みなさんに磨かれ、拡がった「プ譜」の本ができあがりました。

盟友、後藤洋平さんとの著書『予定通り進まないプロジェクト』が世に出たのが2018年3月。
それから2年を経て、新著『見通し不安なプロジェクトの切り拓き方』が2020年3月に刊行されます。



第一作のときは、書籍出版するなど思いもよりませんでしたが、続けて第二作を出すことになるとは、夢にも思いませんでした。
刷上がった見本誌を見たアーネ(8才)には、「パパの本って、ぜんぶ“なんとかのし方”だね」と言われたのですが、し方はし方でも、第一作とどう違うのか?どういう経緯で出版され、どういう内容になっているのか?をご紹介したいと思います。

前著との違い


『予定通り進まないプロジェクト』を概念先行型の書籍だとしたら、『見通し不安なプロジェクトの切り拓き方』は概念の実践とその成果をまとめた書籍です。

共著者の後藤さんと私の経験を元に編み上げた概念を、他者に共有し、伴走することによって、磨かれ、鍛えられたプ譜の使い方、切ればドバッと血の出るナレッジ、拡げられた可能性がギュッと詰めこまれています。

前著も多くの人との出会いを紡いで出版に至りましたが、本著はさらに多くの、多様な人々の存在なしには生まれませんでした。
プ譜というツールに、プロジェクトを進めていくための可能性を感じていただいた方。ご自身の運営されている場で披露する機会をくださった方。実務に取り入れてくださった方。こうした皆様にこの場を借りて、厚く、厚く御礼申し上げます。

第一作が出て以降、販促活動として一年半で50回ほどのプ譜をつかったワークショップを行ってきました。公開型のセミナーもあれば、一社単独の企業研修もあります。
テーマは多岐にわたり、プロジェクトマネジメントそのものにかぎらず、働き方改革、SDGs、DX、地域活性、メールマーケティング、カスタマーサクセス、コミュニティマーケティング、アセットマネジメント、介護、人材育成、キャリア教育、展示会、PBL(Project Based Learning)、夫婦の育児などをプロジェクトとしてとらえ、どう進めていくのかをプ譜をつかって仮想演習してきました。

そうした活動のなかでも特に転機となった出会いを、そこでの経験がどのようにプ譜に影響したのかと合わせて、下記にまとめてみました。


●長者原康達さん×議事録としてのプ譜の活用


当時ロフトワークで学びのプラットフォーム「OpenCU」のディレクターを務めていた長者原さんに、プ譜をつかったワークショップを提案したところ、プ譜を議事録として使うワークショップを逆提案されました。
それまでは、プ譜は一人の人間(主にプロジェクトマネージャー)が、プロジェクトの進め方を整理し、考えていくことを主要用途として考えていました。そのため、当初は長者原さんの言っていることがピンと来ていなかったのですが、後にこの指摘・提案は、プ譜をつかってプロジェクトMTGを行っていく方法を考えるための貴重な種となりました。

●長沼博之さん、Social Design Salonのみなさん×Zoomをつかったオンラインプ譜制作

長沼さんが運営されているオンラインサロン「Social Design Salon」では、Future PresentationというZoomをつかったオンラインイベントがあります。
このなかでメインスピーカーの方の事業を、事前に同じくZoomをつかってヒアリングをしながらプ譜化するという経験を数回積ませていただきました。当初はパワーポイントをつかって制作していましたが、ここでの経験が、その後Google Slideをつかって、プロジェクトの仮説立案と進捗状況の確認を、オンラインかつ遠隔で行うサービスにつながっていきました。

●前嶋文典さん×小学生でもプ譜は書ける


前嶋さんは奈良県福住地方で地域活性などの仕事を手掛けるNPO法人日本無形文化継承機構の代表です。
ここで動画を活用した地域の情報発信プロジェクトを行うにあたり、当時一年生だったアーネも帯同したのですが、アーネが助手として動画を教えたいと言いだし、そのためのプ譜を書いてみたところ、私との問答を通じてプ譜を見ごとに書き上げました。
一年生でも適切に問答を重ねればプ譜が書けるという発見と、写真などのビジュアルを使うと、
プ譜の振り返りが楽しくなるという発見がありました。
前嶋さんのご体調の回復を、娘といっしょに心よりお祈りしております。


