「フロー」についての勉強会を開催しました。~2021年大学入試改革、働き方改革の切り札になるかも?

2018年6月5日に、ドコモ・イノベーションビレッジで、子ども×新規事業勉強会の第6回、『2021年大学入試改革で変わる、伸ばしたい子どもの力とは?』と題して、「フロー」をテーマに勉強会を開催しました。


「フロー」とは、“人間がそのときしていることに、完全に浸り、精力的に集中している感覚に特徴づけられ、完全にのめり込んでいて、その過程が活発さにおいて成功しているような活動における、精神的な状態”(wikipedia)であり、具体的には以下のような体験・状態が当てはまります。


  • 有意義な時間を過ごした
  • とても楽しかった
  • 瞬間瞬間に、何をすべきなのかがわかっていた
  • 次に何が起こっても、うまく対応できると感じていた
  • 自分がコントロールしているように感じた
  • 時間を忘れていた
  • 我を忘れて課題に取り組んでいた


このフロー状態になることが、なぜ大学入試において重要なのか。
フローになるにはどのような手続き、環境整備を行えばよいのか。
子どもだけでなく、大人にとってのメリットなどについて、フローについての研究実践を行っておられる、池田哲哉さんと世羅侑未をゲストにお招きし、お話を伺いました。




池田哲哉さん
学びの道教育研究所所長
慶應義塾大学SFC研究所所員、日テレエデュコアメンバー
行動観察の技法を使い、小学校受験生、小・中・高・大学生、社会人のリーダシップ、モチベーションなどを研究している。
その中で学び手が「フロー」状態になりやすい学習プログラムを研究、実践している。



世羅侑未さん
プロノイア・グループ株式会社 コンサルタント
慶應大学システムデザイン・マネジメント研究科 研究員
企業の働き方改革/組織開発コンサルティングに従事。慶應大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)研究員として個人の創造力、直観力やパフォーマンスが最大化される「フロー状態」の研究を進める。欧米と日本の教育機関のパイプ役となりながら、東西の知恵を活かした創造性、リーダーシップ、直観の育み方を模索する。共著『The SAGE Handbook of Action Research』(SAGE Publications, USA)では、直観力の鍛え方に関する独自の研究を海外で発信。『行動探求』(英治出版)では欧米発の組織開発手法を日本で紹介。


まず、池田さんから、にフローが求められる背景と今後の教育の関係についてお話を頂きました。
以下、要旨を箇条書きでまとめます。


2021年大学入試改革のポイントとフローについて

  • これまでの「知識中心の学習」から、「主体的・対話的な深い学び」に変わる。
  • 知識中心の学習の評価指標は、「テストによる偏差値」。
  • 「これをやってきなさい」というものに対し、いち早く「やりました!」と正解を出せる者が評価された。
  • 主体的・対話的な深い学びの場合は、「主体性、意欲」などが評価対象に加わる。
  • 「これをやってきなさい」から、「“自分がやりたいもの”を選んでやりなさい」。
  • そこで問われるのが、「主体的にどのくらい学んでいるか?」
  • 「主体的・対話的で深い学び」の実現のために、筆記試験に加え、本人が記入する「学びのポートフォリオ(学習記録データ)」を通じて、点ではなく、線の評価(どのように学んでいるか等)がなされるようになる。
  • この入試改革の背景には、今後10~20年以内に、人工知能(AI)やロボットによって人間の仕事の49%が代替可能になるという研究結果がある。
  • 現在の入試システムが輩出するのは、AIなどに代替される仕事に就く人々。
  • AIなどに代替されない、価値のある仕事をしたり、創出したりできる人材を育成する必要がある。
  • 以上をふまえ、主体的に学ぶことができる状態に子どもがなっていく上で、「フロー」が重要になると考えている。
  • (本ページの冒頭に記した)フローになることによって、主体的で、効率の良い学びが促される。
  • しかし、フローになっているなという状態はまだ主観的なもので、客観的な数値化されたデータで、「これがフロー状態です」と言えるものはまだない。
  • フローは、教室だけでなるものではなく、色んな場所でフローになれる。子どもによっては、未知を歩いているだけでもフローになれるかも知れない。
  • フロー状態をセンサデバイスなどでデータ取得、分析し、色々な場所やケースでフローになれる研究が進めば、子どもにとって最適な学びの空間をつくることができるのではないか。
  • 実際にある学校ではウェアラブル端末を生徒に着用させ、心拍数、血圧などのバイタルデータを分析し、フロー状態の調査をしている例がある。



