、この悩みは一層大きくなります。
その解決方法はここでは扱わず、問題のサイズ、ジャンプの幅が小さすぎる場合と大きすぎる場合に行う問いかけ方を紹介します。いくつか種類がありますが、ここではシンプルにそれぞれ一つずつご紹介しましょう。
サイズ・幅が小さいときは、「そのプロジェクトの目標を実現して、どうなっていたいか?」と問いかけて、いったんサイズ・幅を大きくします。
この問いかけ方が相応しくない場合は、その目標を実現したとき、どこの誰・どんな人が喜んだり助かったりするか?と問いかけてみてください。
サイズ・幅が大きいときは与えられている時間で、どこまでやれたら成功とするか?次につながるか?と問いかけて、成功の定義の「程度」を決めます。
ちなみに、手段を使用することが目的になっているときそのプロジェクトの目標を実現したとき、立証したい仮説は何か?と問いかけて、「●●をすること」ではなく、「●●をつかってなること」を考えさせるようにすると良いです。
この問いかけを先生がただでさえ短い時間で児童生徒の各グループに対して行っていくのは、とても難しいことです。前回の記事(プ譜をつかってプロジェクトや探究の授業を進めている先生にお伝えしたいこと)でも書きましたが、一人の先生が複数の児童生徒のグループに対して問いかけるのではなく、児童生徒同士が問いかけ、対話できるようにすることで、この制約を解決できるのではないかと考えています。