カスタマーサクセスとコミュニティを融合させる、「学びのコミュニティ」というアイデア

昨年、ドコモイノベーションビレッジで、サブスクリプションビジネスを対象に、KPIマネジメント、カスタマーサクセス、コミュニティマーケティングなどの手法について、全5回の勉強会を開催しました。

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一連の勉強会の中で、カスタマーサクセスとコミュニティという二つの考え方を融合させた、「学びのコミュニティ」というアイデアが生まれ、それを6ヶ月間試してみました。この記事は、「学びのコミュニティ」の成果や、取り組むに至った考えなどを整理・記録したものです。

●「学びのコミュニティ」とは?

今回試した「学びのコミュニティ」は、以下の定義になります。


  • 自社製品の導入顧客を対象とし、
  • 顧客のプロジェクトが進むための
  • 学びの場を提供する


この定義をもう少し補足すると、以下のような特徴があります。

・参加者の自社製品の習熟度はばらばらで構わない。
・ツールに習熟することが主目的ではなく、ツールを使って顧客のプロジェクトが進むことを支援するのが主目的。

例えば、動画制作・配信のSaasであれば、自社の動画制作ツールで動画を撮れるようにする、
或いは週に1本動画が制作できるようにするといったことを主目的にするのではなく、
顧客が動画を制作できるようになることで、顧客が最終的に成し遂げたい目標実現・課題解決を
支援するということです。


●カスタマーのサクセスにどこまでコミットするのか?

カスタマーサクセスを行っている企業それぞれに、カスタマーのサクセスの定義がありますが、
サクセスの定義には大きく2つあると思います。

A.顧客が自社製品の操作に習熟する。
B.顧客が自社製品を活用して、目標実現・課題解決する。

Bの方に目標実現・課題解決という言葉を使いましたが、Aの「操作に習熟する」ことそのものが
目標実現・課題解決になる製品もあります。
請求書を発行する手間や契約書などのリーガルチェックの手間を削減することや、イケてるデザインのhtmlメールを制作し、開封状況などを見られるようになること。
複雑で面倒だったことが簡単になった。
長時間かかっていたことが短時間ですむようになった。
できなかったことができるようになった。
といった、顧客の片づけたい用事・ジョブの解消が顧客の目標であれば、カスタマーのサクセスは成せています。

一方のBは、自社製品に習熟することは顧客の課題解決・目標実現の一施策・一手段であるという見方を取ります。請求書を発行する手間を削減した上で。動画を制作できるようになった上で、なお果たすべき目標が顧客にある場合がこれに該当します。

これは、自社製品のカスタマーサクセスをどう定義し、世に出すか次第でありますが、自社製品にできることと顧客が本当に成し遂げたいことがイコールであるか、それともその一部であるかに自覚的でないと(それを顧客と“握れて”いないと)、解約・他製品に乗り換えられてしまう可能性が高くなります。

Aの方が話は簡単ですが、Bの方はサクセスの難易度がはるかに高くなります。自社製品や社員によるサポートなどではコントロールしきれないこと、関与しきれない多くの要素があるからです。
これは最初に製品を開発するときに、顧客のどんなジョブを解決するかという「目のつけどころ」に大きく影響を受けるため、Saasに手を染めるのであればAを目指すべきと考えます。
ただ、AからBに移行することや、Aをベースに上位顧客向けの有償サービスとしてBに取り組むこともあるかも知れません。
話を「学びのコミュニティ」に戻しますと、「学びのコミュニティ」はBに対する施策になります。


●「学びのコミュニティ」はコンサルテーションではない。

「学びのコミュニティ」は、上述した「顧客が自社製品を活用して、目標実現・課題解決する」ことを目的とします。自社製品が、顧客が解決したい目標実現・課題解決の一手段という見方を取ると、顧客の目標というのは各社それぞれ違います。
動画制作のSaasを例にとれば、動画を簡単に制作できるようになった上で、「ECのコンバージョンを上げたい」「問合せ対応数を減らしたい」「商品認知度を上げたいなど」といったようなことです。
自社製品の利用目的が顧客ごとに異なると、その支援内容は多岐にわたってしまいます。
それを自社の社員がコンサルテーションし、サポートするというのは、よほど各方面の事情に精通し、経験豊富な人材を揃えていない限りムリでしょう。
では「学びのコミュニティ」で提供するものは何か、というと、私が実験したのは「プロジェクトの進め方を教え、ファシリテートする」というものでした。



自社製品の顧客6社の担当者を自社オフィスに招き、初回にプロジェクトを進めるための考え方と進め方のノウハウをお伝えします。そこで、自身の関わっているプロジェクトの状況を「プ譜」で可視化・構造化します。その後月に1回集まって、個々のプロジェクトの進捗状況を共有し合い、互いにプロジェクトを進めるための対策や知識をフィードバックし合うということを6ヶ月間行ったのです。(自社のカスタマーサクセス担当者も同席します)

以下が、実施したものです。
メール配信の施策からゴールまでを可視化する。プロジェクト力養成ワークショップを開講!


●「学びのコミュニティ」で起きたことと成果

6ヶ月間の「学びのコミュニティ」では以下のようなことが起きました。


  • 参加した顧客担当者の掲げたプロジェクト目標が達成された。
    プロジェクト力養成ワークショップ参加者インタビュー:株式会社繊研新聞社
  • 顧客のプロジェクトに大きな変化(軌道修正)が起きた。
  • 参加者間で自社製品の操作方法についての知見が交換された。
  • 個々の担当者のプロジェクトについて発表する中で、自分の知らない製品機能の話が出てくる。
  • そうなると、自然と製品機能情報や使い方の教え合いが、参加者間で起きる。
  • その上で不明点やもっと聞きたいことがあれば、製品担当者が答えたり、別途個別にサポートしたりした。


顧客のプロジェクトの状況を把握できるというのは、製品の利用状況という小さなカスタマーヘルスはもちろん、顧客のプロジェクトという大きなヘルスを把握することでもあります。状況を把握することができれば、自社製品のできる範囲内で、新たな機能の提案などを行うことができます。
また、個人的に重要と思えるのが、参加者間で製品に関する教え合いが起きたことです。これは、顧客サポートの手間が減るというメリットもありますが、それ以上に顧客の自社製品の使い方をその場で知ることができ、それが他の顧客にとってどのような意味・価値を持つかということも把握するメリットが大きいと考えます。
「学びのコミュニティ」は顧客のプロジェクトを支援するだけでなく、自社にとっても得るものがあります。製品の活用方法や活用アイデア、つまづいたところの把握は、プロダクトナレッジとしてブログコンテンツやFAQなどに活用することができます。もちろん、月に1回わざわざ自社にやって来てもらい、対面でコミュニケーションをとることも、今後のコミュニケーションに良い影響を与えるでしょう。


●「学びのコミュニティ」はSaasのカスタマーサクセスとコミュニティを融合させた活動

今回実験した「学びのコミュニティ」は少人数による、6ヶ月という長期間に渡って行いましたが、これが正しいやり方ではありません。自社製品の仕様、顧客の属性や顧客との関係性などによって、回数や期間、人数を調整すれば良いと思います。
「学びのコミュニティ」は、「顧客が自社製品を活用して、目標実現・課題解決する」必要のあるSaasを運営している企業にとって、一つの解になるのではないかと思いますが、まだ検証は十分ではありません。もし自社製品でも試してみたいと思う方がいらっしゃいましたら、ぜひメッセージください。

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