予定通り進まないサブスクリプションビジネスの進め方

2018年9月13日に、サブスプ勉強会第1回『サブスクリプションビジネスのKPIとその作り方・使い方』と題した勉強会を開催しました。



この勉強会のタイトルをご覧頂いた方は、きっと著者を、「シミュレーションのことをシュミレーションと言う人だろうな」と思われるかも知れませんが、間違いなく「サブス」です。サブスク勉強会ではありません。このちょっとややこしいタイトルをつけた理由、すなわちこの勉強会を企画した意図からご紹介致します。

私はプロジェクト・エディターと名乗って色々なプロジェクトに関わっておりますが、今も続いているサブスクリプションビジネスが二つあります。
一つが、私の長女の離乳食づくりの苦労から発案した魚の離乳食の定期通販サービス「mogcook(モグック)」です。



もう一つは、BtoB向けの月額定額の動画撮り放題サービス「1Roll for business(ワンロール)」



この商材のまったく異なるビジネスにおいて、事業立案者としてプロマネとしてマーケターとして広報として営業として、サブスクリプションビジネスに必要な新規顧客の獲得、トライアル客の本申込み率(CVR)向上、継続率の向上(解約率の低下)のために、色々な施策を行ってきました。この他にも、諸事情で公開できないサブスクリプションサービスに関わっている中、今なおこれらのサブスクリプションサービスの勝ち筋を見つけるべく、試行錯誤を繰り返しています。

そんな中、ひげそり、おむつ等の生活必需品から始まり、車、おもちゃ、洋服、アクセサリー、飲食料品などにもサブスクリプションモデルが登場し、そしてそれが現れては消えていくのを見て、私と同じように試行錯誤を繰り返しているプロマネや各種の担当者がいるのだと思うと、サブスクリプションビジネスに関する言説や事例を学び、それを自らのビジネスで実践して得たナレッジやアイデアを収集・共有することで、それらのビジネスの成功率を上げることができないかと考えたわけです。(もちろん、それによって自分のビジネスもより我々のサービスを必要としてくれる人に多く提供していきたい!スケールしたい!!)

ただ、そうした成功事例というのは、あまり転がってはいません。そこでサブスクリプションビジネスに必要と思われる様々なモノゴトを学ぶための、シリーズものの勉強会を企画することにしました。

そもそも、サブスクリプションビジネスとはどういったビジネスモデルなのか。従来の売り切りモデル、そして昔からあった定額制ビジネスとは何が違うのか。そんな基本的なことから、サブスクリプションビジネスを推進するであろう、3つのCを学んでみたいな、と。


  • カスタマーサクセス Customer Success
  • コミュニティマーケティング Community Marketing
  • コンテンツマーケティングかコーチング Content marketing Coaching(コーチングというのは、サブスクにおいて顧客とベンダーの関係性が再編集されると考えており、その時にコーチングが有効な手法になるのではないかと考えたためです


・・・まぁ、4つのCでも、3C+なんとかでもいんですけど、ごめん、かっこよく言いたかった。


これらを学ぶために、『カスタマーサクセス』の翻訳者、コミュニティマーケティングについての書籍『熱狂顧客戦略』の著者の方々をゲスト講師としてお招きし、講演頂くことにしました。(その他のテーマは検討中なので、ぜひお気軽にリクエストメッセージ下さい)



このシリーズ勉強会の第1回が、今回開催した『サブスクリプションビジネスのKPIとその作り方・使い方』勉強会だったのです。勉強会の内容をご紹介するにあたっては、ゲスト講師の林直幸さんのブログ『サブスクリプションの分析note』をご覧頂くのが一番なので、ぜひこちらを精読して頂ければと思います。


勉強会は林さんがnoteでお書きになられている内容に加え、サブスクリプションビジネスのモデル化ワークショップなどを行って頂きました。その様子は下記の動画でご覧下さい。


この日参加された方の半分は、既にサブスクリプションビジネスに取り組んでおられ、もう半分がこれから取り組もうとしている方々でしたが、動画にもあるように、林さんがかなり実践的な内容に踏み込んで頂いたので、事業計画書を書いておられる方や、数字を回しておられる方には大変役立つ内容だったのではないかと思います。ご登壇頂いた林さんに本当に感謝です。


林さんのスライド1枚1枚を逃すまいと撮影する参加者のみなさん


第1回勉強会の後は、10月にカスタマーサクセス、コミュニティマーケティングについて勉強していきますが、ここで学んだことを実際のプロジェクトで実践し、得た教訓やノウハウをコミュニティで共有していこうと考えています。この共有を行う際、当事者でない人でもなるだけ理解しやすく、ノウハウ提供者ができるだけラクにその内容を記録・発表できるよう、プロジェクトのプロセスを記述するフォーマット、『プ譜』を使用します。

プ譜は拙著『予定通り進まないプロジェクトの進め方』で提唱しているものですが、実際にどのように記述するのかを、あるサブスクリプションビジネスを例にとってご覧頂きます。

まず、プ譜について簡単にご紹介しましょう。
プ譜は、プロジェクトの最終目標が「どうなっていたら成功と言えるのか」という判断基準である『勝利条件』を設定し、それを果たすための『中間目的』、そしてそれぞれの中間目的を果たすための諸『施策』をゲーム木の要領でつないでいくものです。



