振り返りのツールとしての「プ譜」と、長尾さんの「3つの質問」。

長尾彰さんと行っている往復書簡で、プロジェクト内に「批判的思考を内包する」方法として、
「振り返り」を行うという長尾さんの考えに触れました。

以下、概要を箇条書きにします。

●批判的思考には2種類ある
1つ目は、敵対的な批判的思考。否定を前提。
2つ目は、友好的な批判的思考。肯定を前提。

●友好的な批判的思考に必要な状態
・心理的な安全性が確保された関係性
・情報がオープンになっていて自身も参加する余地がある状態

●友好的な批判的思考を内包するには?
・対話的に振り返りをする

●振り返りとは
・振り返りの本質は、「現状を多角的で複数の視点から確認すること」

●振り返りの時の3つの問い
①何が起きた?(事実を客観的に)
②どう思った?(感想を主観的に)
③次、どうする?(行動を間主観的に)
※間主観…複数の主観の間で共通する認識


この長尾さんの「振り返り」に関する文章を読んだ時、わが意を得たり、と何度も首肯しました。
様々なプロジェクトを経験してきた私が、「プロジェクトを管理ではなく、編集する」方法について初めて世に問うたのが、
2017年2月に、ビジネスメディアの「ビジネス+IT」に寄稿したこちらの記事です。

『失敗しないプロジェクトマネージャーは、「管理」より「編集」スキルを持っている』

この記事で主張したのは下記のようなことでした。

  • プロジェクトがうまくいかないのは、「プロジェクトは単線的に進む」と考えてしまうから。
  • 最も効率的に、最短距離で進むプロジェクト計画書は一見すると素晴らしいが、自分たちに都合のいい解釈をしたものと言える。
  • 実際のプロジェクトでは、予想していなかった事象や発見、社会の変化によって、計画していなかった進め方をする必要がある。
  • プロジェクトがうまくいかないのは、「プロジェクトで起こる出来事の多くは、メンバーとって未知/ブラックボックス」だから。
  • 未知の状況を「既知」に変えていくには、以下のようなPDCAを高速・高頻度に回し続ける必要がある。
    ・遭遇、発見する事象や情報を放置、おろそかにしない
    ・正しくできるだけ早くラクに記録する
    ・現場サイドで頻度高く振り返る
    ・戦略サイドに報告し、施策に再反映していく


この記録と振り返りの構造を図示したのがこちらです。

この状況に対抗するために、私は以下の主張をしました。

  • 現場の記録と振り返りが早くなれば、フィードバックのスピードと頻度が上がる。
  • スピードと頻度の向上はプロジェクトの適切な見直し、調整を可能とするため、小さな失敗で済んだり、あるいは次の施策を早く打てたりする。
  • 結果としてプロジェクトの成功率が上がる。 


私はここで「高頻度の記録と振り返り」を行うことの重要性を訴えましたが、以下のような問題がありました。


  • 記録する技術やツールがない。
  • そもそも振り返りを行う余裕や習慣がない。
  • 業界・商品・環境が異なる種々のプロジェクトで有効と思われる施策・ナレッジ集がない。


この記事で私は「記録と振り返り」のツールについて言及しませんでしたが、上述の問題を解決するために、
プロジェクトの記録と振り返りのためのプロトタイプをつくり実践していました。

それがプロジェクト譜、略して「プ譜」です。



一見して、我ながら「うわぁ・・・、めんどくさそう…」という感想しか持てませんが、その後、プ譜は盟友後藤洋平さんとのディスカッションを通じれ精錬・練磨され、現在は下記のような形になっています。

この記事ではプ譜についてこれ以上くわしく説明することはしません。
ここで書いておきたいのは、長尾さんの「振り返りを行う時の3つの問い」を、プ譜を使って振り返る際の方法として、ぜひ使いたいと思ったため、そのシミュレーションを行ったことです。

まず、下図をご覧ください。



これは、私が奈良県のNPO団体に、地域の魅力を発掘・動画化するためのワークショップに行った際、当時小学1年生だった長女(アーネ)が私の助手として動画を教えられるようになるために書いたプ譜です。

このプロジェクトが終わった後、私はアーネとこのプ譜を使って振り返りを行いました。
自分の目標は達成できたか?
目標達成のために考えた「あるべき状態」は実現できたか?
あるべき状態をつくるために考えた「アクション・タスク」は実行できたか?
できたなら大いに褒め、できなかったら「なんでできなかったんだろう?」、「どうやったら次はできるかな?」と、できるだけオープンに問いかけるということをしました。

この時の私はただただプ譜に書いた内容に沿って、一生懸命アーネに問いかけ、話をしていたのですが、長尾さんの3つの問いであれば、よりシンプルに、わかりやすく振り返りを行うことができると感じました。
長尾さんの3つの問いを再掲します。

  • ①何が起きた?(事実を客観的に)
  • ②どう思った?(感想を主観的に)
  • ③次、どうする?(行動を間主観的に)


これを先に掲げたプ譜を使って行うなら、書いたプ譜の施策(アクション・タスク)を行った結果、「①何が起きた?(事実を客観的に)と聞き、
その内容をプ譜に吹き出しで書き出します。


そして、プ譜に書いた内容について、「②どう思った?(感想を主観的に)」とたずね、「③次、どうする?(行動を間主観的に)」とたずねる。

動画ワークショップの助手になるプロジェクトはこの時行ったきりのため、プ譜はこの一枚で終了しますが、もしアーネがこの先も助手としての研鑽をつみ、助手ではなく講師として動画を教えられるようになっていくとしたら、アーネへの3種類の問いかけとともに、プ譜はこの先も更新され続けます。

プ譜でプロジェクトのプロセスを記録し、長尾さんの3つの問いで振り返りを行い、またプロジェクトを進めていく。この流れをしばらく意識して、今後のプ譜制作ワークショップを行っていきたいと思います。


◆直近のプ譜制作ワークショップ





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