「なんで?」から育む、子どものイノベーション力勉強会&埼玉県なんで?ワークショップレポート(写真多め)


2018年11月29日に、ドコモ・イノベーションビレッジで、『「なんで?」から育む、子どものイノベーション力』と題した勉強会を開催しました。
本勉強会の開催目的は、2021年から実施される大学入試改革以降、どのような力が問われるようになり、それについて親・大人のできることを考えようというものです。

ゲスト講師として、学びの道教育研究所所長の池田哲哉さんにお越し頂き、以下のプログラムで行いました。



●池田さん基調講演
・2021年大学入試改革で求められる力とは?
・今後、求められる親の関わり方の変化

●子どもの好奇心と探究心を育む「なんで?プロジェクト」
・埼玉県なんで?ワークショップレポート
・なんで?ワークショップを大人も体験


まず、池田さんの基調講演の要旨をメモ形式でお伝えします。

 

  • 池田さんの「学びの道教育研究所」では、行動観察に特化した小学校受験プログラムを提供している。
  • これまでの小学校受験教育は、受験「対策」的なことが中心だったが、近年そうした対策が見抜かれるようになってきた。
  • 重視されてきているのが、リーダーシップやコミュニケーション能力。
  • このプログラムを長年提供してきた中で、行動観察活動で求められる内容は、アクティブラーニングとほぼ同じだと考えるようになった。
  • そうした中、子どもはもともと「アクティブラーニングネイティブ」なんじゃないかと思うようになった。
  • 子ども自身も、我々の幼少期とは違い、他者と話し合ったり、協力し合ったりすることができるようになってきている。(そういう素地が“ある”ようだ)
  • 子どもは時代の申し子と言うが、子ども自身が変化してきているのに、我々が子どもをワクにはめてしまっはいないか?
  • 2021年以降、これまでの勉強の「ゴール」が変わる。


  • 最も大きく変わるのが、「意欲・経験・多様性」。
  • 例えば、大学入試であれば、「なぜ自分がこの大学の、この学部に入りたいと思ったか」ということを、口先だけでなく大学受験前の自らの行動の記録などで示さなければならない。
    次の絵を見てほしい。



  • これは順天堂大学医学部の出題。課題は「キングス・クロス駅の写真です。あなたの感じるところを800字以内で述べなさい」。
  • 明確な正解が示されていない、解釈が自由な問題。
  • 受験者は「このトンネルが血管で、風船が赤血球に見える。人は・・・」といった具合の解説を試みる。
  • この出題の意味するところは、自分で「問い」と「解」を設定しなければならないということ。
  • 言い換えれば、自分の(これまでとこれからの)人生と結びつけていく力が問われる。
  • こうした潮流は世界レベルで起きている。OECDが2018年に出した「OECD Education 2030」では2030年の教育ビジョンが描かれている。

  • ここで示されている3つの柱に「Knowledge」、「Skills」、「Attiudes and Value」がある。
  • 新しいのが「Attiudes and Value」。態度と価値という意味だが、「他にはない価値をどうやって創出していくか?」という力と解釈していい。
  • 「他にはない価値の創出」とは、イノベーション。
  • 「OECD Education 2030」が述べるところをザックリ言うと、これからは自分のやりたいことを見つけて、自分でプロジェクトを回していく時代になるよ、いうこと。
  • 自分でプロジェクトを興して、世の中をちょっと動かす。
  • そうしたことを、社会に出てからではなく、学校にいる間からやろう、というメッセージ。
  • こうした大きなビジョンが示されている中、子どもは何を、どう学べばいいだろうか?どうやってイノベーションを起こしていけるだろうか?
  • まず必要となるのが、自分の立ち位置は自分でつくるということだが、多様性を増す社会では、旧来の人格成長モデルはそぐわない。
  • これからは、多様な人々・社会に触れた、豊かな関係・環境による人格成長モデルが求められるようになるのではないか。
(前田補足)
BCGとミュンヘン工科大学が共同で、ドイツ・スイス・オーストリアの171社を対象に、「イノベーションに寄与する多様性の要素」に関するレポートがあります。レポートによれば、産業、出身国、キャリアパス、そして性別の多様性が高ければ、イノベーションにプラスになるという報告があります。
(以下、池田さんのメモに戻ります)
  • イノベーションは、意識しているものからは生まれにくい。
  • イノベーションは無意識の中からつくっていく。

(前田補足)
中沢新一「対称性人類学」では、イノベーションの起源が無意識にあることを示唆しています。専門分野に閉じ籠っていると打開策が見つからず袋小路に陥るが、全然別の分野の話を聞いて着想を得るというのはよくある話。無意識は、まったく関係のないモノゴトを勝手に融合します。意識下では概念の区別が明快ですが、無意識化では概念の区別が曖昧になります。その曖昧さが概念の越境・新結合を生む。新結合、すなわちイノベーション。
(以下、池田さんのメモに戻ります)
  • 学びの道研究所で使用している「自分のプロジェクトをつくるシート」として、「INNOVATION PBL CANVAS」がある。