今回林さんに教えて頂いた「サブスクリプションビジネスの3つの重要指標」―『解約率』、『定期利益率』、『成長効率性指標』を、この中間目的に当てはめてみたのが下の図です。(※なお、ここから先は林さんに教えて頂いた内容の他、KPIマネジメントに関する書籍から私が学んだ内容を、私なりに解釈したものになりますのでご了承下さい)




この中間目的は「Key Result」と言い換えることができ、施策は「Key Action」と言い換えることができます。「Key Result」とは、「あるべき状態」という意味で、自社のサブスクビジネスにおける3つの重要指標の「あるべき状態とは何か?」を、どう表現するかが重要になってきます。実際に、CM制作プロダクションがつくったサブスクリプション型の動画制作ソリューションを題材にして、3つの重要指標の「あるべき状態」を下記のように表現してみました。


  • 解約率を下げる →「クライアントが月平均N件以上動画を制作している」
  • 定期利益率を上げる →「(オプションメニューの)学び放題プランの加入率を上げる」
  • 成長効率性指標を下げる →「トライアルアカウントからの本申込率(CVR)を上げる」


こうした中間目的を設定した上で、それぞれの中間目的を果たすための具体的な施策を考えていきます。



この時に注意しなければいけないのは、世の中の事例や言説で紹介される他者の中間目的(Key Result)や施策(Key Action)は、自社のサブスクリプションビジネスには該当しないということと、
勝利条件をいかに表現するかによって、中間目的の表現も変わるということです。

今回つくったプ譜には書いておりませんが、プ譜には『廟算八要素』というプロジェクトを進めるためのメンバーや予算、保有する技術やスケジュールといった所与のリソースを記述する欄があります。自分たちのリソースによっては、他者が行っている施策は行えませんし、サービスの内容(料金、契約形態など)によっては、他者の中間目的の表現をそのまま使うことはできません。また、勝利条件の表現を、「スキルや経験のない事業会社の担当者が、動画を内製できるようになる」とするのと、ターゲットを絞って「Eコマース担当者が動画を使って売上をアップさせている」とするのとでは、中間目的の内容はまったく違うものになり、それに伴い施策の内容もガラリと変わってきます。

また、ここで早合点頂きたくないのは、今回私はサブスクリプションビジネスにおける3つの重要指標をすべて中間目的に置きましたが、ビジネスのフェーズにおいては、中間目的にこれらの3つの指標を置くべきとは限らないということです。
立ち上げ期においては、新規獲得数と成長効率性指標が相応しいかも知れないし、定期利益率はもう少し後のフェーズで考えた方が良いかも知れない。(3つの重要指標を見越しておくことは必要だと思いますが)。このようにビジネスの内容、フェーズによって、プロジェクトの進め方の構造は全然違います。

だからと言って、そこから学ぶことができないという訳ではありません。プ譜は、ただ文章で事例を読むのと違い、プロジェクトの構造を可視化したもののため、自他の違いがより整理して理解しやすく、穴埋めドリルをやるような感じで「他社はこうやっているけど、自社ならこうできるかな」と考えやすいというメリットがあります。

今後の勉強会を通じて、こうした自他のサブスクリプションビジネスのプロジェクトをプ譜で記述・更新したものをそれを収集・共有することで、プロジェクトを進めるためのナレッジやアイデアを得ることができるのではないかというのが、このシリーズ勉強会の企画背景であることは述べました。

このプ譜を収集・保存することを「アーカイプ」と呼び、この勉強会のコミュニティに参加しておられる方々に共有していきます。



このアーカイプは、サブスクリプションビジネスのプロジェクトを進めていく上で、重要な局面があるごとに、将棋の棋譜のように更新していきます。最初に設定した中間目的(Key Result)や施策(Key Action)を行った結果、それが機能したか?適切だったか?顧客や見込客はどんな反応を示したか?それによって、設定した中間目的や施策を変更しなければいけないことがあるかも知れません。遭遇した事象や情報によってKPIをどうアップデートしていくか、といった意思決定や試行錯誤がプ譜に現れることで、より価値のあるナレッジが蓄積されていきます。




そして、このアーカイプをつくると共に、一つやってみたい企画が私にはあります。

私は中学校卒業後、歴史の勉強を目的に中国に留学したのですが、その際日本から持っていった唯一の日本語書籍がKOEIのシミュレーションゲーム、『三國志』に登場する武将をまとめた『三國志Ⅲ武将ファイル』でした。
この武将ファイルに範を取り、サブスクリプションビジネスプロジェクトに携わっている方々の、「プ将ファイル」をつくりたいのです。



だれだれさんは食品系のサブスクリプションビジネスを成功させた人で、これこれの術(すべ)に長けているとか。
なにがしさんは大企業とベンチャーでXaas系のサブスクを立ち上げ、オープンイノベーションの知見が豊富であるとか。

こんなデータというか評判のようなものを、プ譜とともにつくっておくことで、個々のプ将のキャリアアップや新しい仕事の受発注につながればいいなぁということを夢想しています。

そんなこんなで、次回の勉強会は10月を予定しておりますので、勉強会に参加してアーカイプづくりに興味が持って頂いたり、プ将ファイルにINDEXを希望される方は、ぜひお気軽にFacebookなどでメッセージ下さい。


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プ譜についてもっと知りたいな、と思って頂いた方は、ぜひ下記よりご購入くださいませ。

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