初めての技術書典出展までの2ヶ月半 ~「書きたいのに書けない」から始める同人誌づくり記


技術書典に出かけたのは、「いかに技術を記述するか?」という長年の問いのヒントを見つけるためでした。
しかし一度(ひとたび)その雰囲気に触れた瞬間、「自分も出てみたい!」と思ってしまったのです。
(このときの経験は、『非技術畑のオヂが技術書典に行った話』に書きました)
https://kodomonogatari.blogspot.com/2024/11/blog-post.html

たまたま自分が「プロジェクトのための問いかけ方」をテーマにした研修コンテンツを持っていたので、これを「問いかけの技術」として執筆しなおせば、出展のための書籍はつくれると思ったのです。
そんなことから技術書展18にえいやっと申し込み、運良く当選し、執筆と印刷の準備を始めました。
結果として、2ヶ月ちょっとで本が完成し、無事に技術書典の会場に立つことができました。が、そこに至るまでの道のりは、いくつもの“つまずき”と“わからなさ”に満ちていました。

本記事は、そんな私が、編集者もデザイナーもいない中で、どのように構成を決め、原稿を書き、ページを整え、印刷所に入稿し、無事に1冊の本を完成させたのかを記録したものです。

同人誌を書いてみたいけど「どうすればいいのか全然わからない……」という方にとって、ひとつの道筋としてご参考になればうれしく思います。


執筆篇|ネタはある。でも、どう書き始めればいいのかがわからない


「ある」のに、書けない

出展は決まり、ネタもあるものの、いざ「書こう」と思ったときに最初に立ちはだかったのは、「で、どう書き始めればいいのか……?」ということでした。

もちろん、「プロジェクトのための問いかけ方」という研修コンテンツが手元にあり、それをベースにすれば書けるだろうという見込みもありました。
でも、そのまま書き起こせば本になる、というほど話は単純ではなかったのです。

そもそも、商業出版であれば、ページ数や章立ての方向性は、たいてい編集者がある程度決めてくれます。
けれど今回は、すべて自分で決める必要があります。
「何ページくらいにするか?」「そもそも構成はどうする?」といったことを、誰も指示してくれない中で考えなければなりません。

正直、「ページ数は少なくてもいいかな」と思っていたくらいです。
というより、あまりに何も決まらない状態では「ページ数の目安すら出せない」というのが本音でした。

さらに困ったのは、「“読み物としての流れ”をどう作るか?」です。
研修で使っていたスライドは111ページ分あり、話す内容としてはそれなりに整理されているつもりでした。
でも、スライドはあくまで口頭で説明することを前提に組み立てたものです。
聞き手がいて、やりとりがあって、都度補足できるからこそ成立していた内容であって、黙って紙面だけ読んでもらうには無理があると思いました。

書きたい気持ちと、書けない現実。救いになった「プ譜」

加えて、研修のときにはあえて省いていた説明や、「本当は伝えたかったけど時間の都合で入れられなかった実践ノウハウ」なども、せっかく書くなら盛り込みたくなってきます。
すると、ますます「どこから、何を、どうやって書けばいいのか」がわからなくなっていくんですね。

このままでは、書きたいことはあるのに、書き出せないという、もどかしい時間が過ぎていくだけだ――。

そう感じていたときに思い出したのが、「プ譜(プロジェクト譜)」でした。


プ譜は私が開発したプロジェクトマネジメントのためのフレームワークです。これを最近は研修や講座の設計に使っており、「参加者にどうなってほしいか(=成功の定義)」を言語化し、それを構成する状態や必要なインプットを整理していくということをしていました。

※以下参照:


これを書籍の執筆にも使用することにしました。
まずは、「この本を読んだ人に、読み終わったとき、どうなっていてほしいのか?」という定義から始めることにしました。

たとえば、「問いかけの技術」を身につけるとはどういう状態か。
それをどんな構成要素に分解できるか。そして、それぞれの状態に至るには、どんな知識・ノウハウ・練習(ドリル)が必要か。

