Social Design Salonさんで、プ譜を使ったワークショップを開催しました。

2018年5月13日、Social Design Salonで、拙著『予定通り進まないプロジェクト』で提唱する、『プ譜』を使ったワークショップを行わせて頂きました。


Social Design Salonは、『ビジネスモデル2025』『ワーク・デザイン これからの〈働き方の設計図〉』などの著書があり、近未来の社会や次世代ビジネスのトレンドを紹介するメディア『Social Design News』のファウンダーでもある長沼博之さんが運営するビジネスサロンです。

Social Design Newsは、新規事業担当者や起業を志す方々が一度は見ているメディアではないかと思います。起業家のはしくれであった私も、特に社会的インパクトのある、Social Goodの要素の強い事業アイデアを、本メディアを通じて知ることがあり、そのサロンでワークショップの機会を頂けたことに、たいへん感謝しております。


今回のワークは、Social Design Salonのメンバーの皆さんが進めている(或は始めようとしている)プロジェクトを、プ譜を使っていかに進めていくかという趣旨で行いました。
不動産、自動車、空間設計、ワークスタイル、人材育成、BPOなどをテーマにしたプロジェクトをお持ちのみなさんが、それぞれ以下のような理由、目的で参加されました。

  • PMBOKなどプロマネ用語が通じない人が増えてきた。そうした用語がなくてもプロジェクトについての意思疎通ができる手段としてプ譜に注目した。
  • 出来上がった業界のビジネスモデルで、新しい事業に挑戦したい。
  • 社内でアングラで進めているプロジェクトを、正式に会社の事業に「昇格」させたい。
  • 従来の会社業務では扱わなかったようなテーマ、ジャンルのプロジェクトが増えてくると思い、その進め方のヒントを得に来た。
  • ずっと業務請負でやってきた会社の新規事業を担わなければならない。

プログラムは下記の内容です。

  • 長沼さんによるご挨拶と参加者の自己紹介
  • プロジェクト工学、プ譜概説
  • 感想戦を行うパートナー選びのための自己プロジェクト紹介
  • プ譜制作ワーク
  • 感想戦


まずは、その模様を動画レポート(ダイジェスト)にしましたのでご覧下さい。



みなさんが制作されたプ譜は内容上公開できないため詳細は割愛致しますが、感想戦の中でこれはと思ったトピックをいくつかご紹介致します。


  • ネタファーストとモデルファーストのプロジェクトの進め方
  • やったことのないプロジェクトの評価軸をどうつくるか?


先に、感想戦について補足します。
「感想戦」とは、対局終了後に棋士が行う「振り返り」のことです。開始から終局まで、または勝負所となった局面を再現し、自身が指した手についての良し悪し、実戦では指されなかった指し手についてのシミュレーションや、その局面における最善手などについての検討を行います。
ワークでは、互いのプ譜を説明し、それに対して「こうした方がいいよ」という提言より、「なぜ、その手をうったのか?選択したのか?」といった質問を中心に据えて行って頂きました。(その理由は後述します)
(※なお、プ譜を使った感想戦については、『予定通り進まないプロジェクト』の第6章をご覧下さい)


●ネタファーストとモデルファーストのプロジェクトの進め方

これは長沼さんが感想戦の際にお話されていたことですが、プ譜を作成する上でとても参考になるため紹介させて頂きます。
参加者の方に、ずっと業務請負型のビジネスを行ってきて、初めて新規事業に取り組もうとしているという方がいらっしゃいました。その方の課題は、新規事業を行った経験がまったくないため、どのようにして進めていけば良いかわからない、ということです。
プロジェクト工学勉強会に参加されている方の名刺を拝見すると、「新規事業企画室」や「経営企画室」という肩書が多いですが、みなさん一様に上述の課題を抱えていらっしゃいます。
この課題に対して長沼さんがお話されたことは、以下のようなことでした。(前田の私見も交えて箇条書きにして書きます)


  • 新規事業には、ネタファーストのものと、モデルファーストのものがある。
  • ネタとはクリエイティブなコンセプトや(広義の)発明。
  • モデルとはビジネスモデルや技術。
  • モデルには、Uberモデル、Grouponモデル、メルカリモデルなど、過去成功したビジネスモデルの型がある。
  • それらのモデルの内、自社の状況や条件に適合したり、アセットを活かせるものを選ぶ。
  • モデルに型がある分、打つべき施策も決めやすく、関連ベンダーなども存在する。
  • ネタファーストは、類似するビジネスモデルがない場合、一から構築する必要がある。
  • その分、創造的でクリエイティブである。
  • 類似するビジネスモデルがなくとも、アナロジーを働かせ、異なるビジネスモデルや世の中や自然の仕組、歴史上の出来事などから着想を得ることはできる。


