オーダースーツSADAの「事業再生」プロジェクトをプ譜にしみてる

2018年6月4日に、異業種交流フォーラム「井戸の端なら」で、「理論と経験に学ぶ、成功するビジネスの秘密」と題した会に登壇してきました。

井戸の端ならは、組織管理、人事施策、IR・広報・PR活動、営業マーケティング戦術等々、組織内外のコミュニケーション活性化課題に関する解決策を模索し共有するフォーラムです。
今回、私へのオーダーは、「事業再生」と「事業提携」をテーマに、ゲストの講演を聞いた後、各プロジェクトの構造をプ譜によって可視化し、教訓を引き出すというものでした。

このブログでは、この二つのテーマのうち、オーダースーツSADA株式会社佐田)の佐田展隆社長の事業再生についてのお話のプ譜と、そこから得られた教訓を紹介します。

ここで取り上げるのは、2003年に佐田社長が社長に就任する以前の(当時、東レの営業職)、先代から「売上22億円で25億円の負債を抱えた状態」の会社に呼び戻され、その事業再生を行ったプロジェクトです。

この事業再生プロジェクトは多くの佐田社長のインタビュー記事が出ているので、詳しく知りたい方は以下の記事を参照下さい。

http://www.nippon-shacho.com/interview/in_sada/
http://www.companytank.jp/tenma/201609/
http://sugoihito.or.jp/2017/06/15839/
https://ashitanojinji.jp/category3/2515
https://maonline.jp/articles/sada20181-1

これらの記事と当日の佐田社長の講演を元に作成したのがこちらのプ譜です。

※拡大してご覧下さい

まず、左端の「廟算8要素(プロジェクトの所与のリソース)」の「環境」欄をご覧下さい。
当時の状況は最悪です。
これまで、売り上げの半分近くを占めていた百貨店(そごう、マイカル、長崎屋)が立て続けに
破産。卸先のテーラーも高齢により廃業数が増加。加えて団塊の世代の大量退職も控えている。

この状況を打破するために、先代社長は主力商品をコスト競争力の高い中国製のオーダースーツに切り替えるという手を打ちます。(他社では平均3万円のオーダースーツが、SADAでは2万円で購入できる)

佐田社長はこのプロジェクトの営業陣頭指揮を執りますが、思いもよらない事態に遭遇します。
長年、百貨店という安定した取引先と付き合ってきた影響で、当時の営業部には御用聞きスタイルが染み付き、提案営業や新規開拓という概念すらなかったそうです。

中国製のスーツに対する取引先のネガティブな反応に対し、営業マンは「ですよねー」と引き返してきてしまう。
“メイド・イン・チャイナのオーダースーツなど売れるわけがないだろう”という固定概念が、それを売らなければならない営業マンに巣食っている。
佐田社長はこうした状況に対し、一人一人の営業マンと面談・同行します。時に厳しく接することから、陰で「サダム」などと呼ばれていたそうです。

そうして変わる社員もいれば、変わらない社員もいる。
取引先を連れて退社した営業幹部もいたそうですが、結果的にこうした古い体質の、変われない営業マンが抜けたことは、営業改革を行う上ではプラスに働いたのかも知れません。

営業マンの意識・スタイルの転換や、営業指標を「着数」から「粗利」に変更するといった一連の営業改革が行われますが、この他にも注目すべき打ち手があります。

2004年に直販店となる「オーダースーツSADA」の1号店を神田にオープンさせます。
理由は、“メイド・イン・チャイナのオーダースーツでも売れる”ということを営業社員に示すため。
そして、高齢により廃業するテーラーが増え、オーダースーツ業界がますます縮小してしまうという危機感があったためです。

さらに、この直販店を通じて、生活者が持っている「スーツは既成品を量販店で買うのが当たり前」というものと、「オーダースーツは高いから買えない」という意識を変えていこうとします。

このようにして見ると、この事業再生プロジェクトは、自社の営業マン、卸先、生活者といった、三者の意識を変えることがプロジェクトの勝利条件であったと言えるかも知れません。

このプ譜は佐田社長が行われた施策のツジツマを整理して書いたもののため、一見すればきれいに(ロジカルに)見えますが、実際はこのようにスムーズに進んだはずがありません。思い描いた営業の進め方がありながら、変われない営業に対し、方針や施策を試行錯誤した結果がこのプ譜になっているという点に留意ください。

2004年にスタートした直販店は、現在、若者向けのオーダースーツチェーンとしては店舗数日本一となっており、佐田社長自身が広告塔となり、オーダースーツで東京マラソンを完走したり、富士山に登頂するなどユニークなPR活動も行っていらっします。



佐田社長は各地で定期的に講演活動も行っておられるので、社員や取引先、生活者の意識を変えなければ売れない商品・サービスを抱えている方は、ぜひオーダースーツSADAのFacebookページ社長ブログをチェックしてみて下さい。


また、上述したプ譜について詳しく知りたいと思って頂いた方は、拙著『予定通り進まないプロジェクトの進め方』をご覧下さい。




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