世界のロボット大会で見せた、小中学生のプロジェクト力に瞠目せよ!

2017年からプロジェクト工学勉強会を始め、その間『予定通り進まないプロジェクト』を出版して以降、イベントやコンサル活動を通じて数多くのプロジェクトを見聞きしてきました。
多くのプロジェクトは、当初描いていた計画通りに進んではおらず、その理由は様々あります。

  • プロジェクトを進める上で、人材や社内環境など十分なリソースを会社が与えてくれない。
  • メンバーの中にプロジェクトの進行を妨げるような「外敵」がいる。
  • ボトルネックとなっている課題に対して良いアイデアが出てこない。

こうした問題や想定外はプロジェクトに付き物であり、これらに遭遇してからがプロジェクトであると言っても過言ではないと思いますが、これらが原因でプロジェクトは頓挫・炎上していくこともまた事実です。

プロジェクトとは未知を含む活動であり、未知のない活動とはルーチン業務です。ルーチンにはマニュアルがありますが、プロジェクトにマニュアルはありません。

プロジェクト工学勉強会では、参加者の皆さんのプロジェクトを「プ譜」(プロジェクトが進む過程を将棋の棋譜のように可視化したもの)に書き起こすというアクティビティがあります。このプ譜をつくる題材は現実のプロジェクトだけでなく、古今東西の歴史上の出来事の他、マンガや小説も題材になります。
(参考 『宇宙兄弟から学ぶ、これからの時代のリーダーシップとは』

プロジェクトという再現性の低いものだからこそ、様々なプ譜をアナロジーを発揮して見聞きすることで、自身のプロジェクトに活かすことのできる教訓やアイデアを引き出すことができます。

今回ご紹介するのは、小中学生のロボットプロジェクトですが、「子どもだから」とはとても侮れない大人顔負けの、否、大人でもなかなか成し難いプロジェクトのプ譜です。

「FIRST LEGO League(※以下FLL)」という、9歳~16歳を対象とする世界的なロボット競技大会があります。この競技は自律型ロボットで2分30秒の間にミッションの攻略を目指す『ロボットゲーム』の他、3種類のプレゼン競技があるのが特徴です。

チームの強みや協調性をアピールする「コアバリュー」。
自分達のロボットの長所、工夫したポイントを説明する「ロボットデザイン」。
毎年異なるテーマ(課題)に対する研究活動を行い、その解決方法を提案する「プロジェクト」。

研究活動といっても、小学校のやっつけ自由研究と同等に考えてはいけません。「プロジェクト」では実社会の中で実現可能であることが必須条件になっています。

このFLLに挑み続けた小中学生チームが、今回紹介するプロジェクトの主人公です。

このチームに関わることになったもともとの目的は、今年でチームを解散するにあたり、次の目標に向かって進んでいけるような機会をつくりたいというチームの保護者の方の要望でおじゃましました。
ただ、私自身なにか目標を決めて生きてきた人間ではないということと、十数年のプロマネ経験上、次の目標となる種は今のプロジェクトに埋め込まれていることが多いということ。
そして、2021年の大学入試改革で求められる「主体的な学び」を見据え、チームメンバーがプロジェクトの目標達成のためにどのように行動し、遭遇した問題や想定外にいかに対応し、意思決定してきたかといったことを、直近のFLLプロジェクトを対象に私が教えてもらうという体でヒアリングをし、プ譜に書き起こすということを行いました。

チームリーダーのともあき君の自宅におじゃましてヒアリングを行いました。

チームは2012年からFLLにチャレンジを始め、2014年から世界大会に出場しています。チームの獲得目標はもちろん「FLLで世界一になる」こと。この目標を果たすための勝利条件は何なのかを質問したところ、その答えは「競技大会の得点」ではなく、「楽しんで勝つ」というものでした。
FLLでは、ロボット競技が400点満点で、プレゼン競技が600点満点となっており、ふつうに考えれば、この点数を獲得することを勝利条件にしたくなるところです。

みなさんのプロジェクトでも、新規事業プロジェクトの初年度売上金額や、スマホゲームのアクティブユーザー数など、定量的な指標を掲げていると思います。ただ、チームメンバーは数年間のチャレンジを経て、高得点を狙うのは当たり前であり、それだけでは足りない「楽しむ」ということを勝利条件に掲げました。これは、プレゼン競技の「コアバリュー」でも求められることであり、チームの弱みであったことを認識してのもののようでした。
(よろしければ、このまま読み進める目を止めて、この定量的ではない指標を勝利条件に掲げるということを、一度みなさんのプロジェクトに置き換えて考えてみてください)

