【往復書簡】組織・プロジェクトチームに、批判的思考を内包するにはどうすればよいか?



アキラからの手紙
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ここまで僕は、「これが、わたしのプロジェクトなのだ」と
プロジェクトに人がengageされる条件を思考・整理しました。

では、プロジェクトにengagementされやすい人は、どんな人でしょう?
どんな特長や、どんな特性を備えた人が「プロジェクト向き」なのでしょうか?
反対に「プロジェクトに不向き」な人は、どんな特長や特性を備えていると思いますか?
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長尾さん、明けましておめでとうございます。
私は三年前から年賀状をやめたのですが、新年早々だれからに何ごとをかを書くというのは、なんかいいもんだと思いながら、このブログを書いています。昨年、共通の知人の中田直希さんのFacebook投稿がで知己を得て以来、勉強会や対談の機会を頂き、プロジェクトにおけるファシリテートの機能、評価の方法などについて、新しい知見を得られたことに、感謝しています。今年もどうぞよろしくお願い致します。

そうそう、それと2018年のビッグニュースとして、学校設立決定もおめでとうございます!
学校創立という壮大なプロジェクトには、多くの関係者・支援者がいらっしゃることと思います。このニュースも、今回のお題である「プロジェクトにengagementされやすい人。プロジェクトに向いている人の特長・特性」を考えるにあたっての参考とさせて頂きました。

このお題を考えるにあたって、二つの前提条件があります。
一つ目は、「プロジェクトにengagementされやすい人・プロジェクトに向いている」ということで、その人はプロジェクトの発案者ではない、ということです。プロジェクトチームに所属するメンバーはもちろん、プロジェクトマネージャーであっても、それは会社や誰かから与えられたプロジェクトのマネージャーである、ということを前提としました。
二つ目は、プロジェクトには種類があるということです。私はプロジェクトを、「未知の要素があれば、それはプロジェクトたり得る」と定義しているのですが、未知の要素が少ないプロジェクトと、未知の要素が多いプロジェクトとで、プロジェクトに向いている人の特性が変わると考えます。


●プロジェクトには未知の要素が多いプロジェクトと、少ないプロジェクトがある。

A.
未知の要素が多いプロジェクトは、企業の新規事業など、その企業にとってまったく新しい分野に取り組もうとしたり、 新しい技術や素材を活用して新商品を創り出そうとするようなもの。インプットに対して出てくるアウトプットが予想しにくいもの。かかる時間が長い。

B.
未知の要素が少ないプロジェクトは、仕様がしっかり決められていて、自分たちの技術で十分成し遂げられるようなwebサイト制作などインプットに対して出てくるアウトプットが予想しやすいもの。かかる時間が短い。


これらの前提に立って、以下のように考えを進めてみました。


●未知の要素の多いプロジェクトと少ないプロジェクトとでは、プロジェクトメンバーに求められる特性が異なる。

A.
未知の要素が多いプロジェクトは、やったことがないため、事前に立てたプラン通りにいくとは限らない。想定外のことが起きる。そのため、立てた計画を途中で変更することを厭わないことや、先行きが不透明であったり、全体が見通せない状況に耐えられるといった特性が求められる。
よくプロジェクトでは、マネージャーの朝令暮改に不平が出るシーンがありますが、それを当然と思える、或いは平然と受け止められる特性があると良いと思います(もちろんその内容によりますが)。これは言い換えると、先の見えない事態、定常と違う状況に不安を感じないとか、細かい途中途中のゴール設定がなくても大丈夫といった特性になります。

B.
未知の要素が少ないプロジェクトは、予定通りに、できるだけ最短経路・最少コストで完遂する必要がある。そのため、プロジェクトメンバーには、事前に定めたこと・与えられたタスクを、間違いなく、スケジュール通りにこなしていくことが求められる。

このプロジェクトの種類の違いは、言い換えれば「自由・裁量度の高い仕事を好む人」と「明確な指示のある仕事を好む人」との違いとも言い換えることができると思います。
このように、プロジェクトの種類によって求められる特性が異なると、そうした人々に指し示すものも変わってきます。未知の要素が多いプロジェクトの場合、事前に定めたプラン通りにいかない以上、細かく計画や内容を定めるよりも、全般的な企図と達成すべき目標だけを示して、あとの細かな進め方は状況に応じて変えて良いとする、「ドクトリン」のようなものが適しているでしょう。ドクトリンとは、軍事における「行動の指針となる原則」のことですが、プロジェクトにも応用できる概念だと考えます。
一方、未知の要素が少ないプロジェクトの場合、作業の手順・手続きなどを細かく定めた「マニュアル」が適しています。

