プロジェクトの問いを見つけて、より良い進め方を考える
2020年5月から2021年1月まで、公益社団法人日本フィランソロピー協会主催の寄付教育プログラム、「Charity Movie Project(※以下CMP)」の進行を支援していました。同協会ではこれまで中高生を対象に街頭募金を主な手段として寄付教育を行ってきました。しかし、2020年度はコロナの影響で街頭に立って寄付を募るという活動を行うことが難しくなりました。そこで考え出された案が、街頭に立つ代わりにコロナ禍で奮闘するNPOを応援する動画を制作し、その動画をオンラインで配信して寄付を募るというものでした。動画は中高生が主体となり、取材も制作も広報活動も行い、大人はそれをサポートするという役割でした。
このプロジェクトは大きく「動画を制作する」フェイズと、制作した動画を配信して「寄付を募る」フェイズに分かれます。この記事では後者のフェイズで得た発見についてご紹介します。
寄付を募るためには、制作した動画をCMPのWebサイトで配信し、その動画を視聴してもらい、サイトに設置する募金ボタンをクリックしてもらう必要があります。
動画を配信する場所(媒体)と、募金システムという機能・道具はあります。しかし、それをどのように活用して、オンラインで募金することにつなげるか?が中高生にはよくわかりません。それがわからなければどんな募金・広報活動を行えばいいかもわかりません。
そこで、既に寄付の実績のある、寄付の成功事例である街頭募金が、どういう構造なのかをプ譜で表現してみることにした。それが下の図です。
目標はオンラインであっても街頭であっても同じです。街頭で募金箱を持っている学生を想像し、或いはどこかで見たであろう街頭募金の様子を思い出し、
「どうなっていたら道行く人が募金箱にお金を入れているか?」
を考えます。それが目標の上にある「勝利条件」です。
ここでは「道を歩く人の目や耳に引っかかる情報を届けて足を止めてもらい、その場でお金を財布から出してくれている」としました。
次に、その勝利条件を実現するためのあるべき状態「中間目的」を表現していきます。
- 募金をしてくれそうな人が多く集まる場所に立っている
- 歩く人が足を止めるような演出ができている
- 共感してもらうことができている
- すぐに募金ができるようになっている
- 募金をしたことの満足感を募金してくれた人が得ている
これらの状態を実現するために行うことが施策です。
施策を行うための資源・制約になるのが「廟算八要素」です。(これについて詳しく話すのは本筋ではないので先に進めます)
募金に成功している街頭募金の構造を表現することで、関わる要素がどのようになっていたら良いか?がわかります。
個々の施策はオンラインと募金で使えるものと使えないものがあります。この場合は使えないものの方が多いでしょう。参考になるのは勝利条件と中間目的です。
例えば、「募金をしてくれそうな人が多く集まる場所に立っている」という中間目的を見て、
「オンラインの場合、募金をしてくれそうな人が多く集まる場所はどこだろう?」
「多く集まる場所に動画を配信するにはどうすればいいだろう?」という施策を考えることができるようになります。
成功事例を真似ることは一つの手段ですが、真似るべきは具体的な施策ではなく、往々にして語られていない“あるべき状態”です。
このようにして街頭募金のプ譜を参考に、オンライン募金のプ譜を考えていきました。
(これについて詳しく話すのも本筋ではないの先に進めます。一つみなさんにお伝えする価値のあることとしては、自分が取り組むプロジェクトの参考になるプロジェクトがあれば、それのプ譜を書いてみるということです)
オンライン募金のプ譜を中高生たちと考えていたとき、ふと頭に浮かんだのが、
「人は何に寄付しているんだろう?」
ということでした。
オンライン募金では、NPOが取り組んでいることの社会的な価値を、わかりやすくエモーショナルに視聴者に届ける構成をつくり、視聴者の感情に訴えかけるような映像・画像選びをすることに苦心してきました。
ただ、街頭募金で道行く人々に呼び掛けているとき、動画のように詳しい情報を届けていないじゃないか、ということに思い至ったのです。
もし、道行く人々が募金活動の背景にある情報を詳しく聞くことをせず募金しているとしたら、人は何に対して募金をするんでしょう?
何が原因となって寄付という結果につながるのか?
人は何に対して寄付をするのか?
という問いは、オンライン募金プロジェクトの進め方を考えるうえで非常に重要です。
この問いからオンライン募金プロジェクトの進め方を考えることができれば、より良い結果になっていたかも知れませんが、残念ながらこのプロジェクトに残された時間は少なく、プロジェクトの進め方を考えなおすことはできませんでした。
私がまだわからないのは、プロジェクトに取り組むうえでの本質的な問いはプ譜において「獲得目標」を問い風(ふう)に言い換えれば良いのか、獲得目標とは別のものなのか?ということです。
このような本質的な問いは、プロジェクトに取り組む前に思いつけないのか、やっているうちにしか思いつけないのか、ということです。
今回のプロジェクトのように、参考とするプロジェクトの構造を明らかにするなかで思いつけるのか、それなしに思いつけるのかということです。
一人で考えだせるのか、関わる人々と対話しているうちに出てくるのかということです。
プ譜には既に一通りの書き方の手順がありますが、今回プロジェクトの「問い」というものを発見して、あらためてこれをどう組み込めば、良いプロジェクトの進め方ができるのかを考えなければいけないようです。