【往復書簡】やる気がない人を、どうやってやる気にさせるか?



長尾さん

おはようございます前田です。アーネ(7歳)が小学校に入学してはや一年。
二学期から毎日アーネの朝食をつくり続けてきました。独身時代、結婚して娘たちが生まれるまで、朝食をぬくのはよくあることでしたが、それを毎朝やり続けることができたのは、なんでだったんだろう?と、今回のお題を頂いて思います。

今回はこのようなお題でした。

アキラからの手紙
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ちょうどさっき、こんな相談を受けました。
「やる気がない人をやる気にするにはどうしたらいいですか?
一部のやる気のない人の影響力が強くて、やる気のある人のやる気がどんどんなくなっちゃうんです。」
それに対しての僕の持論を述べました。
「ほっとけばいいと思います。」
僕の持論に相手の方は納得がいかなかったようで、こうおっしゃってました。
「そんなの、やる気がない人が得をして、やる気がある人が損じゃないですか!」
ああ、確かにそうだよなあ。心情的には、わかる。
でも、やる気がない人に「おい!やる気出せ!」って言ったところでやる気は出ないだろうし。
やる気がない人と仕事しなきゃいけない状況もあるしなあ。
前田さんなら、どう答えますか?

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「やる気」が今回のお題。

アーネの朝食をつくり続けることができたのは、親としての義務感とか、アーネが少しでも気持ちよく投稿できるよう、好きなチャーハンやうどんをつくってあげようというもので、「やる気」の問題ではなかったと思います。

どうやってやる気がない人をやる気にさせるか?

いや~、ちょっと私には手に余る問題で、私が教えてほしい。
プロマネとして、プロジェクトメンバーに何度やる気出してほしいと思ったかわからない。
むしろ今の私は、やる気のあるメンバーしかアサインしないようにして、この問題に取り組まずに済むようなプロジェクトの進め方をしています。

そう思うと、このお題について回答する、つまり、考えて筆をとる「やる気」が起きてこない・・・。

困ってしまいました。

困ってしまって、アーネに聞いてみました。

ちょうどアーネは、小学校の参観会でキラキラ星の合奏をピアノで弾くことになって、その練習をしなければいけなかったり、マラソン大会があったり、縄跳び大会などがあったりして、何かと取り組まなければならないことが多くありました。

そんな状況のアーネに、


「アーネは、どんなときにやる気が出て、どんなときにやる気が出ない?」


と、聞いてみたのです。

するとアーネはすこし考えてから、こう答えました。

「やる気が出るのは、“できる!”って思うとき。やる気が出ないのは“できない”って思うとき」

できると思うから、やる気になることができる。

できないと思うから、やる気になれない。

続けて、私はもう一つたずねました。


私「アーネが“できる!”って思えるのはなんでだろう?」

ア「いま、キラキラ星やってるじゃん?キラキラ星は前にピアノ(の教室)でやったじゃん。だからできるって思ったの」


自分が過去やったことがある。
或いは似たようなことを経験したことがあると、“できる”と思える。
これは、ごく自然なことのように思えます。


私「じゃあ、できないって思ったら、どうやってやる気を出すの?」

ア「チ~ンってなるけど、“しょうがない、やりま~す”って自分で言って、やる。パパは?」

私「パパは、これをやったら、ケーキを食べてもいいってご褒美を用意して、やる」

ア「パパ、おでぶちゃんになるよ・・・」

チ~ンというのは、気分がしずむような状態のことを指すそうです。
私のやり方はともかく、「できない」を「できる」と思えるようにすれば、やる気がムクリと顔を上げてくれるのではないか?

アーネとの問答から、私はこのように考えました。

「できない」と「できる」の間に、どうやって橋をかけるか?

できるまで頑張る、なんてのは、頑張っている間いっこうに成果が出ないと、学習性無力感に陥る危険性があります。

「できない」を「できる」ようにするため、問題解決の手法を借りれば、「できない」という大きな問題を小さく分割して、問題に取り組みやすくするという手が取れます。

軍事関連の手法を借りれば、フェイズ管理という、ゴールまでのマイルストーンを小さく置いて、各フェイズの目標を段階的に達成していくことで、最終的な目標を達成するという方法もあります。

でも、取り組もうとする対象に取り組んだ経験がなく、類似する経験もない人の場合、そもそも問題のサイズ感がわからなかったり、解決に要する時間がわからなかったりして、見通しを立てることができない。
そうなると、どう取り組めばいいかわからない、何から取り組めばいいかわからないから、やる気が起きない。

それがご褒美を鼻先にチラつかせ、えいや!とちょっと我慢すればできそうなことであれば、瞬間のやる気でどうにかなるかも知れません。

やる気の持続、やる気の育みが必要です。

たった一人で問題を小さく分割したり、見通しを立てたりするのは、とても難しいことです。やる気を持続させるのも同様に大変なことです。

それを支える人、助ける人が要ります。

上述したアーネのキラキラ星のエピソードには、こんな続きがありました。

アーネはピアノを始めた頃に、練習曲としてキラキラ星を弾いたことがありました。そういう経験があったから、参観会でキラキラ星の合奏でピアノを弾く人を決める際、「自分はできる!」と思って、手を挙げたんだそうです。

