結果にコミットする赤坂のチーママの夫婦喧嘩仲直りアドバイス
私には、夫婦ゲンカした時に、相談に乗ってくれる相手がいる。その相手とは、赤坂のとあるビルの31階に店を構える、クラブのチーママだ。
彼女の名をK子としよう。
K子ママと初めて会った時、私はちょうど第二十次フーフ大戦の只中にあった。
私には数年来、どうしても納得のできないことがあった。
夫婦喧嘩をする時、歩み寄ろうとするのはいつも私なのだが、いつも思うのは、
「あの時、ああいうことをしてあげたのに、なんでこういうこと(=ケンカの原因となった言動や行為)をするんだろう?」
という疑問だ。
あれをやったかだんだから、これくらいはガマンしてほしい。
こんなに善行を積んできたのに、なんでこのくらいのことを許してくれないのか。
ということを思ってしまう。
K子ママはそんな私のかすかな希望をデスサイズで薙ぎ倒した。
「女に善行の積み上げというものはないの。でも、悪行は根深く蓄積していくのよ」
そんな不条理なことがあるのか。
私など「妻があんなことをしてくれたのだから、ここはガマンだ」と何度自分に言い聞かせたかわからない。
K子ママは愕然とする私に畳みかけた。
「女に因果という二文字はないも同然」
「男はトレードオフするけれど、女はトレードオフしないの」
なんたる理不尽。非道理。脳裏にシーシュポスの岩の苦行がよみがえる。
しかし、私はどこかでその言葉を待っていたのかもしれない。
ケンカの度に胸をよぎる思いが、そもそも期待することのできないものであったということ。
望むべくもないものであるということを私は知った。そしてついには、諦念にも似た気持ちを覚えたのである。
さて。喫緊の課題は現在の第二十次フーフ大戦をいかに終結させるかである。
私はK子ママに事情を話した。
「スイーツよ。」
「スイーツ・・・、ですか?」
「いつも何駅から帰っているの?」
「今日は溜池山王から上野まで銀座線で出て、高崎線で帰ります」
「奥さんは何が好きなの?あぁ、そうそうお子さんもいるのよね。二人はどんなスイーツがお好き?」
「・・・たぶん、チョコレートです」
「じゃあ三越前で降りて、地下1Fにあるノワ・ドゥ・ブールで、ショコラ・レジェを買っていくといいわ」
よくそんな情報がソラで出てくるものだと感心しつつ、私はK子ママの言う通り、三越前駅で降り、ノワ・ドゥ・ブールで、ショコラ・レジェを買って帰宅した。
妻はもう寝ていたので、翌朝妻が食事の準備をしている傍に近づき、「ちょっと仕事で寄ったから」とキッチンの脇にショコラ・レジェの入った箱を置いた。
6歳になる長女のアーネがちょうどそれを見ていて、「パパこれなぁに?」と聞いた。
「チョコケーキだよ。アーネが保育園から帰ってきたら、ママといっしょに食べな」
私はそう言いながら妻を横目で見やると、妻は少し微笑んで「ありがとう」と言った。
・・・これが、スイーツの力か!
