拝啓クックパッド様

拝啓クックパッド様

初めてお手紙差し上げます。
私は東京山の手のとある住宅地に暮らす三十八歳の主婦でございます。
此の度、どうしても一言御礼申し上げたき儀があり、筆を執りました。

私の夫は、「男もすなる、日記といふものを、女もしてみむとて、するなり」で有名な土佐の国出身でございます。
夫と成婚致しましたのは、つい数年ほど前でございますが、夫の実家から毎年この時候になると鰹が送られて参ります。

目に青葉 山ほととぎす 初鰹 ―、と申します通り、季節の旬を頂戴するのは誠に嬉しく、私などは生まれてこのかた海というものと無縁の土地柄で暮らしておりましたので、鰹一匹をその姿のまま見るのも大変珍しく、送って下さるお義父様、お義母様に感謝しております。

夫はこの鰹をことのほか楽しみにしておりまして、私も美味しく食してほしいと思い、これまで手にしたこともなかった出刃包丁を合羽橋まで買い求め、ご近所のお魚屋さんの御主人にお願いして、お魚のさばき方を教えて頂き、今では夫が亡くなれば小料理屋でも開けるのではないかしらと思うほど、上手に捌けるようになりました。

ところが一つだけ問題があったのでございます。

鰹を捌いてお刺身にするのは良いのですけれど、わが家は夫と私の二人住まいでして、ご近所づきあいもあまりございませんため、お刺身だけでは食しきれないのでございます。
夫も協力をしてくれ、自分が学生時代にお義母様がお弁当に作ってくれたという鰹の塩焼きや煮物、お義父様がお好きな鰹茶漬けという調理法や食べ方を教えてくれましたが、これが三年、四年と続きますと、せっかく送って下さった鰹も、嬉しい気持ちがだんだんと薄れて参ったのです。
夫も鰹が届いたその日の晩はたいそう上機嫌でおりますが、その後数日毎年同じ料理が続くと、口には出しませんが、あまり機嫌の良い顔を致しません。まったく何様でありましょう。


どうにか料理の種類を増やそうと書店を回ってみましたが、魚介類の、それも鰹となるとほとんどがタタキばかりでございます。途方に暮れていた私に七つ下の妹が教えてくれたのが、クックパッド様でございました。
クックパッド様のアプリで「鰹」と検索すると、書店では目にすることもなかった実に多種多様なお料理が出てくるではありませんか。

鰹のカルパッチョ。
鰹とアボカドの韓国風漬け丼。
鰹の和風ユッケ。
鰹のベーコン焼き巻き。
カツオとアボカドのサラダタルティーヌ☆
カツオのポキ(+食べるラー油)

ポキというのはハワイのお料理なのだそうですね。
次々と現れるお料理との出会いに私の胸はいつしか高鳴り、スマートフォンの画面に触れる人差し指は、鼓動に合わせて踊っているようでございました。
しかもそのお料理の多くが、私のような主婦の方々がお作りになっていると知り、私も皆様のように自分の頭で考え、作ったお料理を投稿したいと思うようになりました。

そしてここからが肝心要。クックパッド様にお伝えしたかった事でございます。
実際にクックパッド様を見て作ったお料理はたいへん美味しゅうございまして、特にカツオのポキなどは普段食の細い夫もおかわりを所望しておりました。そこで私はこのように出会ったお料理の数々を、お義母様にもお伝えしたいと思ったのです。
ですが、お義母様はスマートフォンをお使いでなく、インターネットもご覧になりません。
またまた途方に暮れていた私に、夫がそのお料理と調理方法を手紙にしたためて、お義母様に郵送してくれたのです。
それをご覧になられたお義母様は、ご自宅でも早速お作りになり、お義父様と美味しく召し上がったと、改めてお手紙下さいました。
これまでお義父様、お義母様と私の間には、鳴門海峡ほどの溝があるように感じておりましたが、夫がクックパッド様のお料理の作り方を手紙に書き、それをお読みになった夫の御両親がお喜びになり、それが励みとなって私も新しいお料理に挑戦しようという循環が生まれるようになって、私はようやく本当の家族になれた気がしたのでございます。

随分と長いお手紙になってしまいましたが、これもひとえにクックパッド様に感謝を申し上げたかった気持ちが少しばかり溢れてしまったのだと、ご容赦頂ければ幸ひでございます。
梅雨入り前でございます。体調を崩されませぬよう、皆様のご健康を心よりお祈り申し上げます。


※この文章は事実を一部脚色してお送りしております※

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