新しい写真整理の動詞~「Stack(スタック)」

今回のエントリーは先月リリースした、子供の写真の整理、編集アプリ『スクスクロール』で採用したUIの考え方やその経緯をまとめたものです。
アプリのUI、操作方法等を考える立場にある方の参考になれば幸いです。

(※私自身経験の少ない中で、考えをまとめるために書いている所がありますので、表現の至らぬ部分、用語の不適切な部分がありましたら、ご指摘頂ければ嬉しいです)


どう処理する?同じシーンで撮ったり、ちょっとズレたりブレたりした“パンくず”写真。

みなさんは、Stack(スタック:積み重ねる)という言葉をご存知でしょうか。

Webサービス等、プロジェクトマネジメントに携わっている方には、「停滞」という意味を思い浮かべると思いますが、
整理、収納に携わる、関心のある方には、「重ねる」という意味を思い浮かべることでしょう。

『スクスクロール』ではスマホで撮影した、

スマホならではの画像=“連続して気軽に撮った写真群”

を整理する作業を手軽にするため、ドラッグ&ドロップで写真を重ねるUIを採用しており、
その行為及び重ねられたデータの単位を「Stack(スタック)」と呼んでいます。


スマホでは一撮入魂などする必要がなく、とにかく気軽にパシャパシャと写真や動画が撮れるため、ブレたりピントがあっていなかったり暗かったりといったクオリティの低い写真(ここでは便宜上“パンくず写真”と呼びます)や、同じシーンで撮った写真が、Gifアニメよろしくどんどんカメラロール(Androidならギャラリー)に溜まっていきます。

こうした写真は、撮影した対象に特段思い入れがなければ、とっておきの写真を除いて削除していけましょうが、子供の写真となるとそうはいきません。

実際、私は娘の誕生後スマホで写真を撮るようになりましたが、よほどのことがない限り少々のパンくず写真を削除する事はありません(できないのです)。

アプリ開発にあたってまず解決したかったのが、この問題でした。



■イケてる写真を表にして、イケてない写真は下に重ねる。

この問題を解決するにあたってヒントとなったのが、私が昔行っていたアルバム整理の方法です。

私は1994年から2000年まで中国に留学していたのですが、この期間中多くの留学生の方々が日々の生活やイベントで撮影した写真をいつもプレゼントしてくれていました。
(ちなみに、私はカメラを持っていなかったので、いつも写真をもらう側でしたが。。)

こうした写真はサッカーの試合や飲み会で撮られたものが多いのですが、大勢がいる飲み会だと同じシーンの写真を複数人で撮影するので、現像された写真を見ると取り立てて1枚1枚が際立った写真である訳ではありません。

整理のためアルバムを買っていましたが、1枚ずつ1つのポケットに入れるのがもったいなく、アルバムのポケット節約のために、うつりの良い写真を表にして、それ以外の同じシーンの写真やイケてないうつりの写真は1つのポケットに数枚重ねて入れていたのです。

当然、アルバムはパンパンになります。というか、
自分はなんて罰当たりなことをしているんだという気になりましたが、、、まぁ、仕方ありません

※この事を振り返ると、私にとってアルバムというものは写真があればあるほど買い足し(増し)ていくものでなく、できるだけ少ない冊数で納めたかったと言えるでしょう。


■Stackという言葉を「OSORO」で知る。

この“重ねる”という行為が写真整理に使えると思いはしたものの、当初「Stack」という言葉があることを私は知らず、ビジネス用語としての「スタック」だけをカタカナ英語で知っていただけでした。

“重ねる”という意味での「Stack」に出会ったのは、2012年9月にloftworkで開催されたイベントで、MTDO inc.のアートディレクター&デザイナーである田子學さんの講演でした。

講演の中で、田子さんがクリエイティブディレクションを務められた、NARUMI(鳴海製陶株式会社)の食器、『OSORO』が紹介されていたのですが、この食器の開発では、まさにStackする事が課題解決になっていたのです。

©NARUMI corporation

以下、OSOROの特徴を初回する公式サイトからの引用です。

食器棚の中は、誰にとっても悩みの種。お皿は割れものだとわかっていても、むりやり積み重ねないとしまいきれない......。そんなお悩みも、OSORO が解決してくれます。すべてのラインナップが同じ角度やサイズ間隔でデザインされているので、積み重ねても底の厚みだけでぴったり重なる。家族全員ぶんのうつわを、驚くほどコンパクトに収納できます。ひっくり返して収納しても、ほかのうつわと側面がぴったり合わさるので、食器棚でも冷蔵庫でも、整理 整頓に効果を発揮。積み重ねた姿も、まるでオブジェのような美しさ。"見せ収納" が楽しみになるくらい、収納力抜群のうつわです。

重ねるという手段を用いて、素晴らしい食器の整理方法を実現している事。
それを“見せる”楽しみにまで昇華させている事に、私は我が意を得たりという気持ちになりました。

そして、これまでただ「重ねる」としか表現できなかった写真をまとめる行為に「Stack」という言葉があることを知り、以降、アプリ開発において写真を重ねる動詞として、「Stack」を使うようになったのです。


■アプリにはリアルの所作、既存のUI文法を持ち込むと良いと思う。

こうしてStackというUIをアプリに持ち込むにあたり、重視したのは「写真を整理する行為を楽しくしたい」という事です。
年末にTwitterを眺めていると、

「大掃除が終わった。おせちも用意した。さぁ、写真を整理しよう!」

というツイートが沢山流れてきます。
溜まりに溜まった写真を、年末に整理するというのは大変な作業でありましょうが、こうした作業を日常的に、通勤電車の中でも気軽に行えるよう、『スクスクロール』ではアルバムを作って分類していくのではなく、タイムライン上でサクサクまとめられるようにしています。
(一日分、一時間分を自動でまとめる方法も検討しました、まずはその“編集権”をユーザーに委ねることにしました)

そして、StackするUIは、iPhoneユーザーに馴染のある“長押しをしてドラッグ&ドロップ”を採用したのです。
(繰り返します。長押しして、ドラッグ&ドロップで写真をまとめられますw)

あらためて写真整理における「Stack」というUIを振り返ると、アナログ世界に存在していた「重ねる」という行為、言い換えれば既存のUI文法をアプリ内に持ち込んだことで、ユーザーには取っつきやすいUIを提供できたのではないかと思います。
(この重ねる方法を使っていたのは私だけかもしれませんが。。)

また、現在のスマホユーザーが写真や動画をパシャパシャと撮影する習慣の中で、ドンドン溜まっていくパンくず写真を整理するという課題に対し、小さなオケージョン毎に、気付いた時にサクサク写真が整理できるという、一つの解を示せたような気がします。


アプリには未実装の機能があったり、至らぬ点もありますが、写真整理の一手段としてスクスクロールをお使い頂き、使用感や改善ご要望等、お気軽に下記アドレスまでお送りいただければ幸いです。

info@anthill.jp


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