●BenchmarkEmailのみなさん×クライアントのプロジェクトに伴走する。チームメンバーの目標の可視化に利用する

BenchmarkEmailさんでは、カスタマーサクセス及びコミュニティマーケティングの一環として、サービスを利用するメールマーケティング担当者に対し、メールマーケティングを活用した様々なプロジェクトをプ譜で可視化し、3ヶ月から6ヶ月間共有し合うという活動を行いました。
この活動は長期間にわたってプ譜を更新し続ける初めての取組で、ここで可視化したプ譜を会社に持ち帰ることで、プロジェクトが進みやすくなったという声を聞くようになりました。ここで培ったプ譜を使うファシリテーションの経験が、プ譜をつかいMTGの進め方をまとめるときに大変役立ちました。
また、BenchmarkEmailさんでは会社全体のプロジェクトをプ譜で書き表し、さらに全体の部分を担う担当者一人一人が自分のプ譜をつくって、自分の仕事の目標設定と進捗共有を行っておられます。自分の仕事が全体のどこに位置付けられているのかを把握し、それを関連するメンバーと共有することによるメリットが明らかとなった貴重な機会になりました。
林さん、神田さん、bukyさん、michiさん、いつもありがとうございます。

●川尻沙織さん、マドレオホーツクのみなさん×プ譜のピアレビュー


マドレオホーツクさんには、夫婦の育児をテーマに、夫婦でプ譜をつくるというワークショップでおじゃましました。
プ譜をつかったワークショップでは「感想戦」というピアレビューの時間があります。これまでは異なる会社・部署同士の方と行うことが多かったのですが、夫婦という運命共同体が、最初は自分の考えるプ譜をそれぞれ書き、その後に互いの考えの違いを知り、一つのプ譜をつくっていくという経験は、構造的には企業組織・プロジェクトチームづくりにも活きるものです。
長者原さんの議事録としてプ譜を使うという指摘・提案とともに、プ譜をプロジェクトチームづくりのツールとして活用する可能性が拓かれたイベントになりました。
ちなみに、このイベント用に作成された画像を、プ譜の右下に入れて当日のワークシートとして配布してくださったのですが、このアイデアは企業研修をする際に、会社ロゴを入れたり、対象となるプロダクトの画像を入れるといったことに使わせていただいています。

●北原潤さん×プ譜をつかったプロジェクトチームの合意形成方法

北原さんはあるアパレルメーカーのスーパーバイザーです。アパレルショップの採用難や大型セールなどで、難しくなっている店舗のバックルーム改善プロジェクトを支援しました。
このとき、規模も環境も異なる店長を集め、一日缶詰になって改善プロジェクトのプ譜をまとめていった経験が、新著で提唱するプ譜をつかった合意形成の手法「My Project」→「Your Project」→「Our Project」に昇華されました。なお、この出会いは繊研新聞社の永松浩介さんが企画運営するセミナーで起きました。
永松さん、呼んでくださってありがとうございます。

●出水宏治さん×リモートで行うプ譜をつかったプロジェクトの進め方

出水さんとは私が運営している「なんで?プロジェクト」のプロダクト「なんで?カメラ」の開発にご協力いただいています。このプロジェクトにはDMM.make AKIBAの日野圭さんにも携わっていただいていますが、プロジェクト進行中、二度しか実際に顔を合わせなくてもプ譜の勝利条件をや中間目的を握っておき、そのプロセスを記録しておくことで、プロジェクトを進めることができるという経験を積むことができました。
なお、出水さんとは、sansan社の柿崎充さんが運営していたイベントにゲスト講師として呼ばれたときに出会いました。柿崎さん、あのとき表参道の道端でバッタリ出会っていなければ、なんで?カメラはできあがっていないです。呼んでくださってありがとうございます。