  • このCANVASでは、「I Like」「I Can」を土台にする。
  • 親からの「やりなさい」ではない。
  • 子ども自らが、自分はこれが好き、興味があると自覚することが大事。
  • 自覚することができれば、文部科学省が設定した新たな学び方の「主体的・対話的な深い学び」につながってくる。
  • ただ、主体的になることは簡単ではない。子どもの無意識に沈んでいる「おもしろい!」「やりたい!」をどうやって引き出すか?
  • みなさん(大人)は自分の無意識に沈んでいる「おもしろい!」「やりたい!」を引きだせていますか?
  • 「主体的・対話的な深い学び」とは、言い換えると、学びと自分の人生とのつながりをちゃんと考えられているかということ。子どもは大学受験時にこれを問われるようになる。
  • 旧来の会社人間だと、自分の人生はほぼイコール会社と定めているので、何を、なぜ学ぶのかということを問う必要がなかった。
  • でも、それを問い直す必要が出てきた。今の世の中、大人も考えなければならない。
  • 大人はどうやって問い直すか?子どもはに接する時は、どうやって「おもしろい!」「やりたい!」を引きだすか?
  • そこでポイントとなるのが「なんで?」。
  • 「なんで?」と感じるのは、学び手の感情が強く動く瞬間。
  • 「なんで?」を身の回りの世界から感じるとる力を養おう。



池田さんの講演終了後、池田さんのメッセージにあった、「なんで?」を身の回りの世界から感じるとる力と、「問い」を自ら創り出せる力を養うことを目的とした「なんで?プロジェクト」の紹介を行うと共に、2018年11月に埼玉県産業支援課の依頼を受けて実施した「なんで?ワークショップ」のレポートを行いました。レポートは、なんで?プロジェクトのホームページでも紹介しますので、本ブログではワークの様子がわかる写真を少しご覧頂きます。

なんで?を書き込む台紙と、なんで?を育むアイデアを記載したパンフレット(親向け)

富士フイルムさんから協賛いただいているデジタル版チェキInstax

Instaxを使って「なんで?」を感じたことを撮影します

撮影した「なんで?」を台紙に貼って、「なんで?」と感じたことを書き込みます




子どもだけでなく、大人もいっしょに参加して頂きます


なんで?台紙はグループの友達と回し合い、さらに「なんで?」を広げていきます


レポート後は、勉強会に参加されたみなさんにも「なんで?ワークショップ」を体験頂きました。



まず、イノベーションビレッジの施設内で、自分が「なんで?」と感じるものを探して撮影します。


撮影と撮影した写真プリントは。富士フイルムさんに支援頂いているInstax、スマホdeチェキを使用。プリントした写真を台紙に貼って、自分が感じた「なんで?」を書きます。それが書けたら、グループになった人同士で「なんで?台紙」を回し合い、他者の「なんで?」写真を見て感じた「なんで?」をどんどん書き足していきます。


このグループで出す「なんで?」の数を時間制限をかけて競争式にしてたくさん出すことで、できるだけ無意識に、素直に「なんで?」と感じることのできるものを表現できることを狙っています。
また、後で自分の台紙を見返すことで、なんで?の問い方に色々な切口があること、多様な視点があることを体感してもらうことも狙いとしています。

こうして出された大人のみなさんの「なんで?」を一部ご紹介しましょう。











参加されたみなさんからは、下記のような感想を頂きました。

  • 大人が知っている「なんで?」だと、つい正答を促してしまう。
  • 子どもの「なんで?」に対して、すぐに正しい答えを出すのではなく、大人がうまく質問を返すことが大事なんじゃないかと感じた。
  • 他の人の「なんで?」に触れると、思考が多様になる。
  • 「なんで?」を出そうとすると、自分が既にわかっているものに対して「なんで?」となってしまって難しい。
  • 大人は知らないことが恥ずかしいと思ってしまうので、素直に「なんで?」と聞くことに抵抗を感じた。
  • どんな「なんで?」でも安心して、聞きやすい環境があるといいんじゃないか?


また、池田さんからは、「子どもだけでなく、大人も躊躇なく「なんで?」と言える場をつくることができると良い。」、「なんで?と問うことで仮説を立てることができるようになる。」、「カメラを持ってなんで?を撮ろうとすることが、アンラーン(脱学習)させているのではないか。カメラがアンラーンの装置になるのでは」、といった講評を頂きました。

この日の勉強会では「なんで?」を感じること、「なんで?」を出すことを体験頂きましたが、「なんで?プロジェクト」はそこからさらに、良い「問い」をつくることができるようになる力を育むことを目的としています。

『イノベーションのジレンマ(The Innovator's Dilemma)』の著者、クレイトン・クリステンセンはこのように述べています。



私たちがいくら論理思考やデザインシンキングを学んだとしても、そもそもの問いの設定が間違っていれば、「間違った問い」に正しく回答してしまうことになります。
問いにつながる「なんで?」を発見し、なんで?を多様に観察することで仮説を立て、それを自らのプロジェクトとして動かしていく。そんな力を育む「なんで?プロジェクト」にご興味・関心を持って頂ける方は、ぜひ下記までメッセージ下さい。

info@nande.ws

なんで?を育むために親ができることを記載したパンフレットも進呈しています。


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