予定通り進まないカスタマーサクセスの進め方

2018年9月13日に、サブスプ勉強会第2回『自社の業務に「カスタマーサクセス」を取り入れる』
と題した勉強会を開催しました。



「なんでサブスプ?サブスクじゃないの?」と疑問に思われたみなさまは、
大変恐れ入りますが本勉強会の企画背景記事をご覧頂き、どのような趣旨で運営しているかを
ご理解頂けますと幸いです。

サブスプ勉強会第1回『サブスクリプションビジネスのKPIとその作り方・使い方』



本勉強会の趣旨はご理解頂けたとして、今回カスタマーサクセスをテーマにした理由をご説明致します。
第1回の勉強会で、ゲストの林直幸さんから、サブスクリプションビジネスを行う上での「3つの重要指標」を解説頂きました。

  • 解約率を下げる
  • 定期利益率を上げる
  • 成長効率性指標を下げる

この3つの指標の「あるべき状態(Key Result)」と「施策(Key Action)」を企画検討し、進めていくことが必要なわけですが、特に解約率と成長効率性指標にカスタマーサクセスが有効ではないか?と考え、書籍『カスタマーサクセス』の訳社である、バーチャレクス・コンサルティング株式会社の奥村祥太郎さんをゲスト講師にお招きしました。


奥村さんには書籍『カスタマーサクセス』で紹介されている「カスタマーサクセス10の原則」の他、
顧客接点・CRMを取り巻くキーワードや、10の原則を時間軸で整理する場合の流れなどを解説頂きましたので、以下要旨をご紹介します。


●顧客接点・CRMを取り巻くキーワード

  • 商品・サービスのコモディティ化によって、商品やサービスそのものの質だけでなく付加価値による差別化が求めれる
  • カスタマーエクスペリエンス(顧客経験価値)を高めることが求められる
  • サブスクリプション型ビジネスの拡大。利用開始後から顧客接点における長期的で良好な関係構築が必須
  • 顧客の成功を第一に考え、設計し、行動する「カスタマーサクセス(顧客の成功)」の概念の登場


●カスタマーサクセスと、カスタマーサポートの違い

  • カスタマーサポートは、問題が発生してから対処する「待ち」の姿勢
  • カスタマーサクセスは、問題を発生させない「攻め」の姿勢


●日本でのカスタマーサクセスの広がり(Google検索数)

  • 2018/3/23時点で約114,000 件だったのが、2018/10/9時点で約369,000件。


●カスタマーサクセスの10原則

1.正しい顧客に販売しよう~客を、“選ぶ”

  • 顧客との関係性は「売ったら終わり」ではなく、「売ってからが始まり」
  • だからこそ、自社にとって、正しい顧客に製品を販売して、プロダクトマーケットフィット(PMF)な状態になっている事が重要
  • それに当てはまらない顧客を選んでしまった場合、顧客の維持にはより手間と時間を要すことになり、Churn(チャーン/解約)になりやすい
  • その場合、契約時やその後のリテンション(Retention=維持)に費やした時間や コストが全て無駄になってしまう


2.顧客とベンダーは何もしなければ離れる~“徹底的に、”フォローする

  • 自社製品・サービスの導入を決めてくれた顧客に対しては、常にその価値を感じ続けてもらわなければならない
  • しかし、顧客も自社も、会社も人も、ビジネスモデルも、製品もいろいろ変化する
  • なので、何もしなければ両社の関係は段々と離れていってしまう。関係性を保つためには、意識して積極的に連携することが必要
  • 解約を防ぐためには、導入後の顧客の利用状況をモニタリングすることで、解約の前兆を読み取り、先んじて対策を打つ事が必要


3.顧客が期待しているのは大成功だ~“結果”に、コミット

  • 顧客は、製品やサービスの特徴や機能を使うために契約を結んでくれるわけではない
  • その製品やサービスを利用する事によるあらゆる活動(カスタマーエクスペリエンス)を通じ、大きな事業目標を達成するために契約する
  • だからこそ、顧客が事業目標を達成するために正しい道を進むよう促すことは、自社の義務


