プ譜をつかってプロジェクトや探究の授業を進めている先生にお伝えしたいこと
2020年12月に「プロジェクトの専門家に聞く、新しいPBLのカリキュラムデザイン」というイベントを開催しました。このイベントは小中高の先生を対象に、プ譜をつかって児童生徒がプロジェクトの計画を立てられるように。またそれを先生が支援できるようになるための方法を解説するという内容でした。
プ譜は小学生でも書くことができるということを先生に実感してもらうために、アーネ(当時小3)が生徒役。私が先生役となって、プ譜を書いてみることにしました。ここで体験したことや発見したことは、先生方がプ譜を使わなかったとしても、PBLや探究の授業に活かしていただけるのではないかと思いましたので、どのような手順・流れで進めたのかということを、下記の過程とともに記録しておきます。
- プロジェクトのテーマを決める
- プロジェクトの計画を立てる
- 立てた計画を発表する
- 実行する
1.プロジェクトのテーマを決める
プロジェクトに取り組むにはテーマが必要です。何に取り組むのか?何をしたいのか?何を解明・解決したいのか?イベントが12月開催でしたので、アーネと3学期3ヶ月間をかけて取り組んでみたいと思えることをプロジェクトにしようと話しました。そして、自分が選んだテーマがプロジェクトたり得るかを判断するための3つの条件を提示しました。
- 自分が未経験であること(自分にとって未知の要素があること)
- 誰かと一緒でなければできないこと(一人だけでできるものではないこと)
- 自分や関わる人が喜んだり助かったりすること
仕事であれば自分の意思に関係なく、プロジェクトのテーマは会社・上司が与えてくれます。降ってきます。学校であっても、授業や学校の方針などと関連するテーマを与えることができます。今回のケースでは先生役・学校側役の私にそうした強制的に与えるテーマがなかったため、まずアーネが今どんなことに興味関心を持っているのか?どんなことをするのが楽しいのか?どんなことなら時間を忘れて没頭できるのか?といったことから聞いて探してみることにしました。
その対話のなかで発見したことは、子どもは自分が取り組んでみたいと心底思えるようなテーマをそうそう持っていないのではないかということです。こんなことすら私は気づいていなかったのですが、自分の小学生・中学生時代を思い返せば、誰にも言われず自分で黙々と、嬉々として、没頭して長い期間取り組むようなものごとはありませんでした。好きなスポーツやマンガ、興味のあることはあっても、スポーツならさらなる上達を目指したり、興味のあることに時間やお金を費やして深く知ったり体験したりという経験はありませんでした。それを楽しむことはあっても、それについて何かを解明・解決したり、それをやってこんな自分になりたいという想いはなかったのです。
また、自分が取り組むことがどのくらいの期間を要するのかを読む・イメージすることも難しいようでした。アーネはいくつか自分が今興味のあること、好きなことを挙げましたが、
「三カ月もかけてやることがない」「◯◯はすぐ飽きちゃうからなぁ」
といったことをつぶやいていました。確かに、何かの本を数冊読むのに三カ月もかかりません。ちょっとした工作をするのにもそんな期間は必要ない。メカニズムを理解していなくても、何かをすればすぐ結果が出てくるものは、未知の要素がほとんどありません。
でも未知ゆえにどのくらいの期間が必要なのかをイメージできない。
この未知の容量、現在と未来の目標のジャンプの幅を児童生徒が決めるのは難しく、先生から与えた方がいいのかなと思いました。
「なにをプロジェクトにするか?」
「どんなことなら三学期かけて取り組もうと思えるか?」
今思えばこの問いかけ方が相応しくなかったかもしれませんが、アーネがいま最も楽しいと言っていた「東川篤哉さんの本を読むこと」を取っ掛かりにすることにしました。
この「楽しい」ことをどうプロジェクトにするか?
どうプロジェクトの条件に合うようにしていくのか?
