MVQのすすめ ~参加者満足度を上げる質問タイムの新システム


セミナーやワークショップ(便宜上、以下「イベント」とします)に参加する目的は人それぞれでありましょうが、私には大きく2つの目的があります。

1.そのイベントのテーマについて聴きたい。体験したい。(←これが普通)
2.そのイベントで聴く、体験するテーマについて、講師・登壇者に質問したい。

このうち、2の目的を叶えるチャンスは、イベント全体の終了前や各セッション終了後に設けられる「質問タイム」か名刺交換タイムですが、後者は列にボケーッと並んでいるのが苦痛で仕方ないので、前者しかありません。

しかし、この「質問タイム」には大きく4つの問題があります。

●概念の問題
・イベントの主催者、司会者、ファシリテーター、モデレーターが、講師や登壇者といった話し手が聞き手より“上”だと思っている。
(※以下、講師や登壇者は“話し手”。参加者は“聞き手”に統一します)

●構成の問題
(話し手が聞き手より“上”と思っているので)
・講演、プレゼン、トークセッションの時間が押すと、真っ先に質問タイムが削られる。
・質問タイムの時間自体が短い。

●方法の問題
・質問のある方いらっしゃいましたら手をあげて下さい―がマジでイケてない。
(質問が出てこないことが多く、シーンとして「ハイ!ではおしまいでーす」となりがち)
・挙手の早い者勝ち。
・司会者、ファシリテーター、モデレーターの目についた者勝ち。

●質問の問題
(とても短い質問タイムなのに)
・質問が個人的な内容になる
・ごくまれに先生ぶって難解すぎる質問をぶつけてくることがある
・イベントの文脈から大きく外れたものになる


これらの問題がほどきがたく、こんがらがっているのが質問タイムの問題です。

ここまで挙げた問題は、イベントの内容・レベルや参加者の属性によって適するもの・しないものがありますが、ここから先はインターネットによって情報が横溢している環境下、聞き手はイベント会場にやってくるまでに、何らかの情報や知識を得ているであろうという前提で考えていきたいと思います。

イベントで扱うテーマに対して、ある程度の問題意識や目的を持っている人であれば、冒頭私があげたようなイベントで聴く・体験するテーマについての疑問を話し手に質問したいと考えていると思います。

聞き手の置かれた環境、バックグラウンドや活用方法などから取りだされ質問には、キラリと光るものや一問一答ではなくもうひと転がししてみることで、聞き手はもちろん、話し手にも新しい気づきを与えることがあります。
(※これは、私が話し手として動画制作ワークショップや、ブレーン、宣伝会議でセミナーを行ってきた経験からも感じることです)

質問には相手の脳を働かせるスイッチという機能があり、聞き手が知らず話し手は知っていることを聞く場合にはそのスイッチは作動しませんが、話し手も知らないことである場合、その質問は話し手の脳を働かせています。

そこで提唱したいのがMVQという質問タイムの新しいシステムです。


■MVQ~最も価値のある質問を選ぶシステム

MVQとはMost Valuable Question(最も価値のある質問)の略で、勝手に造語しました。

このMVQを先に上げた質問タイムの4つの問題(概念、構成、方法、質問)に当てはめて、その内容を解説します。


●概念
・MVQでは聞き手を「教えを乞う哀しき子羊」として扱うのではなく、イベントを構成する主要な一員として扱います。

●構成
・MVQでは質問タイムに十分な時間を割きます。
・MVQでは質問タイムを話し手の講演やプレゼン、ワークショップ体験の中では得られなかった聞き手の疑問や気づきを昇華したり学びを深めたりするための時間と位置付けます。

●方法
・MVQでは大衆の面前で質問するのが苦手な性格である人のいることも配慮し、発言をしなくても価値のある質問を拾い上げる方法を導入します。
・MVQでは挙手の早い順やモデレーターの目についた順などの運に左右されることを回避します。
・MVQでは最も話し手と聞き手から評価の高かった質問を表彰します。
 (その質問を発した人にプレゼントをするかも知れません)

●質問
・MVQでは質問をイベントの成員すべてが新たな気づきを得たり学びを深めたりする力を持つ道具であると捉えます。
・MVQでは上述のような価値の高い質問が選ばれるべきであると考えます。


これらの内容をふまえ、MVQが実際にイベントでどのように運用されるか、二つの例を挙げたいと思います。


例A:Twitter活用、イケてないモデレーター排除版
(トークセッションを想定)
01.司会者はセッション前に質問タイム用のTwitterハッシュタグを聞き手に告げる
02.聞き手はトークセッション中から登壇者の発言に対する質問をハッシュタグをつけてツイート
03.ツイートは登壇者後方のスクリーンにプロジェクターを通じて随時表示される
04.セッション終了後、聞き手は表示されたツイートに対し、自分も聞きたいと思う質問に「いいね」ボタンを押す
05.運営スタッフがいいね数の多い質問を集計してベスト10の質問をピックアップする。
(ピックアップ作業時間中、トイレ休憩に行ってもよい)
06.スクリーンに表示されたいいね数の多い質問から話し手が答える
07.いいね数の多かった質問ベスト3のうち、話し手がよい質問として評価した質問を「MVQ」として、質問した聴衆を表彰するなりプレゼントする


例B:シマ(島)活用版
(グループワークのあるイベントを想定)
01.予め数名のグループをつくる
02.各人にワークシートを提供し、ワーク中に気づいたことや疑問に思ったことを書き込んでもらう
03.ワーク終了後、同じシマのメンバーとワークシートを記入し、メンバー間で最も聞きたい疑問を選出する
04.各シマから1つずつ質問を出し、話し手が答える。
05.話し手がよい質問として評価した質問を「MVQ」として、質問した聴衆を表彰するなりプレゼントする


・・・というように、MVQの方法はイベントの内容や成員の属性・リテラシーによって変化すると考えますので、最適な方法を選んで頂けば良いと思います。
(もちろん、MVQがハマらないイベントもあります)

MVQ導入のメリットとして、聞き手は自身の学びを深めたり、参加者の多くの疑問・質問を目にして聞くことで、他者の考えに触れるという体験ができます。
自らの質問が取り上げられた方の満足度はこの上なく高いものでしょう。
また話し手にとっても上述したように、質の高い質問が寄せられることで、新しい気付きを得ることができます。
これら聞き手、話し手のメリットは満足度向上として、イベントの主催社・企画者にとっても大きな利点があるはずです。

MVQというシステムを質問タイムにおけるモジュールの一つとして捉えると、質問タイムに限らず、受付タイムやアイスブレイクタイム、名刺交換タイムなどでも、現状の方法以外の素敵な方法が考えられると思います。

とかなんとか言うてまいりましたが、実はこのMVQは私自身も試したことがないため、今年私が関わるイベントで実験していきたいと考えています。



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