では、そのフロー状態をどうつくるのか?そして、大人にとってもどんなメリットがあるのか?
ここからは世羅さんのお話の要旨をご紹介します。



  • あらためてフローの定義をすると、「意識が最適化され、最高のパフォーマンスを発揮できる」、「同時に心の充実感を感じられる」こと。
  • フロー提唱者のミハイ・チクセントミハイの言葉を借りると、フロー状態に入れば、「どんなに難しいと思うことでも可能になる。我を忘れ、時間を忘れ、自分より大きなものと繋がっている感覚になる」。
  • フローの効果には、以下のようなものがある。
  • 創造性/課題解決能力が4倍になる。
  • 経営者がフローに入れば会社の生産性が5倍に なる。
  • 新しいスキルの学習スピードが2倍速になる。
  • モチベーションを高める5つの物質が放出される。
  • (ノルアドレナリン、ドーパミン、エンドルフィン、アナンダミド、オキシトシン)
  • 幸福感がアップし、疲労感がダウンする。 
  • ビジネスマンの一日の労働時間(8h)のうち、フローに入れる時間は平均30分と言われている。(0.5フロー時間と、7.5ノンフローの時間)
  • もし、その30分に1時間加えることができれば(1.5フロー時間と、6.5フノンフロー時間)、生産性が2倍になる。
  • フロー状態を他の言葉で定義づけると、「(自分の)意識に(自分が)責任を持つ」という状態。それは言い換えると、「エネルギーの最適化」ということ。
  • フローに入ることを妨げるのは、様々な法律やルール、誘惑や娯楽などの苦痛と快楽。それらに気や時間を取られることは、時間の無駄遣い。
  • つまり、フローになるには「注意のコントロール」が必要。
  • チクセントミハイによれば、我々の脳の情報処理能力は126ビット/秒(『フロー体験 喜びの現象学』)
  • 誰か一人の話を聞くだけで40ビットほど使用する。
  • 余計な情報、誘惑に気を取られず、126ビットを有効に、即ち「目の前の状況に意識を集中」させなければならない。
  • その方法が3つある。
    • 明確な目標を持つ
    • タイムリーなフィードバック
    • 課題と能力のバランス
  • 「明確な目標を持つ」とは、「いま、何に取り組んでいるのか」「何のために取り組んでいるのか」を具体的に自覚すること。
  • 「タイムリーなフィードバック」とは、設定した明確な目標に対し「どうしたらそれをもっと上手くできるか」をリアルタイムに把握し、結果と行動の因果関係を常に掴んでおくこと。
  • 「課題と能力のバランス」とは、タスクの難易度を、ひるむほどではないが「少し手を伸ばせば届く」程度に調節すること。
  • フローは、感情的に「不安」と「退屈」のあいだに出現するので、既存のルーティーン、結果がわかっているタスクには集中できない。
  • どうなるかわからない時、不確実性の高いものには注意を払うので、「没入」を引き出す効果がある。


お二人のお話をお聞きし、フィードバックや能力に応じた適切な課題の設定などには、心理的安全性の構築や、結果ではなくプロセスに注意を払う、或いは把握することが大事ではないかとか、自分の状態を把握するためにはメタ認知能力がないといけないのではにかなど、色々な疑問が湧きました。
以下は、参加者の皆さんから池田さんと世羅さんに質問したQ&Aです。



●フロー状態にもっていくための具体的な方法は?
(池田さん)
・大人には何かしら型にはめるフレームが有効。
・子どもには「あげさげ」が有効。
・あげさげとは感情曲線。
・あげすぎると、さげるのが厳しくなる。
・自己効力感を持てるようにするのがポイント。
(世羅さん)
・為末選手は自分がフローに入っている時、自分の状態がどうなっているか(まばたき、姿勢など)を思い出して、再現しようとしている。
・メガネメーカーのJINSが、まばたきの数や強度を計測してフロー状態を測るJINS MEMEプロジェクトをしていたことがある。

●フローとゾーンの違いは?
(世羅さん)
基本は同じ。ゾーンには学術的な研究がない。

●企業のコンサルテーションをする中で、フロー活用の事例を知りたい。具体的には、企画職の働いているママがいるが、残業ができない。短い時間で成果を出せるようにするには?
(世羅さん)
・一番大事なのは、何でも話せる関係になること。自分の弱み、気になること、消化できないものが増えると、126bitが失われる。失われれば上述したようにパフォーマンスが落ちる。
・わからないことをわからないと言える。イヤなことをイヤと言えるようにすること。

