ワークショップとプロジェクトにおける「問い」の役割と重要性について


先日、東京大学大学院 情報学環 特任助教で、ワークショップの実践と評価についての研究で著名な安斎勇樹先生に、ワークショップとプロジェクトの間にある共通点と、両者における「問い」の重要性についてお話を伺ってきました。

これは宣伝会議のwebメディア「アドタイ」で連載している、「〇〇×プロジェクト」の記事として対談させて頂いたものです。(第一弾はこちら。→『プロジェクトは発酵させよ!「発酵文化人類学」の著者が語るその意外な共通点とは』
◯◯には、発酵、ドキュメンタリー映像、育児、ボードゲームなどが入るのですが、今回は安斎先生のご専門であるワークショップ。詳しい記事は後日ご覧頂くとして、このブログでは、なぜ◯◯にワークショップをテーマに選んだのかということについて紹介します。
私がワークショップを初めて体験したのは、2014年に京都造形芸術大学が東京で開催した「企業や地域を揺さぶり、場作りの技法を学ぶ ワークショップデザイン入門講座」で、その時の講師が安斎先生でした。

ワークショップを企画するというワークショップで、参加者は「学習目標」と「活動目標」を設定しなければならなかったのですが、これが私にはトンとできませんでした。
仕事上、課題があればすぐさま解決案を提示して実行してきた経験がジャマをするのか、ワークショップの「お題」=「ワークショップ参加者に考えさせるとい」が設定できない。他人に考えさせるより、自分で考えて実行したほうが早いと脳ミソがかたくなに拒むように「問い」を設定できないのです。
この体験はとてもショッキングでした。「与えられた問い」にはすぐ取り組むことができるのに、「問いを自らつくりだすこと」ができないというのは、プロジェクトという未知なるものに挑む仕事をする人間として、「終わっている」と感じられたためです。

この時のできなさっぷりが衝撃的で、ブログにも残しました。
『明日、ワークショップを企画できますか? ~ワークショップデザイン入門講座レポート』



以来、私は安斎先生の著作を読んだり、先生のワークショップに参加したりして私淑しており・・・、


そしてこの度、拙著『予定通り進まないプロジェクトの進め方』の刊行にあたり、先生のワークショップを体験して以来、モヤモヤと感じていた疑問を受けて頂きたいと思い、対談を申し込ませて頂いたのです。




では、この疑問は何かというと、ワークショップとプロジェクトの間にはメタレベルでの共通点があり、ワークショップと同様に、プロジェクトにおいても「問い」が重要な役割を担っているのではないか?ということです。


安斎先生は、企業の新規事業や新製品開発など、未知なるアウトプットを求められるワークショップを数多く開催し、実績を残しておられます。
(※安斎先生の実績ページ

一方、プロジェクトはその企業(当人)にとって少しでも未知の要素があれば、それはプロジェクト足り得るという考えをとります。大前提として、ワークショップとプロジェクトは「未知」を相手にしているという共通点があります。
この「現状と未知なるゴール」の隔たり(間 あいだ)を、問いによって埋めていく、或いは道筋をつくっていくのが、ワークショップであり、プロジェクトであると考えました。

私がこのように考えるに至ったのには、拙著で提唱している「プ譜」を考案したことが大きく影響しています。
プ譜とは、プロジェクトの可視化ツールであり、所与の条件とゴールの間をドリルダウンした中間目的や個々の中間目的を達成するための施策をゲーム木の要領でつないだものです。



プ譜によって、ある局面のプロジェクトの構造が可視化され、リソースとゴールと諸施策のツジツマが合っているかどうかが一目瞭然になるのですが、このプ譜を描くうえで最も重要なのが、「勝利条件」の設定です。
勝利条件とは、プロジェクトのゴール(プ譜では「獲得目標」と称します)の成功判断の基準です。
家を建てるという獲得目標かある場合、その勝利条件は人によって千差万別です。「返済に汲々としないプランを立てる」という人もいれば、「笑顔が絶えず、コミュニケーションがよくとれている」とする人もいるでしょう。同じコミュニケーションが大事な要素でも、「家族のコミュニケーションと個人のプライバシーが保障されている」とする人もいるかも知れません。

この勝利条件の設定には、予算やスケジュール、家族の状況や求めるクオリティなど所与のリソースが拘束条件となります。

リソースとゴールの間にある隔たり。この隔たりを「問題」として捉えれば、プ譜によって可視化されたものは、プロジェクトの「問題解決のイメージ」に他なりません。問題を解決するには「問い」が必要となり、この問いにあたるものが、プロジェクトにおいては勝利条件になります。
この勝利条件をなんと表現するかー。つまり、「なんと問うか?」によって、中間目的や施策のあり方、つまりプロジェクトのプランが大きく変わってくるのです。

安斎先生からは、先生が関わっておられるプロジェクトでワークショップを採り入れる時、プロジェクトのステージによって問いが異なることや、良い問いの評価基準、先生が「問い」という言葉にこだわっている理由など、実に多くのことを教えて頂きました。
名言がいくつも飛び出し、早く紹介したい気持ちをガマンして、みなさまにおかれましては、アドタイの記事を楽しみにお待ち下さい!

最後に、このブログを読んで下さっているプロマネのみなさまに、ワークショップとプロジェクトの共通点を提示するとともに、新規事業系の、ブリコラージュ型の、ぬか床型の、発展系プロジェクトにはワークショップが良いぞ、というメッセージを込めて、安斎先生の著書を読んでみることと、先生のワークショップを体験してみて頂くことをお勧め致します。


●ワークショップを科学する
ワークショップデザインやファシリテーションなど「創造的な学びの場作り」の方法について学ぶ公開イベントを不定期で実施しておられます。


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