第5回 プロジェクト工学勉強会 書籍刊行記念回レポート

2018年3月2日に、ドコモイノベーションビレッジで、プロジェクト工学の書籍『予定通り進まないプロジェクトの進め方』の刊行記念として、第5回プロジェクト工学勉強会を開催しました。

 

今回は、これまでのアンケートで要望の多かった、「歴史的な出来事や、映画・マンガなどを例にプ譜をつくる」ワークを行いました。
初めて「プ譜」を知るという方のために、概要をご紹介致します。

『プロジェクト譜』とは、工学の3原則、「観測」、「記述」、「制御」にのっとった、プロジェクトの「可視化」、「仮想演習」、「編集」ツールです。


プロジェクトの「ゴール」(プ工学では「勝利条件」と称します)、そこに到達するための「中間目的」、「中間目的」を実現するための「施策」。そして、プロジェクトを行うための所与の条件、たとえば「人材」、「予算」、「技術」、「品質」、「環境」などの「廟算八要素」といった構成単位があります。

これらを一局面一シートで記述し、プロジェクトのプロセスを可視化することで、プロジェクトマネージャーの認知的負荷を減らし、これをメンバーやステークホルダーと共有することで、意思の統一(見解の齟齬)、個々のメンバーの仕事が他者にどのような影響を与えるのか、また諸施策が全体の戦略にどのような影響を与えるのかといったことをわかりやすく伝えるというメリットがあります。

今回の勉強会では、歴史的な出来事や、映画・マンガなどを題材にプ譜を作成するということで、
参加者のみなさんは下記のようなタイトルを持参されました。

・1日外出録ハンチョウ
・星の王子様
・ONE PIECE
・STAR WARS Ⅳ
・アルカポネ
・アンパンマン
・ちょうと三つの石
・デスノート
・ピンポン
・プータロー、アフリカで300億円、稼ぐ!
・機動戦士ガンダム
・めしにしましょう
・功名が辻
・三度目の殺人
・誰も知らない天照大御神の岩戸開きの真相
・美味しんぼ
・ウルトラマンガイア

これらの物語をプロジェクトとして、プ譜でどう表現することができるのか?
みなさんが作成されたプ譜を紹介する前に、勉強会でお伝えしたプ譜作成のポイントを紹介します。

上記のタイトルをご覧になって、短編、単話はともかく、ONE PIECEやSTAR WARSなどの長編ものをどうプ譜にできるのだろう?と疑問に思われないでしょうか。
これは『予定通り進まないプロジェクトの進め方』の終章でも述べていることですが、プ譜は対象とするプロジェクトの粒度によって、表現が変わります。

例えば、ONE PIECEを例にとれば、プロジェクトの最終的なゴールは「海賊王に(オレは)なる!」です。そのための中間目的として、だれそれの敵を倒すとか、仲間をそろえる、船をつくるというものがあるでしょう。
(※私は上述のタイトルのいずれもちゃんと見たことがないため、憶測になることをご容赦ください)
これはプロジェクトの粒度としてはとても大きいものです。
プロジェクトと大筋をイメージするにはそれでも良いですが、より具体的な局面を描くにはシートが足りなくなります。そこで、粒度を小さくします。

下図のプ譜をご覧下さい。


これはONE PIECE第88巻の「サンジ奪還プロジェクト」をプ譜にしたものです。
サンジ奪還のための中間目的、施策が描かれていますが、こうした個別の中間目的や施策を粒度の高いプ譜では書くことができません。

大筋の「海賊王に(オレは)なる!」というプ譜が最上位にあり、その下に「サンジ奪還」やその他の粒度の小さいプ譜ができます。
つまり、「海賊王に(オレは)なる!」というゴールに到達するためには、サンジを奪還するなどの勝利条件を果たす必要がある、という入れ子構造になります。
もっとも、サンジの奪還というのは、ルフィたちにとっては想定外であったでしょう。
しかし、そのプロセスでまた強くなることができるというのも、漫画ならではのストーリーですが、現実にも想定外の出来事に対処した結果、新たな経験・知識を獲得し、プロマネとしての力量は上がる訳です。
そう考えると、想定外に遭遇した際は、「これを乗り越えればオレは強くなる!」という心持で挑めるというものです。


次に紹介するのは「星の王子様」です。


2個目以下(中段)の中間目的はプ譜を制作した方が、実際の物語にはないものを描かれています。
人っ子一人いない砂漠に不時着した「僕」は、飲み水の残量から、8日の間に帰還しなければなりません。王子様は横から口を出してくるし、焦り・いらだちは募るばかり。
そうした状況において、「僕」がとった施策は、自分一人で飛行機を修理するというものでした。

この「一人で修理する」という言葉に共感しないプロマネはいないでしょう。
外野は口ばかり出してくる。手を動かすのは僕だけだ。という孤立感のなかで、仕事をしている方も少なくないのではないかと思います。
でも冷静に考えれば、王子様や生き物(物語では生き物は言葉を話すので)にも修理を手伝ってもらえないか、掛け合うことができたかも知れません。

ここで紹介したいプ譜制作時のポイントは、プロジェクトに挑む際、廟算8要素に記述する内容は、
プ譜の記述者の心理、態度によって変化するということです。
焦りや苛立ちが先に立っている場合、王子様は「外敵」です。
しかし、落ち着いて会話することができた時、王子様は「メンバー(仲間)」になるかも知れません。
プ譜は自分の頭や心の中にあるものを外に出す(外在化する)ことで、事象に対して頭の中だけで考えるよりも
客観的に向かうことができるというメリットがあります。


最後にご紹介するのは「アンパンマン」。


アンパンマンはバイキンマンを改心させるという勝利条件のために、ショクパンマンというメンバーを使ってドキンちゃんを篭絡しようとしたり、日々のパトロールを欠かさないといった施策を取っています。
しかし、アンパンマンの世界のキャラクターは、「目標を失うと消滅する」という悲しき宿命を背負っています。
つまり、バイキンマンを改心させてしまうと、アンパンマンは消滅してしまうわけです。
この秘話は映画で語られていたそうですが、興味深いのは、ここではアンパンマンが、死なばもろとも、「自分は消滅してもバイキンマンを改心させる!」とはならず(そうなれば、物語は終わってしまうので、そこは大人の事情も)、「バイキングには巨ようん範囲内で悪さをさせる(放置する)」というふうに勝利条件を更新します。
プロジェクトでは、当初描いた計画通り進むことがなかなかありません。
外部環境は変化していくし、自分が打った施策の結果、状況が変化し、新たな制約条件が生まれる。
プロジェクトを進めるにあたって、思いもしなかった情報を得ることもあるでしょう。
この時、当初の勝利条件に固執するのか、それを更新して新しいプランを描くのか。
本書ではその考え方についても触れておりますので、詳しくはぜひ中身をご覧になって頂ければと思います。

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