「働き方改革のルル三条~ツール編」勉強会レポート

2018年2月1日に、『働き方改革のルル三条 ~ツール編 課題別のツール紹介、導入・運用方法のナレッジを、西海岸の風にのせて』という、かぜ薬のCMのような、フレンチレストランのタイトルのような勉強会を開催しました。

働き方改革に、ルル三錠のようにすぐ効く処方箋があるわけではありません。
ルル三条とは、編集工学研究所の松岡正剛氏が唱えたもので、ルール、ロール、ツールの3つからなります。
ルールは「制度、規則」。ロールは「役割」。ツールは「道具」です。

なぜ、ルル三条なのか?を説明する前に、働き方改革の背景について理解しておきましょう。
下図は、2017年11月に開催されたcxdayで、ライフネット生命会長の出口治明さんが講演されていた内容をもとに作成したものです。

社員に健康でいてもらわなければならないため、残業を禁止し、残業をせずに済むよう生産性を上げる仕事の仕方をする必要がある。
出産や介護などでフルタイム働けない人に働いてもらうために、リモートワークや短時間勤務できるようにする必要がある。
それらの体制や規則をつくるために、昔からある様々なサービス、ソリューションが、働き方改革という大きな傘のもと、すべてが「働き方改革ソリューション」な様相を呈しています。

そんなある日、突然、「キミ、働き方改革を推進したまえ」というミッションが下りてきた方にとっては、何をどのように始めてよいかわかりません。

そこでこの勉強会では、すべてが働き方改革ソリューションな状況を、ルール、ロール、ツールのルル三条で整理し、どのような課題に対して、どのようなツールが効き目があるのか。そのツールはどのように会社で使えば良いか。
そんなツールの情報交換と、導入や運用の工夫を知ろう、ということを目的にしました。

今回、ツール編としたのにも理由があります。
ルール、ロ―ル、ツールを比べた時、会社の規則や制度といったルールは最も動かし難いものです。
また、経営層や上長といったロールの意識変革や、新たな役職・役割を創り出すことも困難です。
しかし、ツールだけは、一人だけでも、無料(トライアル)利用できるものがあり、ルールやロールに比べれば、個人の裁量で試してみることができます。
そのお試しの中で何らかの成果を実感することができれば、それを糧にルールやロールに働きかけ、影響を与えることができるかも知れない。

そんな意図から、本勉強会を「ツール編」とした次第です。
そして、なぜ西海岸かといえば、こうしたツールの導入・活用について、会社の理解があったり、個々人のリテラシーが高かったりするのは、外資系、特にアメリカ西海岸のかおりのする企業の方々であろうというまったくの独断と偏見に基づき、下記の皆様にゲストパネラーとしてご登壇頂きました。


今回の勉強会では、下記のようなアンケートをつくり、お勧めツールやその効果。ツール導入にあたっての課題や工夫について伺いました。


紹介されたツールや悩みの一覧は下記のスプレッドシートをご覧下さい。
(「紹介されたツール」、「こんなツールがほしい」、「導入時の困りごとと工夫」の3つのシートがあります)


勤怠管理、コミュニケーション改善・向上、カスタマサポート、ファイル共有、タスクの進捗管理、経理・法務作業の効率化など、様々なツールが紹介され、悩みの相談が行われましたが、
このブログでは特に気になった点を選んで問題提起したいと思います。


●100%課題にマッチするツールはない
参加者のみなさんから挙げられた課題に対して、いくつかのお勧めツールが紹介されましたが、どのツールも一長一短ありで、残念ながら課題に対してドンピシャにハマるツールはありませんでした。
これが示唆するのは、ハマらない部分は人間が埋めていくしかないということです。それが嫌ならSierにオーダーメイドでつくってもらうしかない(こうした案件は往々にして、炎上プロジェクトの可能性を孕んでいるものですが)。
例えば、複数人によるMTGのスケジュール調整は面倒な作業です。こんな時、Googleカレンダーの情報を見て、あいている所を選んで自動的にMTGを設定してくれるツールがほしいという声がありました。
その一方、数時間なにも入っていないカレンダーは、実はなにかしら考えたりする時間に使いたかったので、そこに予定は入れてほしくない、という声もありました。
会議のスケジュール調整に特化したパーソナルアシスタントサービスには、「x.ai」や「Clara Labs」、「Julie Desk」などがあります。x.aiをGoogleカレンダーと連携させると、ただ空いている時間に会議を設定するだけでなく、「会議は午前中にまとめたい」「金曜は会議を入れない」「1回の会議は最長1時間」といった希望に応じてくれるそうです。(参考 https://amp.review/2017/08/11/ai-assistants-helps-yuo-set-up-meetings/