アーネはプロジェクトの条件を確認しながら自分で考えて出てきたのが、「東川篤哉さんの本の感想文を書く」でした。
1~2年生のときに書いているので、感想文が未知ということはないだろうと思いながらも、どうして感想文なのかを聞くと、感想文は決められた本のなかから選んで書かないといけない。自分が読みたい本で書いたことはないので未知にあたるということでした。あとは「ほかにやりたいことがないから・・・」とのこと。急に三カ月かけてなにかやろうと言われても、そりゃそうだよねぇという他ありません。
感想文は一人で書くものじゃないの?と聞くと、それはそうだと答えます。誰かと一緒でなければできないものという条件に照らし合わそうとするとちょっと答えが出てきません。
そこで、もう一つの条件である自分や関わる人が喜んだり助かったりすることは何だろうと質問すると、好きな感想文を書いて友達と仲良くなれる、自分も友達も本が好きになる、という答えでした。
なんで感想文を書くと、友達と仲良くなれて、お互い本が好きになるのかと聞くと、二つのエピソードを話してくれました。
アーネのクラスメイトにMちゃんがいる。授業で取り組んでいた新聞づくりをするとき、教室だとうるさいから図書室に行こうと誘った(アーネは休み時間もっぱら図書室に行って本を読んでいるとのこと)。そこでMちゃんはオバケものの本を読むのが好きということを知った。
これが一つ目のエピソード。もう一つが次のエピソードです。
学校では図工で作品をつくると、クラスメイトが1~2人その作品に対して感想を書くということをしている。この活動を感想文にももってきて、感想文に対して感想を書いてもらうということをしたら、一人だけじゃできないことになると言いました。そして、お互いの好きな本で感想文を書いて感想を交換することで、また仲良くなれると思うということでした。
文字にして見るとスムーズに進んでいるように思いますが、実際はこのやり取りは日をまたいで行っています。土曜日に1時間ほど話してテーマが決まらず、翌週また1時間ほど話すなかで、上記のような話が生まれてきました。(平日は他にやることがあって、話し合う時間を取れませんでした)
時折わいてくる「はやく決めちゃおう」という気持ちをおさえ、なぜそう思うのか?どうしてそう考えたのか?ということを、できるだけ興味を持って聞くことは、私には忍耐を求められるものでした。
早急に決めることを耐え忍べたのは、アーネが強烈にやりたいことがないなか、自分の過去の経験・エピソード・感情にあれこれ想いを巡らせたり、「う~ん・・・」と考え込んだりする様子をみて、これは他人が勝手に決めていいことではないと思わせられたからではないかと思います。
また、これは大人も子どももそうかも知れませんが、質問したことに対して結論から答えるのではなく、あるエピソード・出来事から話し始めるということに気づきました。直接質問に足して答えないので、最初はなにを言っているんだろうと訝しんでしまうのですが、ちゃんとそのエピソードのなかに答えとなるものがあるので、焦って話をさえぎって「結局なにが言いたいののか?」ということはしない方がいいなと思いました。
社会人なら結論から言ってその理由としてエピソードなり出来事なりを話すべきかもしれませんが、やりたいことがないなか、あれこれ考えながら話している子どもにそれを求めるのは、せっかく考えていることの流れを止めてしまうと思いました。
この対話のなかで決まったプロジェクトのテーマは、
「好きな本で感想文を書いて発表してその感想メモを発表した人に渡す」になりました。
そういう新しい感想文のスタイルをつくることがプロジェクトの目標です。目標が決まったらそれをプ譜の獲得目標の欄に書き込みます。
これは進め方によりますが、児童生徒と先生の対話のなかで生まれた目標ならそのままで良いと思いますが、対話なく児童生徒が書いた目標に対しては、それをそのままで進めるのではなく、どうしてその目標にしたのか?それは与えられている期間で実現できそうか?与えられた期間でどこまでできそうか?といったことを問いかけた方が良いと思います。
2.プロジェクトの計画を立てる
目標が決まったら次はその目標を実現するための計画を立てます。
「好きな本で感想文を書いて発表してその感想メモを発表した人に渡す」という目標がどうなっていたら成功と言えるか?という勝利条件を設定します。ここでアーネが設定した勝利条件は、
「ばあばに“三年の成果が出てるね”、“四年からは自分で書けるんじゃない?”と言われたい」
というものでした。