この「楽しんで勝つ」を勝利条件とする場合の中間目的や施策。そして、プロジェクトを進めるにあたっての所与のリソース(下図のプ譜では「廟算8要素」と言います)をヒアリングし、下図のようなプ譜ができあがりました。

拡大してご覧下さい

本来のプ譜は、プロジェクトの過程で遭遇した事象や行った意思決定を棋譜のように更新していくものでありますが、これは2018年のFLLでメンバーが事後的に振り返ったもののまとめとしてご覧下さい。

まず、プ譜の左側の「廟算8要素」をご覧下さい。
当時チームが置かれていた環境は恵まれていたとは言えません。彼らの活動場所は拠点となる英語・プログラミング教室が引っ越した影響で、これまでワンフロアをあてがわれていたのが、英語教室と同フロアになりました。ワンフロア時代は音楽をかけ、自分たちがノレる環境で作業ができていたのに対し、フロアを共有するようになってからは、同じように振る舞うことができなくなります。
また、数年来チームを組んできたコアメンバーの他に、新しく小学生メンバーが加入しますが、経験の浅さは時にネガティブな発言を発したり、センシティブな作業を要する場面であっても、場の空気が読めず作業を滞らせる行動を取ってしまうことがありました。この状況、満足な環境やリソースが与えられていないと嘆くオトナも、他人事とは感じられないのではないでしょうか。

次に、目をプ譜の中央部に移して下さい。
「楽しんで勝つ」ためには、メンバー一人一人が楽しんでいなければならない。また、メンバーが一人だけ楽しんでいるのではなく、チームとして楽しんでいる必要がある。そして、楽しむためには誰かにやらされ、誰かの後追いではなく、自分たちのオリジナリティを発揮すること。これらがこのプロジェクトの中間目的となりました。

そして、それぞれの中間目的を果たすための諸施策が並びます。
ここで記述しているのは粒度のあらいものであり、上述したとおり、いきなりこれらの施策に達している訳ではありません。プロジェクトを進めながら。或いは、この日振り返ってみて初めて言語化されたものも混じっています。また、2時間というヒアリングの時間で聞き取れたことは、2017年9月のキックオフから2018年5月の世界大会までに経験してきたものごとの極々わずかなものであり、それらを以てして、彼らのアイデアやナレッジを表現することはできません。

例えば、『ロボットゲーム』の課題の一つに、対象物をひっくり返すというものがありました。
この課題をクリアするためのロボットの動きに困っていたT君は、作業に行き詰っている中、食事中に目にした「ヘラでお好み焼きをひっくり返す動き」から、課題をクリアするアームのアイデアを得ます。
これはアナロジーが見事に発揮された例であり、歴史上の多くの大発見がこうした「一見関係のないものから着想を得る」ことで起きていることを鑑みると、この出来事がいかに素晴らしいことであるかを納得頂けるものと思います。

この話がキッカケで、同じく獅子舞の動きからアームのアイデアを思い付いた事例の他、「プロジェクト」のプレゼンテーションで審査員にインパクトを与えるために、Kさんが思いついた「日本チームであることをより印象付けるため、巻物や紙芝居を使用した」事例がみんなの口からポンポン出てきます。こうした閃き・創発力の他、思いついたアイデアをすぐさま表現できる基礎的な技術力・工作力の高さに、本当に舌を巻く思いでした。

また、世界大会に出場するには、関東大会、全国大会で上位入賞することが必要なのですが、関東大会仕様のロボットをつくっていては、絶対に世界大会で高得点を取れないのだそうです。世界大会で高得点を取るための仕様を関東大会で実験し、そこで出た課題を全国大会で修正し、完成版を世界大会で出すという戦略を採る。
関東大会では実験段階でのロボットであっても、その後このロボットがどのように発展していくのかを説明するプレゼンテーション次第で、審査員が納得すれば良い得点を与えられるという話も聞きました。
この話もまた、われわれオトナがプロジェクトをどのようにレビューし、評価するかという問題にヒントを与えてくれるものです。


話を聞きながら彼らがFLLで得た経験はとてもこの2時間で記述しきれないと思い、このプロジェクトを2017年9月のキックオフからプ譜に書き起こしていくことを提案しました。そして、主宰するプロジェクト工学勉強会でもぜひその経験をオトナたちに共有してもらうことを依頼しました。

この提案と依頼を彼らが受けてくれるかまだわかりませんが、少なくとも私は2時間のヒアリングの中ですっかり彼らのファンになりました。


みなさんにも彼らの素晴らしいキャラクター、プレゼンテーションを届けられればと思い、粘り強く交渉して参る所存です(笑)。


※プロジェクトを進めていくための力や、『プ譜』についてもう少し詳しく知りたいと思って頂いた方は、よろしければ拙著をご覧下さい。




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