ブログレポート 『華道で体験する、プロジェクトの進め方の要諦~第6回プロジェクト工学勉強会』

2018年8月9日に『華道で体験する、プロジェクトの進め方の要諦~第6回プロジェクト工学勉強会』を開催しました。

「なんで、華道とプロジェクト?」

と疑問にお感じになる方は、お手数ですがぜひこちらの記事をご覧下さい。
『華道から学ぶ、プロジェクトの進め方の要諦』

ざっくりポイントを申し上げますと、華道というと女性のお稽古、嗜みとしての生け花をイメージしてしまいますが、華道は鎌倉、室町、安土桃山(戦国時代)期にかけて、武将が自らの精神修養、モノゴトのまとめ方のスキル、戦(いくさ)のシミュレーション行うためのツールでした。限られた種類で、かつ刻々としおれていく素材を使い、きれいに花を立てていかなければならない。これが、プロジェクトを進めていく我々にとっても貴重な体験になるのではないかと考えたわけです。

ゲスト講師は、石草流(せきそうりゅう) いけ花 家元後継の奥平清祥さん。


プログラムは以下の流れで行いました。

  1. 華道のなりたちと現代のビジネスの接続点(奥平さんの講演)
  2. 花を立てるワークと意思決定のプロセスを記述するワーク
  3. 立てた花と記録を元に、参加者同士、及び奥平さんからレビュー

花を立てるにあたり、奥平さんから『華道のなりたちと現代のビジネスの接続点』と題して講演頂きました。
以下、メモで要点をご紹介します。

●華道のなりたち

  • 華道などの日本文化は、変えてはいけないことを残すために、一見変わらないように、時代に合わせて様相を変えてきた。
  • 短期的な成長拡大ではなく、長く長く存続することを事業目標とする。
  • その時その時の人々にあうよう、様相や価値を変えて社会をリードする役割も担った。
  • 過去や歴史から、自分たちしかできないことを換骨奪胎して、価値を革新する。即ちイノベーション。
  • 日本人は遊びの中から自分の足元にあるものを再発見してイノベーションするのが得意。


●華道とプロジェクトにある共通点として

  • 遠目からみればこれは花だ、枝だとわかるが、実際に手に取ってみないと詳しい形状やコンディションがわからない。
  • 花や枝といった思い通りにならない素材を使い、どう立てていいかよくわからないゴールに辿り着かなければならない。
  • (立てた花が)正解、成功といえるかどうはは非常に定性的。自分で決めるしかない。
  • 華道を嗜んだ武将は、有事=戦の訓練を華道でやってきた。
  • 兵士は平時は農民であり、食料をつくっていてほしいので、そうそう訓練を施すことができない。
  • どこの集落には山があるので足腰が強いだろうとか、川の近くの集落は治水作業に向いているなど、「適材適所」の訓練も華道で磨く。
  • 適材適所の力を磨くため、自分の持っている素材(手ごま)だけで成功に導いていかなければならない。
  • 孫子などの兵法書を読んで学ぶこともできるが、学んだ戦略はシミュレーションにのせる必要がある。
  • その、のせるものとして華道が武将たちに愛された。


華道が戦のシミュレーションであったというお話を聞いた後は、いよいよ花を立てるワークです。
今回の勉強会では、花を立てる行為を通じて、プロジェクトの要諦を学ぶことを目的としましたが、ただ花を立てるだけではプロジェクトの学びや気づきを得ることは難しいです。
体験からより多くの、或いは深い学びや気づきを得るために、以下のような工夫をしました。



  1. 二人一組でペアになり、花を立てる人と記録をする人に分かれる。
  2. 立てる人は、自分が花を立てていく上で考えたこと(何を選ぶか、どこに何を立てるか、判断に迷うところ等々)を口に出していく。
  3. 記録する人は、口に出たことを紙に書き起こし、さらに1分に1回、花が立っていく様子を写真撮影する。


このワークの狙いは、下記の通りです。

  • 自分の思考(選択、判断、意思決定など)のプロセスを外に出す
  • 文字と写真で記録することで、思考のプロセスを外在化する。
  • 客観的な情報把握、メタ視点を持てるようになる。


