【勉強会レポート】未知の社会におけるライフデザイン(大人編)~超高齢少子多死時代に向けて Vol. 7

2018年2月15日に、エンドオブライフケア協会さん(以下、ELC)と、「未知の社会におけるライフデザイン(大人編)~超高齢少子多死時代に向けて  Vol. 7~」という勉強会を開催しました。


この勉強会は子ども編と大人編の2回に分けて開催しており、子ども編では「超高齢少子多死時代」という未知な社会において、子どもが生きていくための力のヒントを「プロジェクトを進めていく力」に求め、その力をどのように育むかということをディスカッションしました。
(参考:「未知の社会におけるライフデザイン(子ども編)~超高齢少子多死時代に向けて  Vol. 6~」

続く大人編では、私たち自身が、既知の未知である「親の介護」というプロジェクトを、どのように進めていくことができるか、ということについて学び合いました。

ELCでは既に介護をプロジェクトマネジメントの対象として勉強会を実施しておりますが、今回は私が提唱している『プロジェクト譜(以下、プ譜)』を用いて、介護プロジェクトを可視化し、より具体的に、どのような施策が考えられるのかといったことや、全体のイメージやを持てるようにしました。

本題に入る前に、プ譜の概要について説明しましょう。

『プ譜』とは、工学の3原則、「観測」、「記述」、「制御」にのっとった、プロジェクトの「可視化」、「仮想演習」、「編集」ツールです。


プロジェクトの「ゴール」(プ工学では「勝利条件」と称します)、そこに到達するための「中間目的」、「中間目的」を実現するための「施策」。
そして、プロジェクトを行うための所与の条件、たとえば「人材」、「予算」、「技術」、「品質」、「環境」などの「廟算八要素」といった構成単位があります。

これらを一局面一シートで記述し、プロジェクトのプロセスを可視化することで、プロジェクトマネージャーの認知的負荷を減らし、これをメンバーやステークホルダーと共有できるようになります。
そして、意思の統一(見解の齟齬)、個々のメンバーの仕事が他者にどのような影響を与えるのか。諸施策が全体の戦略にどのような影響を与えるのかといったことを、逐次変化する状況を反映しながら、わかりやすく伝えるというメリットがあります。

また、この他者のプ譜を閲覧したり、感想戦(※自分の、或いは他者プ譜を評価・検討しあう行為)を行うことで、自身のプロジェクトの参考にするということができます。
プ譜の詳細や活用例は2018年3月末に刊行される書籍でご覧頂くとして、以下は今回の勉強会のテーマである、「親の介護」を参加者がどのようなプ譜にし、そこからどのような気づきや教訓があったかということをご紹介します。


実際に自分の介護のプ譜を書き、参加者のみなさんのプ譜を見るなかで、介護というプロジェクトを進める上での難しさについて感じたことがあります。

ビジネスにおけるプロジェクトには、目標が会社から与えられます。

N年N月までにシステムを納品せよ。
新規事業でN億円の売上を達成せよ。
会社の周年事業のイベントを成功させよ。

こうしたミッションは唐突に下るものもあれば、根回しのうえ通達されるものもあります。
介護もまた同様に突発的に起こるものもあれば、事前に準備しているものもある。
タイミングという点では似ているものでありますが、決定的に異なるのは「目標が与えられるものか否か」にあり、そしてそれが介護というプロジェクトを進める上での難しさになっています。

与えられた目標というのは非常に楽です。
ミッションを下した上司やステークホルダー、クライアントの望む形にして差し出せばよい。
目標が明確な分、論理的には、取り得る選択肢は絞り込みやすい。

しかし、介護のプ譜を書くにあたり、一番最初に定めなければならない「介護の目標」というものを、私はなかなか決めることができませんでした。
(これは、余命数ヶ月といった、プロジェクトがスタートした時点で、残り時間に限りがある場合は異なるかも知れませんが)

というのも、そもそも介護に目標など持てるのか?ということが問題を難しくします。
私はプロジェクトのプロセスを、問題解決のプロセスに重ねることがありますが、
その問題の解決した先には、何かしら希望というか、明るい何かがあります。
一方、介護という問題の解決した先は、親との別れしかない。
それはどうしたって避けることができないものだとわかっていながらも、希望や明るい何かを見いだすことができない。

また、与えられたプロジェクトの目標の一つとして「納期」があります。
この納期の存在が取るべき手の選択肢を狭め、時にステークホルダーに対して有利にコトを進める要因になりますが、介護の納期はそれが何年先なのか、十数年先なのかがわからない。
これも目標を定めづらくさせる要因です。

決めることが難しい理由は、目標を私一人で決められないところにもあります。
介護の目標は、介護を受ける親を抜きには決められないと思います。
親の希望、考え、価値観といったものを(本当に理解できるかはわからないけれども)理解し、共感し、尊重しない限り、目標を定められないと感じました。

このような意味で、私が書いたプ譜は、はなはだ不本意ではありますが、以下の2つを書いてみました。



一つは「後悔をしない」というものと、もう一つは「介護離職をしない」というものです。
このプ譜の詳細について解説するのは心身ともにしんどいので、適宜解釈下さい。

勉強会参加者のみなさんも、私と同様に、なかなか「これ!」という目標が出てこないようでした。

そこで、提示したのが「親と自分が穏やかであること」という勝利条件です。

プ譜では、新規事業を成立させる、マイホームを建てるといった最終的な目標のことを「獲得目標」と呼び、その成功判断の基準を「勝利条件」と呼んでいます。

今回は、目標を定めづらい「介護」というテーマのため、「どのようにその目標を達成しているか」という勝利条件を強制的に付与し、それを足掛かりにプ譜を書いて頂くことにしました。

掲載許可を取っていないため、前回に続いてグラレコとテキストでその内容を一部ご紹介致します。


出てきた中間目的としては、「経済的(お金)に困っていない」、「兄弟(姉妹)関係をよくしておく」、「親のやりたいことを把握しておく」といったものがあり、それぞれにその中間目的を果たすための具体的な施策・アイデアが共有されました。

先に掲示した私が書いた二つのプ譜でも明らかなように、勝利条件の違いがプロジェクトの進め方と、プロジェクトに向かう態度・心理を決定的に異なるものにします。


このブログで既に述べたことですが、介護というプロジェクトを進めていく上で、この勝利条件は「私」一人が持つのではなく、親子で、家族で、支えてくれる人々の間で、共有することが大事なのではないかという想いを強く持ちました。

そして、サラリーマンのプロジェクトと異なり、介護というプロジェクトでは目標や勝利条件は誰からも与えられません。

誰からも与えられていない。

それは、自由であることの裏返しです。

勉強会の最後に、小澤先生から、「穏やかであることの条件」として、「3つの支え」があるというお話を頂きました。

●選ぶことができる自由
●支えとなる関係
●将来の夢

この、「選ぶことができる自由」ということは、具体的には下記のようなことを指します。



自由であるためには、ある程度の知識(情報)が必要になってきますが、こうした知識を仕入れておくだけでも、その選択肢は広がります。

このように、選択肢が限られていると何となく思われている介護プロジェクトであっても、実は創造的な行為になり得るのではないか?と、思えました。

こんな問いが私には新たに生まれ、そこにかすかな光のようなものを、私は感じました。
このような勉強会を希望される方がいらっしゃいましたら、ぜひ、ELCさんのホームページを訪れてみて下さい。


一般社団法人 エンドオブライフ・ケア協会
https://endoflifecare.or.jp/

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