●東京経済大学藤井博さん、ゼミ生のみなさん×複数プロジェクトの推進をプ譜で支援する

画像に含まれている可能性があるもの:4人、テーブル、屋外

2019年4月から、東京経済大学の藤井ゼミで行われているPBL(Project Based Learning)で、
学生がグループに分かれて進めているプロジェクトの進行管理をプ譜で支援するという活動を一年を通じて行いました。
まだビジネスの実務やプロジェクトを進める経験に乏しい大学生の諸君に、プ譜の書き方を伝え、進行を支援するという仕事はとても難しいものでした。しかし、なぜうまくいかないのかを彼・彼女らのミーティングの様子や言動を観察し、対応方法を考えることは、プ譜を書き、チームのミーティングをファシリテートしていくためのスキル要件を定めていくための貴重な経験となりました。
なお、藤井さんとは、Future Sessionsの最上元樹さんが企画運営している「フューチャーセッションズ未来勉強会」で出いました。最上さん、検索して声をかけていただいてありがとうございます。次は、なんで?プロジェクトでご一緒できることを楽しみにしています。

●中村真悠子さん×プ譜をつかったプロジェクトの振り返り

中村さんにはあるプロジェクトの振り返りをプ譜で行う機会をいただきました。複数名いるプロジェクトメンバーと、新たに参加するメンバーとで、なぜこのプロジェクトを行ってきたのか。その想いと意思決定のプロセスを共有することで、途中参加する方であっても主体的にプロジェクトに関わっていってほしいという希望を受けて実施。
これまで「これから行うプロジェクトをバックキャスティングで仮想演習する」ことはやってきましたが、実施済みのプロジェクトを振り返り、プ譜に書き起こしていくことはやったことがなく、組織で言語化されていないプロジェクトのナレッジを残していくための活用方法を見出すキッカケになりました。

最大の特徴は「チーム」と「学び」

この他、社名やお名前は出せませんが、プロジェクトに関わる上での悩み、困難をオープンにしてくださり、それがプ譜を使うことによってどう改善されるのかという示唆・経験を与えてくださったみなさん。プ譜をプロジェクトを進めるための「共通言語にしたい」と言って、共に運用し、工夫を重ねてくさったみなさんに、あらためて感謝申し上げます。

また、これらのワークショップとは別に、宣伝会議のwebメディアで「あのプロジェクとはどう進んだのか?」という連載を行ってきました。
これは、実際に行われたプロジェクトのプロセスをプ譜で書き起こすというインタビュー企画だったのですが、ここでお話をうかがったキヤノンマーケティングジャパンの吉武裕子さんからは若手メンバーの教育視点。POLAの菅さんからは部門間のコンフリクトを乗り越えるための視点をいただきました。

このように第一作刊行後、様々な体験を積み重ね、そこで生じた課題や疑問を解決するための学習を行い、そしてまた実践するという繰り返しを経て、新著は出来上がっています。
最後に、第一作との違いを概念と実践とは異なる視点で表すならば、それは「チーム」と「学び」という言葉に集約することができると思います。

プ譜をプロジェクトを進めるためのチームの共通言語にしていくにあたり、いかに主体的にプロジェクトに関わってもらうかという問題が一番大きなハードルでした。「言ってくれればやりますよ」「これしか言われていないのでやっていません」問題は、多くのマネージャーが抱える問題です。
こうした問題に対して、プ譜がどのように機能し、効果が出せるのかについては、新著のなかで、「分業と分権」「与えられたプロジェクト自分のプロジェクトに変える」「自分で考えたことでなければ、責任を引き受けられない」といった内容で応えています。

そして、やったことのない仕事を「学んで成長の機会」として捉えられるかどうかは、その人の成長を大きく左右します。
この学びは一人で孤独にやっていてもなかなかうまくいきません。一人でやれる学習の方法はあるものの、プロジェクトという他者と関わりながら進めるもの。そして全体のなかでの部分として行動するという、メタ的に自分をとらえづらい環境において、マネージャーはメンバーの「学び」を支援し得る人物になります。

マネージャーがいかにメンバーの学び、ひいては成長を支援することができるかが、プロジェクトの成否を握る。プ譜がそれを支援するためのツールになり得るというところまでを書いて、もしご興味を持っていただけましたら、ぜひ新著をお手に取ってご覧いただければ幸甚です。


時節柄、どうぞ体調管理にはお気をつけください。

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