社員・生徒が自分で考えるようになるための、「問題設定者と問題解決者」関係と、問答・対話の可視化の方法

社員や児童生徒が書くレポート・企画書にアドバイスをするとき、アドバイスをするあなたは、どんなことを念頭に置いているでしょうか?社員・児童生徒に「どうなってほしいか?」という願い次第でアドバイスの仕方は変わりますし、書いたレポート・企画書に求める品質、社員・生徒のレベルによっても変わるでしょう。また、社員・児童生徒とあなたの関係性によっても変わるはずです。

この記事では、「初対面の生徒が書いた、大人も答えを持っていない問題解決のレポートについてアドバイスする」という状況で持ち込んだ、「問題設定と問題解決者」という関係の設定と、「問答・対話とプ譜」という方法について、その内容とやり方、結果を紹介します。


思考を深めるとはどういうことか?

社員や児童生徒が一番最初に書くレポートや企画書には、モレ・ヌケ・ソゴが多いものです。よく「もっと思考を深めてほしい」「よく考えて書いてほしい」とアドバイスをする側の人間は思います。

ところで、「思考を深める」とはどういうことを指すのでしょうか?レポートや企画書を書くことについては、下記のようなことが言えると思います。

  • 最初に書いた時点で考えたことには入っていなかった関連情報やものの見方を取り入れる
  • レポートや企画書の論旨の構造を明らかにする
  • レポートや企画書でで使っている言葉の意味をはっきりさせる


どうなっていたら、思考を深めることができるのか?

プ譜はプロジェクトの目標を実現するための全体像(諸要素の関係性や構造)を可視化することができるので、レポートや企画書に書いた解決策を実際に行おうとしたときの、モレ・ヌケ・ソゴを容易に発見することができます。そこから「ここに気をつけなさい」「こうすると良い」といった指摘・指導をすることはできます。ただ、指摘・指導されるという社員や生徒にとっては受け身の状態から、思考を深めることはできるでしょうか?

自分で(主体的に)考えなければ、思考は深まらないのではないかと考えます。



社員や生徒の気持ち

些細なことかもしれませんが、社員・生徒がこれまで自分なりに調べ推敲して書いてきたレポートや企画書に対し、いくら言葉をやわらかくし、モレ・ヌケ・ソゴを指摘したうえで、がんばろうと励ましたとしても、彼・彼女らはそれを受け容れられるでしょうか?

私が血気盛んな若かりし頃でしたら、そうした指摘・指導を受けたなら「いろいろ事情があってこうなってるんだよ」と反発して、もしその指摘が的を射ていたとしても、素直に・前向きに修正できない気がします(お恥ずかしいかぎりですが)。


私の限界

もし、社員・児童生徒にとっても私にとっても、取り組もうとしている問題が未知であれば、私はその問題のエキスパート・プロフェッショナルではありません。教えられる知識がありません。


以上のことは、「互いに経験のない複雑な問題を解決するために、社員・児童生徒と私の関係をどのように設定すれば、社員・児童生徒が主体的に考えることができるか?」というふうに要約できると思います。

この課題に私は、「問題設定者と問題解決者」という関係の設定と、「問答とプ譜」という方法を持ち込みました。


「問題設定者と問題解決者」の関係


「問題設定者と問題解決者」という設定の概要と狙いについて説明します。

問題設定者とは、問題を発見し、取り組む問題を設定する人のことを言います。

企画書を書いた社員、レポートを書いた児童生徒が問題設定者になります。問題設定者は、問題設定者は問題に関する資料・文献を読み、調査して、企画書やレポートという形で解決したい問題とその解決策を記述しています。

問題解決者とは、問題設定者が書いた企画書やレポートを元に具体的な計画を立て、その解決策を実行する人のことを言います。アドバイスをする人(ここでは便宜上「私」とします)が問題解決者になります。

この設定の狙いは、社員や児童生徒が、アドバイスする者から指導・指摘されるという受け身な関係をフラットにすることです。

問題解決者は問題が解決(目標が実現)するように実行するのが仕事であり、取り組む問題についてのエキスパートではありません。問題設定者も調査はしているとはいえ、問題解決者と同じくこの道のエキスパート、プロフェッショナル、コンサルタントではありません。レポートに書かれている問題とその解決策は仮説にすぎません。

社員や児童生徒が発見し、取り組もうとしている問題は、複数のさまざまな要素・要因が絡む複雑な問題です。問題設定者と問題解決者が互いに経験のない、未知で複雑な問題(プロジェクト)に取り組もうとしているんですよ、という設定・関係性を社員・児童生徒に示します。


「問答とプ譜」という方法

プ譜のメリットは上述の通りですが、それをどう使うか?がポイントです。書き方を教えて、社員や児童生徒に書かせ、彼彼女らがモレ・ヌケ・ソゴに気づくようにするということもできますが、「問題設定者と問題解決者」という関係の設定では、下記のように進めていきます。

  1. 問題発見者のレポートをもとに、問題解決者(前田)がこのプロジェクトを実行するという体にする
  2. 解決者がこの問題解決プロジェクトを行う背景、前提、事情、解決策、言葉の意味を尋ねる
  3. 質問に発見者が考え、答える
  4. 解決者がそれをプ譜で目に見える形にして応え返す(reflecting)