そうやって、研修スライドに含まれていた情報や、スライドには載せきれなかった実践的な補足情報を、ひとつずつ結びつけながら整理していきました。

このプロセスを経ることで、「何から書き始めればいいのか」が、ようやく見えてきたのです。



構成が見えたとき、書く手が動き出す

構成が決まると、筆が進みはじめます。
どの項目に、どんな情報を書けばいいのかが明確になると、「まずどこから手をつけようか……」という迷いが減り、ページを埋めていくことに集中できるようになります。

書きながら気づいたのは、構成があることで「いま書いている内容が、この本全体の中でどんな役割を果たしているか」が見えるということです。
これが見えると、書くべきことと、逆に削ってもよいことの判断がしやすくなり、「全部盛り」に陥らずに済みました。

一方で、こうして書いていくと、当然「想定よりもページ数が増えてしまう」という問題にも直面します。
これはまた別の“つまずき”として、後の章で触れることになりますが、この時点ではまだ、「まあ書いてから考えよう」と割り切って、とにかく執筆を進めていました。

いま振り返ってみると、この“構成を先につくる”というやり方が、今回の本づくり全体の鍵だったと思います。

書きながら、構成のありがたみを実感する

構成を先につくってから書く、というのは一見まわり道のようにも思えます。
けれど、実際にやってみると、それは「書くことに専念するための下準備」であり、「書く不安を減らすための道しるべ」でもあったのだと実感しました。

もちろん、書きながら微調整はたくさん発生しますし、「やっぱりこの章は後ろに回そう」といった変更も出てきます。
それでも、“最初に全体像を描いたこと”があったからこそ、そうした調整も迷いなく行えました。

ネタはあるけれど、どこから手をつければいいかわからない——。
私のようにそんな状態で止まってしまう方には、「構成を描く」ことから始めてみるのを、ぜひおすすめしたいです。

プ譜は、“見えない目次の裏側”

ちなみに、プ譜を使って本の構成を組み立ててから執筆をしているとき、「これは目次に似ているけれど、まったく違うものだな」と感じました。

たしかに、プ譜も目次と同じように「構成」をつくるための道具です。
けれど、目次が「本に何が書かれているか」を読者に伝える表向きの案内板だとすれば、プ譜はその背後にある“見えない目次の裏側”のような存在でした。

目次には「第◯章 ◯◯について」などの項目が並びますが、その裏には必ず「この章を通して、読者にどんな状態になってほしいか?」という、書き手の意図や願いが隠れています。
プ譜は、その“読者の状態変化”を先に描き、それを起点に構成を考えていくツールです。

本を読むことで、どんなことができるようになるか。
そのために、どんな知識やノウハウ、練習が必要なのか。
そういったことを構造的に整理してから書き始めることで、「なにを書けばいいのか」「どこに書けばいいのか」がブレにくくなりました。

完成した書籍には、当然ながら“目次”が載ります。
でも、その目次がしっかりと読者の理解や成長につながるものになっているのは、裏側にプ譜という構造があったからだと、いま振り返って強く思います。


次に立ちはだかる、新たな「壁」

さて、構成が決まり、書く方向が見えたことで、いよいよ本格的に執筆作業がスタートします。
すると次にやってくるのが、「ページ数」と「印刷の仕様」という新たな壁でした。


印刷篇|ページ数が決まらない

ページ数の「目安」がない恐怖

構成ができて、ようやく「何を書くか」は見えてきたものの、次に私を悩ませたのは、「で、それって何ページになるの?」という問題でした。

商業出版の場合は、だいたい最初に「160ページくらいでいきましょう」とか「8章構成で」みたいな目安があって、そこから逆算して分量を調整するという進め方になります。
でも、今回はそれがない。というより、「何ページが正解なのか」すらわからない。

仮に少なくても誰かに怒られるわけではないし、多ければそれだけ紙代がかかるということくらいはわかる。
でも、“適量”というのがわからない状態では、「どれくらい書くべきか」も、「どこで終わるべきか」も、判断がつかないのです。

構成は決まったのに、また迷子になる。
この段階での私は、「目次はあるのに距離感が測れない旅」に出てしまったような気分でした。

印刷所の“4の倍数”ルールとの遭遇

さらに混乱に拍車をかけたのが、印刷の「ページ数は4の倍数」というルールです。

正確には、「中綴じ」や「無線綴じ」など製本方式によっても変わるのですが、多くの同人印刷所では、本文のページ数が「4の倍数」である必要があります。
つまり、41ページではダメで、次にいけるのは44ページ。52ページなら、次は56ページ。

