”プ譜”で考えるプロジェクトデザイン@ロフトワークOpenCU

2018年5月9日に、ロフトワークの学びのプラットフォーム「OpneCU」で、『“プ譜”で考えるプロジェクトデザイン  PM Lesson番外編:プロジェクトを<譜面>で成功に導く新しい手法』と題したワークショップを行いました。

今回のワークショップは、これまでのプロジェクト工学勉強会にはない、とてもユニークな、新たな地平を切り拓くものになったのですが、それはロフトワークの長者原康達さんという名アレンジャーの手でによるものです。
長者原さんは、OpenCUで年間50件以上のイベント企画立案から実施運営、パートナーコラボレーション、そしてWebサイトディレクションから運営、オンラインからオフラインを横断したコミュニケーション設計までを、ほぼ1人でこなす、ロフトワークの大型イベント実施には欠かせない、孤高のイベント&コラボレーション総監督です。(ロフトワークさんのサイトから引用)


今回のワークショップは、OpenCUで開催されているPM Lessonを拝見し、拙著『予定通り進まないプロジェクトの進め方』で提唱している『プ譜』を、プログラムとして提供できるのではないかと考え、長者原さんにご相談したのがキッカケで実現しました。

そのワークショップ。何がユニークだったかというと、まずイベントタイトルのクリエイティブを見てください。



プ譜に目が、目が、メガ・・・ッ!
スーツ姿の40代男子(悪い意味ではないです)が多かったプロジェクト工学勉強会からは想像もつかないポップなデザイン。

これは見た目の話で。
ワークの中身の話でいうと、「議論のプロセスをプ譜で表現する」ということにチャレンジしました。

プ譜は、プロジェクトのプロセスの変化を記述することを目的に考案したものですが、議論を通じてナニゴトかを決めていくプロセスもプロジェクトとして捉えることができます。
こんな使い方はまったく想定していなかったので最初は驚きましたが、やってみると結構たのしく、かつ機能している。

そこで今日は、議論のプロセスをどのようにプ譜で残すことができるか、について書くことしました。
その前に、ワークショップの様子を動画化しましたのでご覧下さい。



今回のワークショップでは、「社員旅行のプランを立てる」ことをテーマに、4~5人を1グループとし、その議論のプロセスをプ譜で記述する、ということをしました。




プロジェクトの獲得目標(ゴール)は、以下の二つ。


  • 旅行を経て社員の結束が高まること
  • 社員が新しい視点を得ること


プ譜をつくるにあたり、この獲得目標はどういった状態になっていれば成功といえるのかという基準「勝利条件」を、どのように設定するかがポイントとなります。

「社員の結束が高まる」ってどういうこと?
「新しい視点を得ること」って、社員がどういう状態になっていればいい?

グループ毎に与えられたお題の解釈が行われ、その議論のプロセスを付箋に書きながら、プ譜に清書していきます。


今回は4グループに分かれ、旅行のプランとプ譜を使って議論したことによる気づき、手にした教訓を発表し、共有しました。
「旅行を経て社員の結束が高まること」と、「社員が新しい視点を得ること」をみなさんがどう解釈したか?
発表されたプランはこのようなものでした。(ざっくりメモですみません)


●チーム「コスプレ」


  • コスプレをして無人島に行く。
  • コスプレをすることで、「あぶないヤツら」と思われ、結束力を高める。
  • 社長が最もおいしいと思った料理をつくったチームに、社長から賞金授与。
  • スマホ使用禁止。



●チーム「ブッダ」


  • プラン名「極楽苦行」。
  • 1人当たり予算10万円をできるだけ残すか増やしたチームのうち、最も多かったチームに賞金授与。
  • 普段あまり接していない人と少人数のチームをつくり、苦行を経験することで結束力を高める。
  • 本旅行では、社長は平社員。社員は上長、管理職というふうに関係性を逆転させる。
  • それによって、いつもとは異なる目線や、立場の違う相手を思いやることができるようになる。
  • 自分に苦行を課すのは難しいので、他のグループが考えた苦行を体験する。


●チーム「HAIKOU」


  • プラン名「群馬を喰う」
  • 廃校合宿でチーム対抗料理対決
  • チーム戦による結束力アップ
  • 参加率70%を目指す(社員旅行になかなか参加してもらえないため)
  • 参加率アップのため、インセンティブやペナルティなどを用意


●チーム「アニョハセヨ」


  • プラン名「はじめてのおつかいin韓国」
  • 韓国に行かないとわからないお題を与えられる。
  • お題を解くために現地の人に協力してもらう。
  • ワーク中、全員が意見を言い、普段話さない人と話すことで、結束力を高め、新しい視点を得る。


今回のワークの難易度が高かった要因の一つに、「架空のプロジェクトをいかに議論するか」という点があったと思います。
旅行プランを考えるにあたり、与えられた情報は非常に少なく、「一人当たり10万円ちう予算」、「渋谷にある社員100名の会社」というだけのものでした。そして、旅行の目標も、「旅行を経て社員の結束が高まること」と、「社員が新しい視点を得ること」という抽象的なもの。
たったこれだけの条件・情報から旅行プランを考えるというのは、いかようにでも考えることができ、現実味がなく、プロジェクトマネジメントの仮想演習にもならないじゃないかと思われる方がいらっしゃるかも知れません。

