「鳥取県の障害者工賃3倍プロジェクト」のプ譜を書いてみる。

私が参加しているソーシャルデザインサロンには、社会の課題解決につながるビジネスや、新しいテクノロジーを活用した次世代ビジネスの活動を準備・進めている多様な人々が集まっています。
このサロンでは実際に集まって勉強会を開催する他、オンラインで自身のプロジェクトをプレゼンし、参加メンバーのディスカッションを経て、フィードバックを受ける「フューチャープレゼンテーション」というプログラムがあります。
先日、このフューチャープレゼンテーションに参加するにあたり、登壇された方のプロジェクトをプ譜にしました。私の友人・知人のみなさんには、興味関心の高い分野だと思いましたので、許可を頂いてご紹介致します。

プレゼンをされたのは西嶋利彦さん。プレゼンの内容は、『鳥取県の障害者工賃3倍プロジェクト』の一つの事業である、アッセンブリー事業でした。

このプロジェクトの背景の概要を紹介します。
障がい者の方たちのうち、通常の事業所に雇用されることが困難な方に対して、就労機会の提供とともに,仕事を通じて当該知識や能力の向上のために必要な訓練を行う、「就労継続支援」があります。雇用契約を結び利用する「A型」と、雇用契約を結ばないで利用する「B型」の2種類があり、より障害が重い人はB型を利用するケースが多いです。全国平均月給は約15,000円で、障害者年金を受給しても7万円弱にしかならず、自立した生活を行うのは難しいのが現状です。
この課題改善を目的に立ち上がったのが、鳥取県が日本財団と策定した『障害者工賃3倍プロジェクト』です。このプロジェクトでは、鳥取県が「ワークコーポとっとり」という共同作業所を開設し、これまで個々の作業所単体では受注が難しかった、企業からのアッセンブリー作業の大量注文に対応できるハコを用意しました。

しかし、ハコを用意するだけで工賃が上がるわけではありません。工賃を上げるための作業付加価値向上のために、西嶋さんは取締役を務める株式会社kakeruが業務委託を受け、品質管理のノウハウ提供や企業への営業活動などを行っています。
(※ちなみに、鳥取県からの業務委託が2018年6月末をもって終了することになっており、西嶋さんはkakeru社を退職し、鳥取の現場に残ってプロジェクトに参画していく予定とのことです)

では、西嶋さんのプロジェクトを取材記事などを元に作成したプ譜をご覧下さい。

※拡大してご覧下さい

西嶋さんは、このプロジェクトの獲得目標を、「アッセンブリー事業プロジェクトで、働く人たちの境遇の改善する」としました。
そして、私はこの獲得目標を聞いて、その勝利条件を、「営業先企業の”福祉事業所だから低賃金”という固定概念を覆す」と表現しました。

そのためにクリアしたい中間目的には、

  • 「付加価値の高い作業ができる(アウトプットが出せる生産体制が整備されている。」
  • 「高レベルの作業プロセス、アウトプットをレポーティング、PRする。」
  • 「高レベルの作業に取り組みたいと作業スタッフが思っている。(高い意欲を持っている)」
  • 「異なる作業者、作業所での作業品質を高いレベルで平準化できている。」

などを設定しました。
この中間目的ごとに諸施策を記述してみましたが、これらは西嶋さんのコメントを元にしたものと、
私の提案が混じっていますのでご了承下さい。

高い品質の作業を行う上で、西嶋さんは多くの試行錯誤を経験します。例えば、作業を行うにあたっての入室ルールや異物混入対策、温湿度管理など、日報に残す情報などが当初は不十分だったそうです。そこで、大手メーカーとの取引のある同業者の協力のもと、精度の高いチェックリストを作成し、改善活動を重ねていきました。
また、改善活動を行うにあたっても、大きな変化を作業者が嫌う(苦手とする)ため、ドラスティックに一気に変えるのではなく、作業所の支援員さんに相談しながら、少しずつシフトさせていったそうです。
そうした地道な改善活動の結果、同作業所で働く方の工賃が、当初は月2万円/人から、現在は月4~5万円を支払えるようになりました。また、大手菓子メーカーとの取引が始まったことで、「誰もが知っているあの商品」の梱包作業を行うことで、作業者のモチベーション向上と関わる人々全員の自信につながっているとのことでした。

ハード面の設備が整い、品質管理にはkakeru社のノウハウが注入されている今、プロジェクトの下地はできつつあるととらえるなら、この先は、経験と実績を元に外部への積極的なPR(営業)活動の実施を行っていくと思われます。
また、これは個人的な提案ですが、梱包作業のアウトソーシングだけでなく、梱包(紙、袋、箱など)デザインができる機能を持つことも考えられるかも知れません。
最終的な商品があり、それを梱包し、梱包材をつくり、梱包デザインを行うといった作業があります。ここが完全に分業しているパターンと、デザインと製造を一緒に受けるパターンとがありますが、梱包作業と梱包材のデザイン作業ができるようにならないものでしょうか。
私の知人に、のぼりなどの商業用品の印刷を中心に手掛けている印刷会社があります。そこでは、多くのテキスタイルデザイナーに声をかけ、少ロットからでも自社工場で印刷可能な体制をつくり、デザイナーがつくる製品を実績にして、企業からの案件を受注しています。鳥取県内に梱包材の製造メーカーがあれば、そうした企業とのコラボレーションも考えられそうです。

私は中学校時代に一度だけ、障がい者の方たちが働く作業所に一日見学をしたことがありましたが、彼・彼女らがこの先どのようにして働いていくかということに、恥ずかしながら思いをめぐらせることはありませんでした。
今回、西嶋さんのプロジェクトを知り、何かしら梱包などの作業を必要としている事業活動があれば、紹介からでも始めたいと思った次第です。
もし、みなさんの中でご興味・関心をもって頂けるようでしたら、ぜひ「鳥取県障碍者就労事業振興センター」にコンタクトしてみて頂ければ幸いです。

最後に、プ譜について詳しく知りたいと思って頂いた方は、拙著『予定通り進まないプロジェクトの進め方』をお手に取ってご覧下さい。



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