私は今、ドクトリンとマニュアルについて述べましたが、これはプロジェクトマネージャーの性格・タイプにも当てはまります。大まかな方針は示すものの、細かなことはメンバーに任せるタイプのプロマネと、手取り足取り、細かく指示を出して管理して進めていくタイプのプロマネが存在します。


ここまでプロジェクトの種類の違いについて述べてきましたが、ここから先はプロジェクトの種類に関わらず、「プロジェクトにengagementされやすい人」の特性について考えたいと思います。

“されやすい”と書くと、プロジェクトのビジョンや社会的価値への共感度が高いというか、感化されやすいというイメージを私は持ってしまったのですが、これは表現を変えるなら、「他者のプロジェクトに乗っかることができる、面白がることができる力」と言えると思います。
素直に、「それ、いいね!」と感じることができる力。それへの共感を表明することのできる性格のようなものが、まず第一にあるかと思います。

次に、「社会的随伴性」の高さも重要な特性と考えます。私たちは、他者に働きかければ、他者は自分に働き返してくれることを知っています。赤ちゃんに微笑みかければ微笑み返してくれるといった「随伴性」は、物理的なものであればほぼ完全なものですが、人間や組織となるとこの随伴性はとたんに不完全なものとなります。
プロジェクトを進めていく上で、メンバーは大なり小なり、「この進め方で合っているだろうか?」という不確かな気持ちを、マネージャーであっても一メンバーであっても抱えています。そうした気持ちやサインを互いに発し、気づき、応答することのできる力が、engagementのされやすさに影響するのではないでしょうか。

最後に、「信じる力」を挙げます。この力を挙げるにあたって社交ダンスを例に取って説明します。
カップルで踊る社交ダンスでは、リード役をつとめる男性を「リーダー」と呼び、リードを受けてフォローを行う女性を「パートナー」と呼びます。非定型の社交ダンスでは、リーダーは会場の刻々と変わる周囲の状況をキャッチしながら、それに合う振りをその場で考え付かなくてはいけません。「次はこのように踊ろう」と決めたら、それをパートナーに対してリードするのですが、その全責任はリーダーにあるので、女性がフォローに失敗した場合、責任はリーダーが取ることになります。
責任を取ると書くと、ではパートナーはリーダーに任せるままで良いのかというと、そうではありません。パートナーには”Part”nerという文字通り、リーダーの一部となる覚悟がいります。リーダーの器を信じ、判断を信じることができなければ、ダンスを踊り切ることはできないのです。

・・・と、ここまで書いてきてずーっと言いたくて仕方ないのは、プロジェクトに乗っかれる力も、社会的随伴性も、信じる力といった個人の資質は重要なれど、畢竟プロジェクトは、マネージャー(リーダー)、メンバー、環境といった要素が相互に影響し合うものであるということです。
どのようなタイプの人がプロマネを務めるか、どのような種類のプロジェクトにアサインされるかで、本来備えている特性が正に発揮される人もいれば、負に発揮される人がいます。こうした相性や関係性を自覚して整えていくことができれば、メンバーのengagementを高めていくことができるのではないでしょうか。

さて、今年最初の長尾さんへの質問ですが、今回のブログで言及した「共感度の高さ、感化されやすさ」から考えついたものにしたいと思います。
近年、クラウドファンディングをはじめとして、様々なプロジェクトが起こっています。このプロジェクトを成立=目標とする寄付金額に到達するために、運営者からはなるだけ他者の共感を呼ぶようなストーリーづくり、写真や動画の制作などを求められているそうです。クラウドファンディングに限らず、オンラインサロンやオンラインコミュニティでも色々なプロジェクトが起こっていますが、ソーシャルメディアが普及したことで、多くの「いいね!」やシェアを集めることがプロジェクトのスタートダッシュや成否を左右します。
この状況は、人々の共感のしやすさを助長しているように私には移るのですが、盲目的な共感だけでプロジェクトを進めて良いのかという疑問があります。
もちろん、誰もが「このプロジェクト、うまくいくのかなぁ・・・?」と疑っているプロジェクトがうまくいく訳がありません。ただ、どこかに「この進め方で合っているだろうか?もっと良い方法があるんじゃないだろうか?」と考える人がいなければ、間違った問いに全社一丸となって全力で正しく答えた結果、プロジェクトが失敗に終わってしまいます。
これは一見矛盾したことを言っているように聞こえるかも知れないのですが、「組織・プロジェクトチームに、批判的思考を内包するにはどうすればよいか?」と問わせてください。
どうぞよろしくお願い致します。

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