今日までの十数日。まったく口をきかず、天の岩戸のように固く閉ざされた妻の口が開いた。
私は嬉しい、というよりは安心し、出勤する前に一杯お茶を飲もうとキッチンに戻った。
すると、妻が私に「ゴミを捨てたら新しい袋を入れておいてよ」と言い咎めた。
妻にはそんなつもりはなかったのかも知れない。だが私には、言い咎められたように聞こえた。
私はつい、言わなくてもいい一言二言を口にしてしまい、いってきますとも言わず、家を出た。
冷たい赤城颪が私の胸をいっぱいにする。
元の木阿弥。The wheel comes full circle。
「わざわざケーキを買ってきたんだから、そのくらい黙って許して、自分でセットしておいてくれよ」
黙って許してと言ったのは和田アキ子だったろうか。
私はつい、そう思ってしまった自分を恥じた。
私はいまだ後悔のため震える指先で、K子ママにメッセージを送った。
私は翌日、営業先の渋谷で、東急百貨店に入っている青山フラワーマーケットで、K子ママの言う通りミモザを買った。そして、地下におり、アンリ・シャルパンティエのモンブランを買って帰った。
そして、まだ起きている妻に、「仕事の関係で国際女性デーって聞いたから」とミモザの花束を手渡した。妻はとくだん喜びもせず、「そうなんだ」と受け取った。
私は少しガッカリしたが、受け取ってくれたことに安堵しつつ、翌朝すこし軽い気持ちで出社した。
ところで、私には週刊の漫画誌よりも、テレビドラマよりも更新を待ち焦がれているものがある。それは妻のインスタグラムだ。
妻が撮る娘たちの姿は、私とはまた違う視点で可愛くもあり、発見もありで、いつも更新を楽しみにしている。
私は高崎線の車内で妻のインスタグラムを見てみた。
・・・喜んでくれてるじゃないか!
ハートまでついている。
「旦那からのプレゼント」くらい書いてくれてもいいじゃないかという気持ちも起こったが、それを書かないのも私にはかわいく思えた。
私は嬉しさのあまり、K子ママに感謝のメッセージを送った。
私はこの後も、妻と何か起きた時は、K子ママにアドバイスを求めた。
K子ママはその都度、私の現在地や帰宅経路を元に、近隣のおいしいスイーツ店を教えてくれ、時にミモザのエピソードのような、関連する記念日や世の中の流行から、セットにして贈るとより喜ばれる情報を送ってくれる。
私は御礼を兼ねて時々飲みにいくが、それで妻が機嫌よくいてくれ、ケンカの仲直りができるなら、飲み代も安いものだ。
夫婦生活というものは未知のものであり、それをどう営んでいくかはまさにプロジェクトといっても過言ではない。
そんな私は、今週末も自治会の掃除の件で妻とひと悶着し、震える手でメッセージを送ろうとしている・・・。
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婚活も、結婚も、家事育児もプロジェクト。
思ったように進まないなぁと感じたら、ぜひ本書をご覧下さい。
彼女の名をK子としよう。
K子ママと初めて会った時、私はちょうど第二十次フーフ大戦の只中にあった。
私には数年来、どうしても納得のできないことがあった。
夫婦喧嘩をする時、歩み寄ろうとするのはいつも私なのだが、いつも思うのは、
「あの時、ああいうことをしてあげたのに、なんでこういうこと(=ケンカの原因となった言動や行為)をするんだろう?」
という疑問だ。
あれをやったかだんだから、これくらいはガマンしてほしい。
こんなに善行を積んできたのに、なんでこのくらいのことを許してくれないのか。
ということを思ってしまう。
K子ママはそんな私のかすかな希望をデスサイズで薙ぎ倒した。
「女に善行の積み上げというものはないの。でも、悪行は根深く蓄積していくのよ」
そんな不条理なことがあるのか。
私など「妻があんなことをしてくれたのだから、ここはガマンだ」と何度自分に言い聞かせたかわからない。
K子ママは愕然とする私に畳みかけた。
「女に因果という二文字はないも同然」
「男はトレードオフするけれど、女はトレードオフしないの」
なんたる理不尽。非道理。脳裏にシーシュポスの岩の苦行がよみがえる。
しかし、私はどこかでその言葉を待っていたのかもしれない。
ケンカの度に胸をよぎる思いが、そもそも期待することのできないものであったということ。
望むべくもないものであるということを私は知った。そしてついには、諦念にも似た気持ちを覚えたのである。
さて。喫緊の課題は現在の第二十次フーフ大戦をいかに終結させるかである。
私はK子ママに事情を話した。
「スイーツよ。」
「スイーツ・・・、ですか?」
「いつも何駅から帰っているの?」
「今日は溜池山王から上野まで銀座線で出て、高崎線で帰ります」
「奥さんは何が好きなの?あぁ、そうそうお子さんもいるのよね。二人はどんなスイーツがお好き?」
「・・・たぶん、チョコレートです」
「じゃあ三越前で降りて、地下1Fにあるノワ・ドゥ・ブールで、ショコラ・レジェを買っていくといいわ」
よくそんな情報がソラで出てくるものだと感心しつつ、私はK子ママの言う通り、三越前駅で降り、ノワ・ドゥ・ブールで、ショコラ・レジェを買って帰宅した。
妻はもう寝ていたので、翌朝妻が食事の準備をしている傍に近づき、「ちょっと仕事で寄ったから」とキッチンの脇にショコラ・レジェの入った箱を置いた。
6歳になる長女のアーネがちょうどそれを見ていて、「パパこれなぁに?」と聞いた。
「チョコケーキだよ。アーネが保育園から帰ってきたら、ママといっしょに食べな」
私はそう言いながら妻を横目で見やると、妻は少し微笑んで「ありがとう」と言った。
・・・これが、スイーツの力か!