AIの進化がどのくらい人間の介入を不要なものにしていくれるかわかりませんが、ツールはその課題を解決「できる」ようにするため、ユーザーの外側で使うものと言っていいと思います。
つまり、ツールはその課題に取り組むことが「できる」ようになるための道具であり、課題を解決することが「できる」かも知れない。
しかし、必ずしもその課題のことをよく「わかり」、ツールだけでは不十分な点に人間がどのように介入すればいいか「わかって」いるとは限りません。
ここで申し上げたいのは、「できる」と「わかる」は違うということです。
ツールは「できる」ようにするためのものであって、「わかる」ようにはしてくれません。これが、ツール導入後、導入担当者が「うまく活用できなかった」と嘆く原因であると見ます。

(勉強会参加者の方のアンケートから)
これは、ツールベンダーにとってチャンスです。アンケートには、「ツールが多いので探す・選ぶのが大変」という意見もありました。


大変なのはツール間のスペックやサポートを比較検討するのが面倒ということでもありますが、その裏側の意味は「突出して優れたツールがない」ということでもあります。
スペックや価格で差別化ができないのであれば、ベンダーは「わかる」ようにするためのサービスを提供することで、差別化できるようになると筆者は考えます。
このあたりのことは、ソフトバンクビジネス+ITに寄稿した下記の記事に詳しいので、よろしければご覧下さい。
『見込客をセミナーで獲得する極意は「わかるの素」と「できるの型」だ』


●ツールは問題を外在化し、人間の負荷を下げてくれる
働き方改革においては、その制度なり施策なりを推進・使用する担当者、マネージャー(上司)がいます。
生産性向上や離職防止のために、マネージャー研修がありますが、その多くはリーダーシップやほにゃららシンキングなどの態度や考え方といった、その人の「内」に求めるものが多いです。
これは前項の「できる」と「わかる」に相反するように聞こえるかも知れませんが、内に求める態度や考え方の習得・実践は非常に難しいものです。
ゲストの世羅さんから紹介された「motify(モティファイ)」というマネージャーのためのコミュニケーションツールがあります。
これは、「内」に求める式であれば、マネージャーが「従業員の表情やふるまいを見て」、「適切なタイミングで、スタッフ個々のキャラクターに合わせた」、「適切な声掛け」を行わなければいけないところを、motifyは過去のコンサルティングデータに基づき、適切なタイミングでおすすめのTipsなどをマネージャーに送ることで、「内」で対応しなければならない負荷を低減させています。
ツールにはこのような効果があるため、何でもかんでも個人の力量に任せることは得策ではなく、ツールの力を借りるという考えをすれば良いのではないでしょうか。


●働き方改革の「勝利条件」を設定せよ
「勝利条件」とは、筆者がプロジェクトマネジメントの手法として開発した「プロジェクト譜」を使用するための概念の一つで、プロジェクトが「どのようになれば目標を達成しているか」という条件・状態を指します。
働き方改革に取り組もうとするみなさんには、「〇〇の入力コスト下げる」、「残業時間を減らす」、「リモートワークを実現する」といった目標があると思います。
そして、この目標を実現するための手段として、様々なツールを導入しようとするでしょう。しかし、この考え方で進めると、ツールを導入しただけで目標が達成されたと勘違い(満足)してしまう可能性が高くなります。これは本末転倒でありましょう。
大事なのは、その目標が達せられているときの(スタッフや社内の)状態や、その目標を達成したあと何をするか?といったところにあります。
ゲストのベンチマークイーメールジャパンの笠原氏が語っていた言葉に、「ベンチマーク社の“ムダ”の定義は、価値を生まない仕事」というものがありました。
この「価値を生まない仕事=ムダ」を削減するために、色々なツールを導入し、スタッフがより創造的な、価値を生む仕事に取り組むことができるようにしているとのこと。
何のための「下げる」、「減らす」か?これを考えてツール導入する必要がありましょう。


●目利きがいるといいかもね
最後に、先にもご紹介した「ツール探し、選択が大変」という言葉に現れているように、自社の(特殊な)状況に合わせてツールを選ぶのは大変な作業です。
そこで考えるのは、保険の窓口のようなツールの「目利き」ビジネスです。
中立的な立場に立ち、相談会社の状況に合わせて最適なツールを紹介してくれる。
この目利きビジネスに近いのが、ビジネスメディア、マーケティングメディアのホワイトペーパーダウンロードサービスや、スポンサードコンテンツなどですが、保険の窓口やSUUMOがそうしているように、カウンターを設けた対面相談サービスがあってもいいかも知れません。
もちろん場所を設けるコストもありますから、オンラインで相談にのれば良いでしょう。
他にも、サービス紹介だけでなく、その後の運用サポートやトレーニングを求められることもあるはずです。こうしたニーズに対して、個人的には複数の課題を集めた「学びのコミュニティ」という方法があるのではないかと考えています。


以上、その他ご紹介したい内容や、ツールベンダーにとってのヒント等がありますが、そこまで紹介する筆力がないため、ぜひスプレッドシートから何事かを感じ取って頂ければ幸いです。

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