そうして持ち帰ってきた楽譜を見ると、以前アーネが弾いたような簡単なものではなく、合奏用の和音などを多く使った、今のアーネのレベルでは難しいアレンジのされているものでした。
参観会まで残り10日間しかありません。妻はアーネにはっぱをかける意味で「土日は猛特訓ね」と言っていました。

いざ、弾こうとすると、ぜんぜん弾けません。
アーネはそのうち、「やる気」が出なくなって、マンガを読んだり、おもちゃで遊び始めたりしてしまいました。
妻はピアノを弾くことができますが、土曜日は仕事で家にいません。
私は小学一年生から中学卒業まで9年間ピアノ教室に通いましたが、練習曲のバイエルで終わってしまうくらい、できない生徒でした。

なので、教えるというより、いっしょに私も弾いて、二人で練習する感じです。

アーネが残り10日間で合奏曲のキラキラ星が弾けるよう、「まずは片手で、この小節まで弾けるようになってみよう」と、問題を小さくしていきます。

「パパが下の音を弾くから、アーネが上の音を弾いてみよう」
「何時までやったらちょっと休憩しよう」
「今のうまくいったやん!もう1回わすれないうちに弾いてみよう!」

とかなんとか言って、できている所を見つけたら、大いに褒めます。

「何時までにここが弾けたらオヤツで好きなものを買いに行こう」

と、鼻先ニンジン作戦も使います。

「今、パパはこうやって弾いてみたらうまくいったから、アーネもこうやって弾いてみない?」

と、上手くいきそうな方法を見つけたら試してみます。

「ここをパパがリコーダーを吹くから、アーネがピアノやって」

と、本番の成功をイメージできるような、ミニ演奏会ごっこもやりました。

疲れてきたアーネがもたれかかってくるのを、振り払って練習させたいところを、
「どしたん?」と聞くと、「ぎゅーってして」と言うので、ぎゅーっとして励まします。

そのうち、アーネから「こうやるといいよ」というアイデアも出てきて、
ここまでできたら、残りの日数でできるようになるかも知れないというところまで、できるようになりました。

ちなみに、このときに私が意識して行った、「見て」「励まして」「褒める」ことを、頭文字をとって「ミハホの法則」と言うのだそうで、小学校教員だった母から教わりました。
この時の私は、口でああしなさい、こうしなさいと指示するのでなく、自分もできないので、自分もできるようあれこれ考えながらやるということをしていました。

「なんで、できないの?」の「なんで?」を、できる者ができない者に向けて嘆くのではなく、「なんで?」をできない私自身に向けていたから、こういうことができたんじゃないかと思います。

ただ、これはたまたま私ができない自分だったからできたことであって、できるようになっていたら、「なんでできないの?」と思ってイライラしてしまっていたかも知れません。

優秀なコーチは、できる人であっても、「なんでできないの?」を嘆かず、できない原因を分析して、
できるようになるための方策をあれこれ考え、モチベートしていけるんでしょう。

エピソードが長くなってしまいました。

ここまでのことをまとめると、やる気がない人が、やる気を出せるようになるには、


  • できる!と思えるようにする
  • できる!と思えるように、問題を小さくしたり、見通しを立てられるようにする
  • 一人では難しい場合、それを支え、助ける人が要る
  • 支え、助ける人は、いっしょにできなくなってみる
  • 支え、助ける人が、見て、褒めて、励ます。


といったことになろうと思います。

ただ、これはやる気が出るようになる一手段でしかないと自覚しています。

キラキラ星のエピソードは、アーネが自らそれをやると決めたから、サポートを受けることで短い時間ですがやる気を持続させ、或いは奮い立たせて、できるようになったのだと思います。目標達成や問題解決までの道のりがはるかに長かったり、他者に与えられた目標であったりしたなら、どうなっていたかわかりません。

この他者に与えられた目標に対して、どうやる気を起こしていくかについては、以前の往復書簡で長尾さんから頂いた「プロジェクトにengage」するための方法が効果を発揮するように思います。

これまでの往復書簡の内容が、ちょっとずつ、つながってきました。

それではそろそろ、長尾さんへの質問にしたいと思います。

今、私は「やる気を持続させる」ということについて少し触れました。
プロジェクトには数日、数週間では終わらない、数ヶ月、数年かかるものがあります。
こうした長い道のりにおいては良いことも悪いこともおきます。プロジェクトに関わるメンバーのやる気もそれらの影響を受けて出たり出なかったりしてきます。

長尾さんも、もう間もなく開校される「しなのイエナプランスクール大日向小学校」のプロジェクトの真っ最中でいらっしゃいますが、こうした息の長いプロジェクトにおいて、どうやってメンバーのやる気を持続させていらっしゃいましたか?

どうぞよろしくお願い致します。

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