プロジェクトを進めていく上で、マネージャーやリーダーが何を考えているのかよくわからない。考えていることを話してくれなくて不安ということがあると思います。それをどんどん外に出していく。
プロジェクトにおいてはこうあれかしと考えて様々な施策を打っていきますが、それによって起きた変化、得た情報、遭遇した事象によって、そのプランを更新していく必要が出てきますが、そうした時、情報をどのように受け止めたか、どのような基準でその施策を採用・変更・中止したかといった意思決定のプロセスは、ほぼ記録に残りません。
私はプロジェクトを進めていく上では、こうした意思決定のプロセスが自身の振り返りにとっても、同僚や更新のナレッジとしてもたいへん役に立つと考えているのですが、これを(写真は機械的に時間を決めて)記録して、振り返りしやすくしようとしました。
そして、立てた花というアウトプットと、テキストと写真で記録した思考のプロセスを用いて、プロジェクトにおける意思決定についての学びを深めようと考えました。



15分という制限時間の中で花を立てていくにあたり、参加者のみなさんからは以下のようなツブヤキが出ていました。

  • さしてから考えるのは難しいので先に考える
  • 色が多いとごちゃごちゃする
  • 意外と白い花を合わせるとあわない
  • やっぱこっち
  • とりあえずさしてみよう
  • 大きい葉っぱが好き
  • 赤が引き立つ感じが好き
  • シンプルなものしか作れない
  • なんか一枚足りないぞ
  • 全部使わないなら切ろう
  • 何か見えた感じ
  • こっちを使ってあげないとかわいそう
  • これでもう後戻りできません
  • むずかしい、むずかしいぞ!
  • もうちょっと短くしよう
  • ちょっと待って!
  • 思ったように挿せない
  • やりすぎです
  • 取れちゃった


これは抜粋したブツブツなので時系列ではありませんが、実際のプロジェクトでプロマネがこれらのブツブツに相当することを呟いていたら、かなりドキドキしませんか?しかし、こうした情報を記録し、プロジェクトメンバーと共有しておけば、プロマネ一人では判断しきれなかったり解決できなかったりする問題解決につながったり、もっと早く対処できるようになったりするのではないでしょうか。

またこのワークを行う途中で気づいた方も多かったのではないかと思いますが、1回目に立てた方と2回目に立てた方との大きな違いは、2回目に立てた方の方が、有利だったということです。
具体的には、枝を削るナタの使い方。立てていく時の力加減。ペア及び他の参加者の立てた花(アウトプット)を見ていたことは、時間の有効活用につながり、、自分が立てる花のイメージを一人目の方よりも鮮明にし、ゴールの道筋を豊かなものにしていたことでしょう。



今回の勉強会は初めての試みでしたが、他にも面白い現象がありました。

30名が15のペアに分かれてワークを行いましたが、花を立てることに没頭し、思考を口に出すことを忘れて会場が静かになっていくと、つられてどんどん静かになっていきます。運営者の私たちが促さないと黙々と作業してしまう傾向が見られました。



また、ペアを組んだ相手にも影響される部分があったと思います。このワークでは、記録係は「だまって記録だけしてください」とは一言も言いませんでしたが、多くの方は黙々と記録に勤しんで頂きましたが、中には助言を行う方もいました。これはペアを組む人のキャラクターや性格にもよりますが、この助言をありがたく感じたり、助言を活かすことのできる人もいれば、それを迷惑に感じる人もいるだろうということです。
(誰をアサインするのか、チームメンバーの組み合わせ、ほんと大事ですね)


花を立て終わった後は、互いに振り返り(peer review)を行い、立てた花の姿によって異なる思考やリーダーシップのタイプについて奥平さんに解説頂きました。



30名の方がどのような思考プロセスを経て、どんな花を立てたか。そこにどんな思考のクセやタイプがあるかといった解説は、後日PDFにしてみなさんにお渡しするため、参加された方だけのお楽しみですが、FacebookやInstagramなどのSNSで、「#華譜」と検索頂くと、立てた花の完成品が見られるのでチェックしてみて下さい。

最後に、今回の勉強会の様子をダイジェスト動画にしてお届けします。


会社のリーダーシップ研修、チームビルディングや組織開発などにもお勧めの内容になっていますので、ご興味があれば、ぜひ下記の奥平さんの「あぢさゐサロン」を体験してみて下さい。

そして、今回行った意思決定のプロセスの記録を、現実のプロジェクトに当てはめるのに最適なフォーマットに「プロジェクト譜(プ譜)」があります。



このプ譜についてはこちらの記事(『プロジェクトはそもそも計画通りにいかないようにできている!?』宣伝会議アドタイ)を参照頂きつつ、もっと早く知りたいぞ!という方は、ぜひ拙著をお手に取ってご覧下さい。



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