でも、そう取り組んでしまったら、まったくもって意味がない。遊びにもなりません。
このワークでは、プロジェクトの「拘束条件」をいかに創出するかがミソでした。

情報、条件が少ないということ。目標が抽象的であるということは、選択肢と豊富さと解釈の幅広さを意味します。すなわち「無限定」という状態です。
この無限定な状態はプロジェクトにおける制約のなさとして羨ましく見えるかも知れませんが、この無限定さが邪魔をして、いつまでも新規事業プロジェクトのテーマを決められないというケースが多々あります。いつまでも「拡散」的思考で進めてしまい時間を浪費する。或いは、選択肢が多すぎて選択できないということが起きる。
そうした状態から脱し、プロジェクトを進めていくために、拘束条件を創出する必要があります。

渋谷から一人10万円というけれど、宿泊はするか。何泊するか?交通手段は?食事は?
こうした条件によって10万円の使い道が全然変わってきます。そして、旅行の目標である「結束を高める」と「新たな視点を得る」の解釈の仕方で、そのアクティビティに要する時間や費用も決まってくる。
私たちは制約・拘束・条件といった言葉に、どこから「捕らわれる」、「自由がない」といったネガティブなイメージを持っていますが、プロジェクトにおいては積極的に拘束条件をつくることが必要なケースもあります。
(これって、創造的な行為じゃなかろうかと思うんだが)

これはデザインシンキングに出てくる「発散と収束」の関係にも置き換えられると思いますが、プロジェクトにおいては、定性的な表現が発散的。定量的な表現が収束的性格をもっており、両方を往還することが大事だと考えています。

以下、プ譜を使ってみた感想とフィードバックをいくつかご紹介します。


  • プ譜シートの右側に勝利条件を書いておくことで、議論がブレなかった。
    ⇒これは実際にあることですが、プロジェクトを進めにあたり、本来の目的を忘れ、手段が目的にすり替わってしまうことがあります。プ譜には常に勝利条件が書かれているため、そこを意識して議論ができるというメリットがあると改めて感じました。
  • 勝利条件をきちんと決めようとするが、なかなか決まらなかったので、一旦“仮”で勝利条件を決めた。
    ⇒「いったん仮で」のマインドセットは超重要です。実際のプロジェクトにおいて、できるだけ多くの情報収集を行い、あーだこーだと議論していても、どこかで「えいや」とスタートを切る必要があります。その時ゴールの姿をガチガチに決めてしまうと、想定外の事象や状況の変化が起きた時に対応することができなくなりリスクがあります。想定外の事象や状況の変化が起きれば、「ゴールの姿は変わり得る」というマインドセットのもと、「いったん仮で」進めていくことが、プロジェクトには求められると考えます。
  • (社員旅行や合宿など、それそのものや類似する)経験談があると、話が進みやすい
    ⇒経験のある人は間違いなく有利です。「あの時、ああやってうまくいった」という成功体験。「こうすれば良かったと」いう反省。「ここが危なかった」という急所。何が一番大事なのか、という最も肝心な勝利条件についても深い洞察があります。なので、プロジェクトにおいてはできるだけ経験者を集めようとする訳ですが、ドンピシャの経験を持っていなかったとしても、類似する経験者を募ることは、やはり有利であると言えます。
  • 最初に勝利条件の定義を決めることで、全員で同じ認識が持てたのが良かった。
    ⇒目標は同じなのに、勝利条件がメンバー間でズレていると、プロジェクトの進め方に悪影響をもたらします。経営者とプロジェクトマネージャー間で。クライアントとマネージャー間で。マネージャーとメンバー間で。勝利条件のすり合わせ・統一が必要です。


プロジェクトを進めていく過程で、メンバーとの議論は欠かすことはできません。
あの時、ああ言ったじゃん。
それはそんなつもりで言ってない。
というやり取りはプロジェクトあるあるですが、そうしたことをなくし、無用なコミュニケーションコストを増やさないために、プ譜が使えるというのは新しい発見でした。
(「議譜」という名前でアレンジしたものを新しく一つつくってもいいかも知れない・・・)

今回は私にとって、(プロジェクト工学勉強会参加者を除き)著書を購入して下さった方々と、リアルな場で初めて顔を合わせる機会になりました。
自分が提唱する考えについて書店やネットを通じて興味を持ち、書籍を購入頂いたその時の期待や行為そのものを思うと、本当にありがたい思いでいっぱいです。


また、ステキな場を設計くださった長者原さんにも、この場を借りて御礼申し上げます。


これらかも引き続き、プ譜の可能性を追い求めつつ、様々なプ譜を集め、みなさんのプロジェクトに寄与するアーカイブづくりを行って参ります。


このブログの人気の投稿

オラリティとリテラシー。~子どもが世界を知る二つの経路

著者が解説『プ譜』とは何か?概要とテンプレートを紹介します(動画あり)

高崎線の四人ボックス席で帰るプロジェクト 後編