コスパ最高の問題解決スキル「問い返し」を、図書館のレファレンスで疑似体験する

自社製品を使用する顧客、あるいは導入を検討している見込客から、「御社の製品でこんなことできますか?」「こんな機能はありますか?」と、製品にはない機能について質問や要望がきたとき、みなさんはどう答えているでしょうか?
まだない機能なので「できません」「ありません」と答えているでしょうか?それとも、もしみなさんが営業ならその機能を開発することで契約が取れる(カスタマーサクセスならその機能によって解約を防げる)ことを期待し、開発チームに機能開発を依頼されているでしょうか?

一問一答、即応することで失うもの

相手からの質問や要望に対しそのまま回答・対応する、ということは、どんな仕事であってもよくあることです。
このような対応に大きな問題があるというわけではありません。ただ、相手の質問や要望に対し、一問一答したり即応したりすることで、相手が望んでいた機能とはズレたものをつくってしまったり、相手が望んでいたとおりにつくったハズなのに、まったく使われなかったとか成果をもたらさなかったということがあります。
せっかく労力と時間をつぎこんで開発した機能が望んだ結果につながらないのは非常にもったいないことであり、リソースの無駄遣いと言われても仕方ありません。

コスパ最高の問題解決スキル「問い返し」

このような問題を回避するための、最もコスパのよい方法は「問い返し」です。

「なぜその機能が必要なのですか?」
「そのようなことができると、御社にとってどんないいことが起こるのですか?」

このように質問・要望されたことに問い返すだけです。
問い返したことに対し相手の回答内容を聞くと、開発すべき機能のイメージが具体的になってズレた機能をつくる可能性が減ったり、そもそも当初要望された機能を開発するのではなく、別の方法で解決するアイデアを得られたりします。応急処置的な対応ではなく、根本治療的な対応ができることもあります。
質問・要望した相手は問い返されることによって、「これしかない」と思い込んでいた機能以外の方法があることに気づいたり、自分が本当に解決をしたかったことが他にあることを発見したりすることがあります。

イケてるエンジニア、イケてる営業はこうした問い返しが習慣になっているように思いますが、経験が浅かったり、多忙で余裕がなかったりすると、どうしても一問一答型、即応型になってしまいます。会社でこのような問い返しの研修やロールプレイングを行えればよいですが、あまり見聞きしません(営業であれば「ヒアリング」という名前で研修があるかもしれませんし、最近であればAIで練習するプログラムを組めそうですが)。

問い返しを体験し、メタ練習できるレファレンスサービス

もし、問い返しのスキルを習得したいと思われたら、まずは図書館に行って「レファレンスサービス(※以下レファレンス)」を体験してみてください。
レファレンスサービスは質問回答サービスとも称される「直接サービス」とレファレンスコレクションの形成等にかかわる「間接サービス」とに分けられますが、ここでは「直接サービス」をレファレンスと称して説明します。

レファレンスは司書が図書館利用者からの質問の提示を受け、問い返しを行いながら(これをレファレンスインタビューといいます)参照すべき資料を選択・決定し、利用者に提供するサービスです。
書名がわかっている本を探すのであれば図書館内の端末で調べて自分一人で探すことができます。「〇〇はありますか?」と書名を出して司書に質問することはありますが、レファレンスの真の価値はそれに留まりません。もっともっと大きな価値があります。

異なる視点、確度、筋道を提供してくれる

みなさんがあるテーマについて調べているとして、そのテーマに関する資料の有無やお勧めの資料について司書に質問すると、多様な角度・切口から資料を提示してくれます。
最近だと、こんなレファレンス事例がTwitterで話題になっていました。


言葉になっていなかったものが言葉になる

これを言語化というのかも知れませんが、問い返し=レファレンスインタビューのなかで、「あ、自分が知りたかったのは、調べるべきは、こっちの方面だったか」と、具体的な言葉で認識できるようになります。「異なる視点、確度、筋道を提供してくれる」ことに似ていますが、こちらは「真の要望や希望が見つかる」というニュアンスに近いです。

「異なる視点、確度、筋道からの考えられるようになる」にせよ、「言葉になっていなかったものを言葉になる」にせよ、その価値が得られるのは問い返しによってです。
問い返しができるようになるには、相手からの質問は暫定的なもの、というマインドセットになっている必要があります。


質問・要望に脊髄反射せず、その質問の背景や意図、意味を問い返す。
これだけのことで、より早い問題解決、真の問題解決に辿り着くことができます。労力・時間・コストを浪費せずに済みます。
今私は「これだけ」と書いてしまいましたが、問い返しにもスキルが必要です。そのスキルをまずはサービスの受益者として体験し、「あぁ、こうやって質問するんだな」「こう返すと、この方面から質問するとよさそうだ」とメタ的に練習できるのがレファレンスです。
問い返しは問診票のようにあらかじめ用意されたリストに従って行われることはなく、質問者との対話のなかで、その文脈に応じて様々に問いかけられます。
同じ質問・要望をしても、司書さんの経験やみなさんからの質問や回答の言葉の解釈が異なれば、その結果提供される資料も変わってくるはずです。これもまたレファレンスの醍醐味です。
私が実際に調べたいことがあってレファレンスを利用したときは、対話を記録させてもらいましたが、みなさんも司書さんにことわったうえで記録すると、後から問い返しと対話の流れが把握できて、よい復習になると思います。

どんな仕事にも活きる推察と質問力を向上させよう

レファレンスを体験し、問い返しのスキルを習得することができれば、いささか飛躍しますが、それに伴って顧客や見込客からの質問や要望の背景を推察する力や、顧客や見込客に質問する力が伸びるはずです。
というのも、レファレンスで自分が真に望む答えやテーマを発見するには、司書だけに問われるだけではなく、自分自身が最初によい質問や要望を司書にする必要があるからです。

自分が何を知りたいのか、なぜ知りたいのか、どこまで調べてのか、どこまでわかっているのか、といったことを最初の伝えれば、司書はより早く真の答えに辿りつける可能性が高くなります。質問や要望があいまいだったり部分的だったりするほど、インタビューにかかる時間は長くなります。それでも回答を導き出すのが司書の腕の見せ所かもしれませんが、仕事の場では司書的な存在、司書的な能力を発揮してくれる人に巡り合える機会はそんなに多くありません。

学校図書室でもレファレンスサービス体験を!

また、この力は社会人といわず、子どものうちから身につけておいて良いものだと思います。学校には図書室があり、学校司書がいるところもあると思います。最近は探究学習で「情報の調べ方」を習得する場として活用されているようですが、児童生徒が図書委員であっても図書室の利用者であっても、問い返しや質問したり望を伝えたりする技術を身につける場として、もっともっと活用されてもいいんじゃないかと思います。

最後に宣伝となりますが、埼玉県立図書館(熊谷)で24年8月6日より、仕事に関するお悩みや課題によく効く処方箋となる書籍を、レファレンスを通じて紹介する企画が行われます。


図書館ではレファレンス自体はいつでも体験できるのですが、この企画ではお仕事やプロジェクトの課題に応じた書籍の展示や、お仕事の課題解決に特化したレファレンスサービスも行われる予定です。
問い返しや、仕事の課題解決に役立つ本との出会いにご興味を持っていただけましたら、ぜひお越しください!

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