ここで何が起こるかというと――「あと1ページ書きたい」が、「あと4ページ分埋めなければならない」に変換されるのです。

これは地味に厳しい。
無理に詰め込むと全体のバランスが崩れそうだし、だからといって余白や目次で水増しするのも気が引ける。結果、私は「あと3ページを何で埋めよう……」と、本筋と関係ないコラムを書くことも考えました。

このあたりから、“執筆”と“編集”が別物ではなく、行ったり来たりの往復運動になるのだと痛感しました。


見開き、フォント、余白、PDF……知らなかった仕様の嵐

印刷所のWebサイトを読みながら、次にやってきたのが「仕様」という名の未踏領域です。
たとえば、

* フォントは埋め込んでください
* 断ち落とし(塗り足し)を3mmつけてください
* 見開きで中央を考慮してください

などなど。

頭ではわかるのですが、いざPowerPointでページをつくろうとすると、「それ、どうやるの?」という話になります。
ここで、そもそもの話になるのですが、技術書典ではRe:viewという出版ツールがあるのですが、その環境構築で私はつまづいてしまい、執筆はパワポを用いたのでした

フォントの埋め込みでもつまづきました。使いたいフォントでデータ確認しようとプリントすると、ディスプレイでは正しく表示されているのに、プリントすると指定したフォントになっていないという現象に遭遇し、「印刷ってこんなに気を遣うものなんだ……」と圧倒されました。

幸い、印刷所の「ねこのしっぽ」さんのホームページやオペレーターさんとの電話に助けられながら、なんとか仕様の壁を一つずつ越えていくことができました。
特にオペレーターさんはテキストと電話を駆使して様々にアドバイスをくださり、本当に、本当に助けられました。

 書きながらページ数をコントロールするという逆転の発想

こうした一連の混乱を経て、私がたどりついたやり方は、とてもシンプルでした。

「先にページ数を決めない。とりあえず書く。そして、後で調整する。」

もちろん、印刷所の〆切や料金体系の都合で、おおよその範囲感は必要です。
でも、あまり最初から“ページ数ありき”で考えると、かえって内容の自然な流れが崩れてしまいます。

構成にそって丁寧に書き、ある程度の分量が出そろった段階で、「さて、いま何ページ分くらいか」「あと何ページ増やすとキリがよいか」と考える。
この順番が、自分には合っていたように思います。

結果として、「あと4ページ分増やしたい」場面では、新しい項目を追加したり、章末に読者向けの問いかけコーナーを入れるなど、構成全体を活かすようなアイデアも生まれました。

表紙デザイン、なんにも考えていなかった。

そんなこんなでページは72ページになり、入稿データもできあがったものの、最後の最後で表紙デザインを何も考えていないことに気づきました。
残り日数的に依頼できるデザイナーさんや絵師さんの知人友人はいません。そこでここはChat-GPTに作成してもらうことにしました。
「問いかけ」というテーマからソクラテスを連想し、ソクラテス関連のイラストを生成してもらい、あとは素材サイトから背景になりそうなものをピックアップ。
下図のようなデザインにし、めでたく入稿となりました。


最終的に、書籍のサイズやページ数、その他仕様は下記のようになりました。

<基本仕様>
 ぱっく名:本文オフセット1色刷の本
 サイズ:B5
 申込部数:100部
 綴じ口:左綴じ
 製本方法:無線綴じ
 ページ数:52ページ

<表紙仕様>
 表紙用紙:ホワイトポスト クリアPP加工
 表紙印刷:オフセット 1色 [黒]

<本文仕様>
 本文用紙:上質紙 90kg
 本文印刷:オフセット 1色 [スミ]
 遊び紙:なし


この書籍は技術書典オンラインマーケットで今も販売中です。
よろしければ下記のURLよりご覧ください。

「技術書典振り返り:設営、頒布篇」に続きます。https://kodomonogatari.blogspot.com/2025/06/blog-post.html

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