他者のための「ハシゴをかける仕事」の必要条件は、「見通し」か「気持ち」か。

わが家には洋服棚が、異なる場所に二つあります。
洗面所には、パジャマやパンツを入れる棚が。寝室と子ども部屋にそれ以外の洋服を入れる棚があります。私が洗濯物をたたむ時は、人別(私、妻、アーネ、ジージョ)に畳みます。それを後で、妻や私が各自の棚に収納し、アーネにも自分の棚に収納させています。
ある日、アーネが居間で全員分の洗濯物を畳みました。(この時、私は夕食をつくっていて、一切手と口を出しておりません。)
畳みおわった洗濯物を見てみると、人別に畳んでいるだけでなく、洗面所と寝室・子ども部屋別に分けて置いてありました。

この行為が、「他者のために行う、ひと手間の仕事」を考える上で、興味深く感じました。

私は色々なプロジェクトに関わっていますが、一つの傾向として、人は自分の仕事の領分を守りたがります。「ここからここまでは自分の仕事。そこからはあなたの仕事」というような態度、とも言い換えることができます。

この態度でも仕事は回っていくものですが、「(他者にやってもらう)そのひと手間がありがたい」、「そのひと手間でラクになった」ということがあります。
この「ひと手間」を、アーネの洗濯物エピソードに重ねて考えてみました。

まず、洗濯物を畳んで収納するまでの作業を3つの工程に分けます。



「たたむ、人別に分ける」を人物Aの作業とし、「収納する」を人物Bの作業とします。
これらの間にある「棚別に分ける」は、最初はABどちらにも属していません。この「棚別に分ける」作業が、上述の「ひと手間」にあたります。
私はこれを自分と相手の間にかける「ハシゴの仕事」と呼んでいますが、どちらにも属していないこの作業は、Aにとっては「やってもやらなくてもいい」もので、Bにとっては「(Aに)やってもらうとありがたい・ラクになる」ものです。

この「棚別に分ける」作業を、日常の仕事に置き換えてみると、こういう類のものがあると思います。

  • 添付した資料の概要をメールに書いておく
  • webデザイナーに渡す画像ファイル名に、仕様書でふったナンバリングを適用する
  • 制作したパワポのサイズを、マージされるパワポのサイズに合わせておく(例 4:3から16:9へ)

ここで考えたいのは、どうやったらAが「棚別に分ける」作業を自分で気づいて行うことができるか?ということです。

アーネの行動に、

「自分がこの作業をすることで、後に作業する人(パパやママ)がラクになるだろうから」

という他者への思いやりを見て取りたくなるのは親の、というより人間一般のサガかと思います。

「大変そうだからここは手伝おう」
「あいつのためにやってやろう」

リーダー職、マネージャー職であれば、自分たちのメンバーにそう思って行動することを望みたくなります。
会社では、この「他者のために」という気持ちや態度を、一緒に働くメンバー同士のコミュニケーションや信頼などに置き換えて、チャットや社内SNSなどのツール、チームビルディング、メンター制度、コーチング研修、リーダーシップ研修、社員旅行や社食(ランチ)、フリーアドレス制度、オフィスのレイアウトなど、様々な手段を使っているのだと思います。

私は金はかけずに手塩をかけるほか、「アイキューよりもアイキョー」をモットーにアーネを育ててきたつもりで、アイキョーがあるであろうわが娘であれば、「パパがラクになると思ったから!」という答えを期待しましたが、アーネにこのような洗濯物の置き方をした理由を尋ねてみても、「う~ん、わかんない」という反応。私という他者のためにやったという訳ではないようです。
(でも、照れ隠しかも知れない・・・。)

妻がそうやって畳んで置いているのを見ていたのかも知れないですし、私が畳みおわった後、アーネに「これは洗面所。これは子ども部屋」というふうに指示し、実際にその作業をしたことが頭に残っていたのかも知れません。
いずれにしても共通するのは、「洗濯物を畳み、収納するまでの一連の仕事を実際にやったことがある。或いは目にしたことがある」という点です。これは「作業の見通しを持っている」、「作業の段取りを知っている」とも言い換えることができると思います。

この見通し・体験の質によると思いますが、こうしたものが、ひと手間の作業が行われることの必要条件なのではないか?というのが、アーネの行動を見て考えたことです。

ただ、経験があれば「ひと手間」作業をやるかと問われると、「ハイ」とは言い難い。
作業の見通しを持っていたとしても、「やってもやらなくてもいい作業」であれば、それが自分の仕事として課されていなければやらないかも知れない。

そうした曖昧さ・気持ち悪さをなくすため、既にその作業の経験のある人は、個々の仕事の要件定義をして、思いやりといった余地を残さず、「やってもやらなくてもいい仕事」というものをABいずれかのものとして割り振ることができます。
でもまぁ、それでも要件定義がしきれずに、抜け漏れる作業というのは出てくるものです。

「どうしようかなぁ。やっとこうかなぁ」と逡巡した時、体を動かすものは何でしょうか?

この問題については、最近、知己を得た長尾彰さんや仲山進也さんという、チームビルディングやリーダーシップのエキスパートに伺ったお話や著作から、もう少し考えてみたいと思います。

※そんな見通しをどう持てるようになるか。見通しをどう共有するかのヒントについては、ぜひ本書をご覧下さい。




【追記】
2018年6月19日14:00から、『組織にいながら、自由に働く。』を上梓された、仲山進也さんと対談させて頂き、この問題について質問させて頂きました。すると、このヒントとなるものが本書のP60にありました。
こちらもぜひお手に取ってご覧下さい。


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