4.絶えずカスタマーヘルスを把握・管理する~“数字で”、顧客を把握する

  • 顧客の事業を成功に導く為には、顧客の状況を常に把握しておく必要がある
  • 顧客の事業の健康状態を、顧客ごとに項目を定義し、顧客ごとに常に把握・管理することが必要
  • そうすることで、自社製品やサービスの契約更新、アップセルの機会、チャーンなどのリスクの前兆など、顧客が起こすであろう将来の行動とその時期を前もって予測することが可能となる


5.ロイヤルティの構築に、もう個人間の関係はいらない~“仕組み”で、ファンにする

  • 顧客との関係性を保ち、自社とのつながりをより強化するには、顧客に応じて対応方針を変えていくことが求められる
  • その場合、顧客との個人的な関係からのみ生まれるような取り組みではなく、全社で統一した計画に基づくアプローチが必要
  • 自社の事業の実態に則して顧客をセグメント分けし、各セグメント顧客への対応方針や、コミュニケーションの頻度を決める(ハイタッチ、ロータッチ、テックタッチ)
  • 顧客同士のコミュニティ形成促進や、彼らからのフィードバックの流れを作ることで、一対多であってもロイヤルカスタマーの育成が可能


6.本当に拡張可能な差別化要因は製品だ~顧客の声をよく聞き、“本当にいいもの”をつくる

  • 顧客のリテンションや顧客満足で鍵となるのは、よく練られた製品・サービスと最高レベルのカスタマーエクスペンスを提供できているかどうか
  • そのためには、顧客からのフィードバックを社内でループさせる仕組みとし、常に顧客の声に耳を傾け、自社の製品・サービスをより高度なものへと拡張していく、継続的な取り組みが必要
  • その取り組みを続けることで、顧客の満足度をさらに向上させ、ロイヤルカスタマーへと育てていく


7.タイムトゥバリューの向上のとことん取り組もう~まずは、“さっさと”、結果を出す

  • 顧客が製品、サービスを利用するのは、それが価値をもたらし、事業成功につながると考えるから
  • なので、顧客にいかに早く価値を感じてもらうかが重要。遅ければ遅い程不満に繋がる
  • 顧客に価値を感じてもらうまでの時間=タイムトゥバリューをいかに短くできるか
  • できるだけ早く価値を感じてもらうためにも、顧客にとっての成功の指標を明確化し、もっとも成果が表れやすいものから取り組む

8.顧客の指標を深く理解する~定量+定性情報で、顧客 の状況を、“深く”理解する

  • サブスクリプションビジネスの成功は、既存の顧客をどれだけ維持・拡大できるかが肝
  • なので、自社としてどういう単位(顧客・部門・契約単位?)でチャーン(解約)とリテンション(維持)を計測するかを定義、計測することが必要
  • さらに、定量的な情報に加え、契約を継続してくれた既存顧客や、自社にとっての重要な顧客からの生の声を把握する(=ハイタッチ)事も重要
  • 上記を通じ、顧客の状況を正しく理解をし、自社の優先課題から取り組み続けるべき

9.ハードデータの指標でカスタマーサクセスを進める~“数字で”、自社の 取り組み状況を把握する

  • カスタマーサクセスの取り組みを推進していく上で、実行する部隊(=カスタマーサクセス部門およびカスタマーサクセスマネージャー)の成熟は必須
  • 成熟度の指標となるのは「反復できること」、「プロセスが定義されていること」、「計測していること」、「最適化されていること」
  • そのために、自社の成熟度を示す指標を定義し、定量的に把握した上で、活動を高度化していく事が必要