この可視化を伴う問答・対話を通じて、企画書やレポートに書かれた解決策がどのような意図で、どんな問題の要素に影響を与えるのか?また、使用している言葉の意味についての共通理解を得ていく―、つまり、プロジェクトの進め方を共同構築(joint construction)することを狙います。

また、これによって問題設定者と問題解決者が一緒に問題解決に取り組むという関係を強めること。話し手(前田)から聞き手(社員や児童生徒)へ向かう一方向の情報伝達ではなく、互いの積極的な関わりと努力があって初めて成り立つ協調行動にすることを狙います。


実際の手順

ここからは企画書やレポートに書かれた仮説をプ譜にしていく流れや進め方のポイントついて紹介します。

まず最初に、問題解決者は事前に問題設定者の書いた企画書やレポートを読み、問題解決者がわかる範囲で、書かれた内容をプ譜にプロットしておきます。

レポートからプ譜にプロットしやすいのは、獲得目標、施策、廟算八要素です。獲得目標は解決したい問題。施策は解決策。廟算八要素は、問題解決のために投入できる資源、使えるお金や時間、関わる人々、対象となる人々、問題を取り巻く環境などのことです。

この事前準備を終えてから、問題解決者が問題設定者と対話・問答していきます。

問題解決者は事前にプロットした情報に間違いがないか?書き忘れていることがないか?といったことを問題設定者にたずねていきます。問題設定者にとっては、自分で調査し、これらの情報は調査すればわかるもので、レポートにも書かれているので、問題解決者から質問されれば、すぐに答えることができます。



すぐに答えられないのは「クオリティ/品質」です。


品質には基準、程度があります。言い方を換えると、品質には決まった基準・単位がありません。品質は「要求」と組み合わさって、基準を得ます(品質の基準は「要求」と組み合わさって変わる)。

この要求とは、解決したい課題(獲得目標)の成功の定義(勝利条件)から提示されます。家電製品であれば耐久性や機能の有無。食事であれば栄養価やおいしさ。サービスにも医療にもIT製品にも、それぞれ異なる品質の基準があります。

品質の基準を設定するには、問題への深い考察から導かれる「こう解決すべき」という意見や、「自分はこう解決したい」という願い・想いなどが欠かせません。これらがプ譜の勝利条件に該当します。


企画書やレポートに勝利条件が書かれていないと品質を書くことは難しく、もし書かれていたとしても、なぜその品質を求めるのか?がわかっていない可能性が高くなります。また、レポートに勝利条件が書かれていないということは、「企画書やレポートで自分が論じたいことは何なのか?」をわかっていない可能性も高くなります。

解決策は企画書・レポートに書かれているので、問題解決者は事前に施策の欄に記入することができます。解決策は問題を解決するために実行するものですが、問題解決者の関心は、「解決策がほんとうに問題に対して有効か?」という点にあります。


要素の導出と状態の定義がプロジェクトの失敗を防ぐ

複雑な問題には複数の、さまざまな要素・要因が関わっています。さまざまな要素が問題を構成しています。それらの要素には、勝利条件(望ましい状態)を実現するために要求される「望ましい状態」があります。

この要素を導出・特定し、状態を定義できないと、複雑な問題に複雑なまま取り組むことになります。複雑なまま取り組むと、プロジェクトの失敗の可能性が高くなるのです。

問題を構成する要素と、そのあるべき状態がわからない・不明瞭なまま解決策を実行すると、成功しても失敗しても、どの解決策が、どんな要素に影響を与えたのかがわかりません。そうなると、何がよくてわるいのか?何が効果的で効果がないのかが評価できません。

評価できないまま進めれば、そのぶん資源と時間を浪費し、期限までにプロジェクトが終了しなかったり、なんの効果も得られないまま失敗に終わってしまいます。

要素・要因は、人の考え方や価値観であったり、問題を取り巻く環境であったり、サービスの提供のし方であったり、各種品質であったり、取り組む問題によって異なります。施策は、これらの要素の望ましい状態を実現するように実行されなければなりません。

つまり、企画書やレポートに書かれる解決策は、問題を構成するどの要素に影響を与えるのか?介入することでどんな「あるべき状態」を実現するのか?が明らかになっていなければならないのです。(でなければ、問題解決者に解決策の意味や、解決策を実行するときの注意点などを伝えることができません)

この問答・対話のプロセスをプ譜にしていく活動を体験すると、社員や児童生徒は下記のような気づきを得ます。

  • 内容の矛盾や不十分さに気づく
  • 論の組み立て方がどんどん可視化されていくことを実感する
  • 自分(が文章を書いていくなかで)これからどこへ向かおうとしているのかを、設定した獲得目標や勝利条件をその都度確認し直すことで、目的を見失わずに内容、構成ともに適切な論を進めていくようにすることを意識するようになる
  • 作成した企画書やレポートで自分が論じたかったことは一体何だったのだろうか?ということを考え直す
  • その都度質問への答えを考え出さなくてはならない状況に陥る


これらの感想のうち、「その都度質問への答えを考え出さなくてはならない状況に陥る」は一見ネガティブに見えますが、自分で考えたということの証でもあります。


「問題設定と問題解決者」という関係の設定と、「問答・対話とプ譜」という方法に興味のある上司、管理職、教師のみなさんがいらっしゃいましたら、実施のコツなどをお伝えしますので、お気軽にメッセージ下さい。


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