●子ども向けプログラミング教室をしている。朝開校すると、眠い子どもが来る。90分という時間、環境制限がある中でどう対応すればいいか?フローに持っていけるか?
(池田さん)
・フローに入っていく手順がある。北極星のように「これをやりたい!」というものな必要。その上で上述したロケットのような活動を入れるなどすれば、短い時間でも設計できると思う。
(世羅さん)
・フロー状態に入っていない時、無理に入らせようとしなくてもいい。
・他のこと。他の進んでやりたいことをやらせてみるのも一手。

●5歳の子どもがご飯をぜんぜん食べない。j注意散漫、立ち歩く。耳をフニャフニャになるまで触り続ける。フロー状態にさせて食べるようになるか?
(会場からアドバイス)
・子どもが主体的に関わるようにする。例えば、一緒に買い物に行く、料理を盛り付ける皿を選ばせるなど。
・調理の過程を見せる。
・給食は時間制限があるので食べる。ストップウオッチを用意して、早く食べることをモチベーションにさせてみてはどうか。

●マネジメント視点に立つと、チームメンバーみんなにフローになってほしい。その関わり方の取っ掛かりとして、相手がフロー状態かどうかはどうすればわかるか?
(世羅さん)
・相手に「聞いてみる」こと。(デスクトップに向かって)仕事をしている時だけを見ないこと。同僚と話している時、歩いている時、食べている時など、色んな場面を観察すると、「これが好きなんだな」というものが見つかる。
・そうしたことをしている時に、『今楽しそうだね」と声をかけてみる。「今は楽しそうだけど、PCの前ではそう見えない。何が違う?」と聞いてみる。そこから、どうなっている時が、どうやったらフローになっているかを考える。
(池田さん)
・不安因子が鍵になると思う。ストレスのかけ方を変えてみて、どんなものが適度な負荷になってフロー状態に向かい、或いは過度な負荷になってパフォーマンスを低下させているかを調べてみては?

●気が乗らない、上からふられた仕事を、どうフローに持っていけば良いか?
(世羅さん)
・すべての仕事が、自分が高い期待値、モチベーションをもってやるべきものかと考えてみる。
・キライ、やりたくないけどやらなけれはいけない仕事は、目標の種類を変える。例えば、どれだけ早く終わらせるかなど。

●子ども、大人、スポーツ選手では、フローにさせる方法が違うと思うがどうか?子どもは演出でフローにさせられるが、大人には子どものような演出はきかない。責任の所在も違う。
(世羅さん)
・理論としては同じだと思っている。フローには環境条件と心理条件がある。心理条件は自分で変えられるもの。その変えられる程度が、子ども、大人、スポーツ選手では違う。
(池田さん)
・スポーツでは、お金をかけて選手の状態を詳細にモニタリングして数値データを所得したり、コーチの役割が台頭してきたりするなど、細分化してきている印象がある。

●子どもに同じ方法は何度も通用する?
(池田さん)
・子どもにはストーリーが有効。ジョセフ・キャンベルの『千の顔を持つ英雄』に古今東西の普遍的な物語の型が紹介されている。そこにヒントがある。

●夏休みの宿題を、最終日にガーッとやるのはフロー?
(世羅さん)
・フローだと思う。
・「これをしないと、ああなっちゃう」というようなネガティブなプレッシャーではなく、「これをすると、こんないいことがある」とあうようなポジティブなプレッシャーをかけてみる。

●フロー状態が続くことによる生物学的な問題はない?フロー状態に入る時間が増えることで、身体が悪影響を受けるとうなことはないか?
(世羅さん)
・フローはリラックスした状態。
・フローに入りすぎて寿命がみじかくなるということはない。



以上、メモレベルで恐縮ですが、勉強会の要旨をお伝えしました。

フローは子育て、子どもの学び、大人の仕事など、様々な目的に活用できるのではないかと思いました。今後、客観的な数値でフロー状態を可視化し、再現できるようになってくれば、教育改革はもちろん、働き方改革などの有効な一手になるような気がしました。
本日の勉強会関係者で振り返りを行い、本勉強会を継続的に行い、具体的な調査研究やサービス開発といったプロジェクトにできないかを、一度検討してみたいと思います。

そのプロジェクトは、暫定的に「フロージェクト」としたいと思います。

もう一度言います。

フロージェクト!!


[PR]
フロージェクトなど、思いつきで始めて、多分に未知の要素の多いプロジェクトの進め方は、ぜひ下記の拙著をご覧下さい。

このブログの人気の投稿

オラリティとリテラシー。~子どもが世界を知る二つの経路

著者が解説『プ譜』とは何か?概要とテンプレートを紹介します(動画あり)

高崎線の四人ボックス席で帰るプロジェクト 後編