プロジェクトを進める力を養うリベラルアーツ
プロジェクトを進めるために必要な力、姿勢(態度というかカマエのようなもの)はいくつもあります。
まだ体系立てておりませんが、ざっとこのようなものがあると考えます。
- 好奇心
- 観察する力
- 問いを立てる力
- 選択肢をつくる力
- その判断基準を設けられる力
- プランを描く力
- それを他者(の特性に合わせて)に伝える力。
- 見通しを立てる力
- 素材の特性を見抜き、特性に合わせて間に合わせる力
- 異なるもの、何かと何かを組み合わせる力
- 個別事例を抽象化して、自分にあてはめて活用する力
- 自分に関連づけていく力
- 必要条件と十分条件を見極めることができる力
- 固定概念にとらわれない力
- 客観的に見る力
- 直面した問題を自分が有利なように表現したり、問題の性質を変形する力。
プロジェクトマネジメントには、PMBOOKという知識体系があります。プロジェクトのプロセスを、、立上げ(Initiating)、計画(Planning)、実行(Executing)、監視・コントロール・(Monitoring & Controlling)、終結(Closing)に分け、時間、、コスト、品質、人的資源、コミュニケーション、リスク、調達、ステークホルダーなどジャンルごとのマネジメント知識がまとめられています。
ここで注目して頂きたいのが「知識(knowledge)」という言葉です。
その業務について知っておくべき知識、手続きなどをPMBOKはまとめてくれていますが、それを活かそうとする場・機会は、基本的には実際の仕事(プロジェクト)しかありません。
紙の上で獲得した知識を、いきなり実戦で使うというのは、それが当たり前であるとはいえ、ツライものがあります。また、上述したプロジェクトに求められる力は、本で教えることは難しく、実践(体験)を通じてしか身につかないように思います。
私は著書『予定通り進まないプロジェクトの進め方』で、自身のプロジェクトを『プ譜』に記述し、それを他者と互いに「感想戦」を行う、プロジェクトの仮想演習を提唱しています。
他にも、過去の戦争やビジネスの事例などをプ譜化して一人シミュレーションを行うことを提唱していますが、机に向かって本を読み、ペンを持って字を書くという作業は、そうそう長く続けられませんし、そもそもそれが苦手な方もいます。
もっと遊びの要素が入った、仕事の息抜きとは言わないが、仕事との距離のあるものを通じて、プロジェクトの仮想演習に似た体験をすることができないかということを考えていました。
そんなことを考えていた時に再会したのが、石草流いけ花の奥平祥子さんです。
奥平さんから華道が昔の武将にとっては戦を行う時の仮想演習ツールであった(『華道から学ぶ、プロジェクトの進め方の要諦』)ことを伺ってから、華道の他にも、芸事にかぎらず、スポーツ、音楽、映像、料理など、プロジェクトという言葉を使わないけれど、プロジェクトっぽい性質を有する行為を通じて、プロジェクトについての学びや気づきを得ることができるのではないかと、その筋の方々にお話を伺ってきました。
限られた種類で、かつ刻々としおれていく素材を使い、きれいに花を立てていく華道。
取材対象を定めて大まかなプランは立てるものの、何が撮れるかわからないドキュメンタリー映像。
仕込をしくると手入れで何をやっても無駄になってしまう発酵。
実は私は、華道、ドキュメンタリー映像、発酵というもの自体に、特別な興味を持っていません。
進んでそれを体験したいと思ったことはありませんでした。でも、プロジェクトというものを要素分解していると、華道や発酵の話を聞いているうちに、両者の間に共通点が見えてくる。
「あ、それプロジェクトでも大事やわ」
というふうに感じる。そうなると、色々なモノゴトの知識がプロジェクトに応用・転用できる気がしてくる。こういう体験をする過程で思いおこされたのが、ここ数年注目されているリベラルアーツです。
リベラルアーツには、人の精神を自由(自由な精神)にする幅広い基礎的学問として、自由七科という七つの科目があります。
- 文法学
- 修辞学
- 論理学
- 算術
- 幾何学
- 天文学
- 音楽
これらの学問を通じて、ものの見方、考え方、価値観の総体としての教養を身につけようというものです。当時のリベラルアーツは、自由人(奴隷を所有することが許されている人)に対するものでしたが、現代の人々においては、自然科学、歴史学、脳科学など、様々なジャンルの学問に広がっていると言っていいと思います。
私はプロジェクトに従事する人々にとっても、こうしたリベラルアーツが存在するのではないかと思います。そんなことを、先日京都に行った際、前述の奥平さんとイシス編集学校でお世話になった福田容子さんと話し、下記のようなモノゴトがプロジェクトのリベラルアーツ候補として出てきました。
- 華道
- 発酵
- ドキュメンタリー
- 庭園
- 割烹
- ジャズ
- ダンス
- 橋
WBSやガントチャート、見積書の書き方といった知識は、プロジェクトマネジメントにおいて直接的な知識です。これは華道でいえば、花の立て方や植物の知識であり、ジャズであれば楽譜の読み方や楽器の知識といったものに該当します。こうした知識は、「それを知っていなければ、そもそもの行為が成り立たない」知識と言えます。
一方、プロジェクトにとって、花の立て方や楽譜の読み方といった知識は、知らなくてもプロジェクトに対して何の影響もありません。何の役に立つかぜんぜんわからない。
この一見プロジェクトとは関係のなさそうなもの、ということが、プロジェクトの仮想体験において重要です。
プロジェクトを進めていくための力として、「異なるもの、何かと何かを組み合わせる力」、「個別事例を抽象化して、自分にあてはめて活用する力」がありますが、一見関係のなさそうなモノゴトの体験を通じて、自分のプロジェクトの役に立つものを引き出していく。そんなことを期待しています。
そうしたことを、一見なんの関連性もなさそうな華道や発酵、ジャズやドキュメンタリーなどの体験を通じて提供していく。体験を重視するのは、自分の仕事と関連がなさそうなものは、わざわざ本を借りてまで読もうとはしないということと、手を動かし、紙を読み、人の話を聞く以外の認知リソースを使って体験することで、知性だけでなく感性も育むことができるからです。
(教養には、知性と感性の両方が必要だと思います)
各種の体験に通底(横断的)するものを、異なる認知リソースを通じて、アナロジーを刺激する。学びを深め、多くの気づきを得られるようにし、プロジェクトを進めていくための力を育む。
そんな体験型のプログラムを、2018年中に試してみたいと考えておりますが、前述の福田さんからは、そうした体験に京都がいいのではないかというご提案も頂きました。
なんだか合宿的な香りもしてまいりますが、そうしたプログラムをぜひ体験してみたい。或いはそうしたプログラムを提供できる、という方は、ぜひご連絡下さい。