10歳の占いが、43歳の父の行動を変えた件

『国語をめぐる冒険』という本で、『歌占(うたうら)』というものを知った。

歌占とは、相談者の悩みに対していくつかの和歌の札から一つを引き、その歌に使われている言葉や歌の意味、歌を詠んだ人物や歴史的背景などを材料に、相談内容に応じて歌を解釈し、相談者にアドバイスを送るというものである。

私は幼少のころから占いを信じないタチで、占いというもののメカニズムを知ろうともしなかったのだが、当時、アーネ(長女10歳)が百人一首を学校で習っていた時期ということもあって、アーネと試してみることにした。

歌占が面白いのは、この和歌をとりまく様々な情報と相談者の内容に橋をかける妙にある。

アーネが占い師の役になり、私が悩み・相談を持ち込む役になる。私が持ち込んだ相談はジージョ(次女6歳)のことである。

ジージョは夕食時、家族全員で食べ始めることができない。テーブルにつかない日もあれば、椅子に座っても食事に手をつけない日もある。特に間食をしていない日であっても、こういうことになる。幼少のころからワンパク腹ペコ男子として生きてきた私にとって、夕食を「いただきます」と食べ始められないことがどうしても理解できず、座らない、箸の進まないジージョを見てはイライラしてしまい、しょっちゅう声を荒げてしまっていた。

この相談を持ち掛けられたアーネがひいたのは、右大将道綱母の歌だった。

嘆きつつひとり寝る夜の明くる間は いかに久しきものとかは知る

※画像は『百人一首 壮麗図鑑』(永岡書店より)

夫がほかの女性をたずねて、自分ひとり夜が明けるまでの長い時間を過ごすことの腹立たしさを表現した歌を、アーネはこの以下のように解釈て、私への宣託とした。

「ジージョはプライドが高いですが、ごはんを食べられるようになるまで、気長に待ちましょう」

このとき私はアーネの歌と相談内容の橋のかけ方に面白みを感じたのだが、この解釈のようにふるまってみようと思った。

幾日かたったある日の夕食、ジージョがみんなと一緒に食卓につき、何事もなく、“ふつうに”食事をした。今思えば、私にとってはそれが当たり前で、ふつうに過ごしたことを取り立てて意識しなかったのだが、夕食後、アーネが私に近づいてきて、「あのときの歌占が当たったんじゃない?」と耳打ちした。

そのとき、私はそういう占いをしたことを思い出した。と当時に、アーネが使った「あたった」という言葉が引っかかった。

「あたった」というと、神様がそのように導いてくださったようなニュアンスを私は感じるのだが、少なくとも歌占のあと数日は、ジージョのプライドを折らないよう、はやく食べなさいという催促をできるだけ抑えて、気長に待とうとしていた。そこには自分の意思が働いていた。この日、ジージョが“ふつうに”食べたことはただの気まぐれだったか、奇跡だったかわからないが、自分の行動もほんの少しは影響したのではないかと思う。影響の大小はともかく、アーネの歌占の解釈が私の行動を後押ししたのだと思う。

もしアーネが右大将道綱母の歌ではなく、別の歌をひいていたらどんな解釈になったのかはわからない。また、アーネではない別の人(たとえば妻)が、同じ歌をひいても、別の解釈をしたかもしれない。

歌占は占い役の言葉のセンスや言葉に持つイメージの豊かさ、和歌を詠んだ人物や当時の政治状況・文化的背景だけでなく、相談相手への共感や傾聴の仕方や度合い、そしてその短い時間のなかで相談者とつくる関係性によって、出てくる解釈と相談者の解釈の受け止め方が変わる、とてもユニークな占いだと思う。

少しでも歌占に興味をもたれた方に朗報がある。

私が『国語をめぐる冒険』で知った歌占に関する章を執筆された平野多恵先生のオンラインゼミ祭りで、歌占を無料体験できるのだ。

オンラインゼミ祭は下記の日程で開催される。

2022年2月5日(土)13:00~17:00 / 6日(日) 10:00~17:00 

定員200名限定

事前予約制、各回30分、無料


ゼミ公式ウェブサイト上で占いの予約を受け付けている。

https://hirano-zemi.wixsite.com/website


その歌占を行ってくれるのは、日々言葉と格闘し、磨き上げ、豊かなイメージを持っている平野ゼミの学生諸君である。この日までに、歌の知識だけでなく、オンラインでのコミュニケーションの練習を重ねてきているそうだ。

ぜひこの機会にご自身の相談ごとを持ち込んでいただき、ご自身の相談に対して、どのように歌を解釈し、橋をかけようとするのかを、ぜひ楽しんでいただきたい。

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