10.トップダウンかつ全社レベルで取り組む

  • カスタマーサクセスは全社レベルでその重要性や必要性を理解しなければならない理念
  • この革新的な改革を推進できるのは、他の誰でもないCEO

以上のお話を踏まえ、奥村さんからこの10原則は必ずしも全てをやらなければいけない訳ではなく、カスタマーサクセスに取り組む、或いは自社のビジネスのフェーズで使用する原則が異なるということが強調されていました。さらに、この原則をカスタマーサクセスに取り組む順番で整理した図を提示下さいました。(これは書籍には書いていないことだったと思うので、たいへんありがたいスライドです)



奥村さんから10原則の解説を頂いた後は、カスタマーサクセスを自社業務でプロジェクトとして実行するためのケーススタディを、プロジェクトの構造を可視化する「プロジェクト譜(以下、プ譜)」にプロットして頂きました。

(拡大してご覧下さい)

また、私からは実際のサブスクリプションサービスを例に取り、既にカスタマーサクセスを実行されているBenchmark Emailさんのカスタマーサクセスプロジェクトをプ譜にしました。

(拡大してご覧下さい)

本勉強会では、こうしたカスタマーサクセスのプ譜を、様々なサブスクリプションサービスを運営しておられる方に記述頂くワークを行わせて頂きました。

このブログは勉強会終了後の電車内で書いており、だいぶ疲弊してまいりましたため、最後に勉強会には参加しなかったけど、このカスタマーサクセス10の原則を、自分のサブスクリプションビジネスに当てはめて、プ譜を使って仮想演習をしたいという方に書き方のポイントをご紹介してPCを閉じたく思います。


  1. 上図のプ譜フォーマットをプリントして紙と鉛筆を用意する。(プリントしないで白紙に書いてもいいです)
  2. まずは自社のサブスクリプションビジネスにおいて、カスタマーサクセスを導入しと「どうなりたいか?」という目標を書く。
  3. その目標がどうなっていたら成功と言えるのかという勝利条件を書く。
  4. 左端の「廟算8要素(所与のリソース)を書く。(書けないものは書かなくてもOK)
  5. 勝利条件を果たす上で、あるべき状態を2つ以上書く。書いたら勝利条件との間に線をつなぐ。
    (1つしかないと、そのルートがイケていなかった場合プロジェクトが停滞するため)
  6. 個々の中間目的を果たすための施策を書く。書いたら該当する中間目的の間に線をつなぐ。
  7. 勝利条件や中間目的は「定性的」にも「定量的」にも表現して良い。
    定量的だと具体性が上がるが、打ち手が乏しくなることが多い。打ち手が乏しくなったら定性的な表現に言い換えてみる。そうすると打ち手が広がる。
    逆に、定性的に表現して具体性が乏しい場合は、定量的に表現する。
  8. 頭の中でもんもんと考えず、とにかく書き出すことが大事。書いてみて、実際にやれるかどかは所与のリソースや「勝利条件」を果たす上で優先度が高いかどうかなどで判断すれば良い。

自社のカスタマーサクセスをどう進めるのかという筋道・プランがまだうまく描けていない。或いは、その筋道をプロジェクトメンバーやステークホルダーと握り合えていない場合は、ぜひこのプ譜を書いて共有してみて下さい。
参加者の方から、トップが「こうやろう」というプランはあるが、現場(質問者の方)にいると自分の方が正しいと思う施策もある場合、そうすれば良いかという質問を頂いたのですが、そのカスタマーサクセスのプロジェクトの「勝利条件」をお互いに書き出して共有することを、つとにお勧めします。
「私はこう思っていたのに、あちらはああ思っていたなんて」というセリフをはくのは、プロジェクトが炎上・終了してからでは手遅れです。

このカスタマーサクセス10の原則とプ譜のつくり方をもっと詳しく知りたい!という方は、ぜひ両書をお手に取ってご覧下さい!


   


なお、次回のサブスプ勉強会は、10月23日(火)開催。テーマは「コミュニティマーケティング」です。


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