当初アーネはクラスメイトのMちゃんとやろうと考えていましたが、祖母に1~3年生の間、感想文のアドバイスを受けていたことを思い出したようで、好きな本の感想文を書いて祖母に渡すことで、このように言われたら成功と考えたようです。
勝利条件が書けたら、次はそれ実現するためのあるべき状態(中間目的)を書きます。
一つ目の中間目的には、もともと仲のいい祖母なので、仲良くなるということは考えず、自分が書く感想文を読んで、祖母がその本に興味を持ってくれたら(プ譜ではその本を読むことを楽しみになってもらっていたら)良いと書いていました。
二つ目の中間目的は、これまでアドバイスをもらったことを確認しながら本を読んだり書けているというものを設定しました。
この中間目的とそれぞれの中間目的を実現するための施策、そして所与の条件を記述する廟算八要素は、各項目の説明をしたあとはアーネが自分で考えて書き込んでいきました。これについて対話したり教えたりということをしなかったので、書く場所・項目が決まっていて、説明さえしておけば児童生徒は一通り記述できるのではないかと思います。
もちろん書き方・表現についてそのように書いた理由をたずね、プ譜に描かれた仮説の精度を上げるということもできるのですが、このときはイベントまで時間がないなか、一度自分一人でここまで書けたら十分としました。
3.立てた計画を発表する
プ譜で目標までの見通しを立てたらそれを他者に説明します。学校であればプロジェクトの計画はグループで立て、その目標と計画の進め方について合意が必要です。今回のアーネのチャレンジではそこは省いています。
アーネのプ譜は、記事冒頭のイベントで、参加している先生や教育関係者の方々向けにZoomで画面越しに行いました。画面共有で自分のプ譜を出し、それを説明します。
先生方にお伝えしたいのは、プ譜を児童生徒が書いて提出してきたら、書かれたものだけでその良し悪しを判断しないでほしいということです。
時間が少ないのは承知していますが、できれば書くだけではなく、書いたものを口で説明させてほしいのです。
口で説明しようとすると、自分の頭・心のなかでは理路整然としているように思える計画が、「はて、これはどうも辻褄が合っていないぞ」というところに気づくことがあります。発表時にそんな贅沢な時間の使い方をするのが難しければ、グループ内でプ譜が完成したら、一度声に出して説明の練習をするというルールを課してよいと思います。
アーネと私は本番の発表前にZoomで説明をするという予行練習を行いました。
このとき、アーネが口にした言葉に大きな発見がありました。
勝利条件から中間目的の説明に移ろうとしたとき、アーネが「修飾語はどうしたらいい?」と聞いたのです。
修飾語?と思って、それはどういう意味か聞いてみると、「その次に」とか「おわりに」っていう言葉だよというので、接続詞のことだとわかりました。
だから。したがって。そういうわけで。そのために。そうすると。
プ譜には成功の定義、諸要素のあるべき状態、その状態を実現するための行動や作業、それに影響を与える諸条件などを記述しますが、それらの項目・要素をつなぐ接続詞を書くことはありません。しかし、うまく進んでいるプロジェクトのプ譜はそうした接続詞がきれいにはまっている。不整合のない、論理的な構造になっています。
プロジェクトメンバーやステークホルダーなどの他者とプロジェクトについて対話する。或いはその進め方を説明するときこそ、論理が要求される場面です。その意味でプ譜は他者との対話を促すツールになるかも知れないという発見がありました。
プ譜ができたら接続詞がうまく要素・項目間をつないでいるか?
アーネの一言から得た、新しいプ譜のチェック項目です。
この他、練習中、発表内容に関する資料を「画面越しに見せたほうがわかりやすいかな?」と自分で気づくこともあり、よい体験ができたと感じました。
4.実行する
アーネは発表で燃え尽きたのか、その後このプ譜が実行されることはありませんでした。
まとめ
今回の体験で先生方にお伝えしたいこととご提案を下記にまとめました。
- プロジェクトのテーマ探しは焦らず、なぜそれにしたのかを問いかけてあげてください。
- 時間の制約があるなかでは、授業やSDGsなどに絡められるならテーマはある程度絞って与えた方が良いと思います。
- ただ、一つ一つのグループに対してそうした問いかけ、対話する時間を設けることは大変だと思います。
- そこでグループのメンバー同士や、グループ間でこうした対話・問いかけをできるようにしてみてはどうでしょうか?
- そのための対話の言葉づくりを私が支援いたします。
うまくまとめられていない筆力の稚拙さに恥じ入りつつこの記事を終わります。




