上達のための科学的言語と発想標語・わざ言語

アーネ(9歳)とジージョ(5歳)の「書く」ことから色々考えたことがあったので記録しておくことにしました。

先日、ピアノの練習しているアーネの教本をのぞき込むと、楽譜に色々な文字が書かれていました。

アーネにこれは先生に言われて書いているのか、いつ書いているのかとたずねると、「先生がレッスン中に言ったことを、待ち時間に書いている」ということでした。

アーネのレッスンは二人が一度に教えてもらう形式です。そういえば私もピアノのレッスンは弟と二人で通っていて、弟が教えてもらっている間は私が待っていましたが、私の待ち時間はもっぱら先生の家にあった音楽関連のマンガを読むことに費やしていました。それを思うと、レッスン中に先生に言われたことを、待ち時間に書いておくという行為は言われたことを忘れず記録し、振り返りにもなってたいへん良いものだと感じました。

その一方、文中の表現が気になりました。

「かるく」「ゆっくり」といった表現に交じって、「印象ず(づ)けて」「うねり」「大人なかんじ」という表現が書かれています。

「かるく」「ゆっくり」という表現も、「印象ずけて」「うねり」「大人なかんじ」という表現も、なんとなく意味がわかります。ただ後者のほうが弾き方の表現として直接的ではないというか、解釈に委ねる余地が大きいように感じます。

楽譜にはデリカ―トやカンタービレなどの楽曲演奏上の表現情報を示す発想(曲想)標語が書かれています。こうした言葉は、◯◯秒で◯◯の強さで◯◯の角度から弾きなさいといった、ある事柄を正確に記述・説明する科学的な言葉ではありません。

「大人なかんじ」という発想標語があるのか調べていないのでわからないですが、「大人なかんじ」という言葉・文字にはなっているんだけど、それをどう解釈して表現するかは、“正確に”伝えるのは難しい。でも発想標語のような表現の方が、スッと入ってくる。理解ができる。

この科学的な言語と発想標語のような言語(これを「なに言語」というのはわからないですが、スポーツや看護などの分野では「わざ言語」というようです)は、両方をうまく使いこなすことができれば面白いと感じます。

私はプロジェクトに伴走する仕事のなかで、「お客様が満足している」「チームメイトとのコミュニケーションがとれている」といった表現に対して、「それをもっと具体的にいうとどういうことですか?」とたずねて、あいまいな目標は評価基準を具体的にすることを求めますが、これを科学的に定量的に表現した方が良い状況もあれば、発想標語やわざ言語のような定性的な表現にいした方が良い状況もあります。どちらかに偏るのではなく、往還しながら表現を磨いていくことで、プロジェクトに関わる人々の志向性が揃い、プロジェクトがうまく進んでいくのではないかと思います。

話をアーネに戻します。

発想標語やわざ言語を理解して表現できるようになるには豊かな経験が必要です。わざ言語であれば豊富な運動経験、それも短距離走なら短距離だけの経験ではなく、野山を走り回るとかトランポリンといった自分が今取り組んでいる競技以外の運動や遊び、生活の経験が。

発想標語であれば、例えば「マエストーソ(荘厳に、堂々として、の意)」なら荘厳さや堂々たる様のイメージが持てるような経験が必要です。まだ9歳のアーネに「大人なかんじ」と言っても、アーネに弾いている曲に合う「大人な」イメージが描けなければなりません。アーネがこれまで見聞きして感じてきた「大人な」にどういったものがあるのかは定かではありませんが、そうした経験を通じて、人間の感度を高め広げておくことが大事なのではなかろうかと思いました。

アーネの話はこのくらいにして、ジージョのエピソードに移ります。

保育園の運動会を控え、かけっこやリレーで友達をなかなか抜かせないというので、YouTubeで子どもが速く走れるようになる動画を見て練習するこことにしました。

譜久里武さんが解説する速く走るためのポイントは3つ。

背中をまっすぐにする。腕を顔まで振る。最後までゴールを見る。です。

この3つを覚えておこうとジージョに言うと、「う~ん」と言ってから、「かいとく!」と立ち上がり、鉛筆と色紙を持ってきてこのポイントを書き始めたのです。


アーネと同じ理由で、大事なことを忘れないように書くということをしたジージョ。大人でもメモをしない人がいるのに、書きなさいと言わなくても書くことが自然とできてたいへんありがたいことです。

このメモを頼りに走ってみると、1~2秒早くなりました。このとき、以下のことも併せて行い、何本か走ってみました。

●早く走るためのポイントを書いて覚える。
●ポイントを意識して走っている姿を動画で撮る。
●動画を見返して意識したポイントができているかを確認する。

実行した結果がすぐ返ってくるのは、子どもにとって手応えをすぐに感じ取れて楽しい体験になっているようで、ジージョはこの後何度も走りました。

何度も走ると疲れてきてタイムが変わらなくなり、遅くなってきます。こうした壁に突き当たったとき、科学的な言語とわざ言語的なアプローチができると思います。

スタートして◯秒後に、◯◯をするという定量的な表現と、すっと腕をレバーのように使って伸ばし気味にスタートしようという定性的な表現をコーチやアスリートが言葉を交わし、感覚を擦り合わせていっているのでしょう。

以上、アーネとジージョの「書く」から、様々な言語について考えたことでした。

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