今日までの十数日。まったく口をきかず、天の岩戸のように固く閉ざされた妻の口が開いた。
私は嬉しい、というよりは安心し、出勤する前に一杯お茶を飲もうとキッチンに戻った。
すると、妻が私に「ゴミを捨てたら新しい袋を入れておいてよ」と言い咎めた。
妻にはそんなつもりはなかったのかも知れない。だが私には、言い咎められたように聞こえた。
私はつい、言わなくてもいい一言二言を口にしてしまい、いってきますとも言わず、家を出た。
冷たい赤城颪が私の胸をいっぱいにする。
元の木阿弥。The wheel comes full circle。
「わざわざケーキを買ってきたんだから、そのくらい黙って許して、自分でセットしておいてくれよ」
黙って許してと言ったのは和田アキ子だったろうか。
私はつい、そう思ってしまった自分を恥じた。
私はいまだ後悔のため震える指先で、K子ママにメッセージを送った。
私は翌日、営業先の渋谷で、東急百貨店に入っている青山フラワーマーケットで、K子ママの言う通りミモザを買った。そして、地下におり、アンリ・シャルパンティエのモンブランを買って帰った。
そして、まだ起きている妻に、「仕事の関係で国際女性デーって聞いたから」とミモザの花束を手渡した。妻はとくだん喜びもせず、「そうなんだ」と受け取った。
私は少しガッカリしたが、受け取ってくれたことに安堵しつつ、翌朝すこし軽い気持ちで出社した。
ところで、私には週刊の漫画誌よりも、テレビドラマよりも更新を待ち焦がれているものがある。それは妻のインスタグラムだ。
妻が撮る娘たちの姿は、私とはまた違う視点で可愛くもあり、発見もありで、いつも更新を楽しみにしている。
私は高崎線の車内で妻のインスタグラムを見てみた。
・・・喜んでくれてるじゃないか!
ハートまでついている。
「旦那からのプレゼント」くらい書いてくれてもいいじゃないかという気持ちも起こったが、それを書かないのも私にはかわいく思えた。
私は嬉しさのあまり、K子ママに感謝のメッセージを送った。
私はこの後も、妻と何か起きた時は、K子ママにアドバイスを求めた。
K子ママはその都度、私の現在地や帰宅経路を元に、近隣のおいしいスイーツ店を教えてくれ、時にミモザのエピソードのような、関連する記念日や世の中の流行から、セットにして贈るとより喜ばれる情報を送ってくれる。
私は御礼を兼ねて時々飲みにいくが、それで妻が機嫌よくいてくれ、ケンカの仲直りができるなら、飲み代も安いものだ。
夫婦生活というものは未知のものであり、それをどう営んでいくかはまさにプロジェクトといっても過言ではない。
そんな私は、今週末も自治会の掃除の件で妻とひと悶着し、震える手でメッセージを送ろうとしている・・・。
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