こうしたお話をふまえると、プ譜にも「そのジャンル・テーマの新規事業を進めるための“定石”」があると考えることができます。
定石とは、「囲碁で、最善とされる決まった打ち方。転じて、物事を処理する時の、決まった仕方」のことです。

この事業をやるなら、こんな運営体制をつくらなければならない。あんな調達をしなければならない。なにがしの法知識に詳しくなっておく必要がある等々。世の中には成功事例があふれておりますが、事例とは本来「個別具体的な状況に癒着」しているものです。それを、ビジネスメディアやセミナーなどで紹介される事例を見聞きして、そっくりそのまま行おうとしてもうまく進むはずがありません。

事例の癒着している部分をベリベリと引き剥がし、自社の条件や環境に適した形に再構成する必要があります(本書では、P151の「アナロジー」で詳しく紹介しています)。その一つの手段として、ある業界で、ある事業を行うにあたっての、第一局面となるプ譜をつくることができるのではないかと思います。それらのプ譜があれば、定石は示しつつ、自社リソースに応じたプロジェクトの進め方をイメージできるはずです。
話を戻しますと、モデルファーストには定石となるプ譜が存在する一方、ネタファーストには定石となるプ譜は存在しません。だからこそ、そのプロジェクトが成功すれば、その道の第一人者になることができます。私にはそれがとても魅力的に映りますが、みなさんはいかがでしょうか?


●やったことのないプロジェクトの評価軸をどうつくるか?

会社の中で、新規事業を行う立場にさせられてしまった方には同情せざるをえません。別に自分がやりたいテーマでもないのに、会社がやったことのない事業のプロジェクトを担わされる。そうした時、最も悩まされるのは、そのプロジェクトの評価軸をどうつくるか?です。

本書P75のプロジェクト工学の第一法則でも述べていますが、「やったことのない仕事の勝利条件は、事前に決められ」ません。勝利条件とは、プロジェクトの最終的な目標の成功判断の基準のことです。この勝利条件を、仮に「初年度の売上1億円」と設定すれば、それを果たしたか否かが評価基準になります。しかし、事前に定めた勝利条件は、プロジェクトが進むつれ、新たなプレイヤーの参入、法規制、プロジェクトメンバーの出入りなど、様々な想定外に見舞われ、一切の目算を下回ることが常です。

そうした予期せぬことに四苦八苦しながら、どうにかプロジェクトのつじつまを合わせ、その勝利条件を更新していく―つまり、プロジェクトの勝利条件は変更し得るものであるということを我々は提唱しているのですが、プロジェクトがそうした性格のものであるということを抜きにして、最初に定めた勝利条件で評価するというのは酷、というものです。

最初の評価基準はあくまで「仮」とすること。
ただし、勝利条件は変えていいんだゼと、自分に都合のいいように自由気ままに改変していくことはできません。そうでなかったとしても、そういう印象を評価者に与えることは得策ではありません。そのためには、プロジェクトのプロセスの記録が必要で、その記録ツールとしてプ譜が存在します。
もう一つ、評価軸をつくるにあたってのポイントがあります。それは勝利条件だけを評価対象とするのではなく、主要成功要因(CSF)を設けておくことです。プ譜ではこれを「中間目的」と呼んでいますが、勝利条件を果たすために細分化・ドリルダウンした目標のことです。


この中間目的の存在が、もし勝利条件が果たせなかった時の評価における「落としどころ」になります。評価者とはこうした中間目的やプロセスを記録したプ譜を共有しておくことを、強く推奨します。

Social Design Salonでは様々なジャンルのプロジェクト存在し、その多くが未知の、ネタファーストのプロジェクトが多い印象を受けますが、そうしたプロジェクトほど、やったことがない故に、成功させることが難しいものでもあります。
今回のワークショップが、少しでもみなさんのプロジェクトが進む一助となれば、これに勝る喜びはありません。
最後に、あらためてこのような機会を与えて頂いた長沼さん。勉強会に参加頂いたみなさんに感謝申し上げます。ありがとうございました!

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