かつお茶漬け

一時の流行が去ったとはいえ、お茶漬けは多くの人々に愛される食である。
それなのに、世の多くの茶漬けより簡単で、うまいかつお茶漬けが用いられていないのはふしぎな気がする。
まぐろは東京がよく、かつおは関西がいい。
東京に、もし京阪のような食道楽が発達していたら、おそらく、今日までかつお茶漬けを見逃しては
いなかったであろう。


●茶漬けの御飯
御飯の炊たき方がやわらかく、ベタベタするようなのは一番いけない。
すしの飯めしの程度がいい。炊きたての御飯はいけないが、
かつおの刺身をミディアムレアに仕上げるには、温かいご飯がいい。
茶漬けにもよりけりだが、魚の茶漬けには冷飯ひやめしは絶対にいけない。


●お湯
茶漬けというが、かけるのはお湯が良い。しかもチンチンのお湯にかぎる。煎茶や番茶などではいけない。


●茶漬けのかつお
さて、茶漬けの用いるかつおだが、初がつおがいい。
初がつおはよく脂がのっており、すこしねっとりと舌にからむような食感がある。
これが茶漬けによく合う。


●お茶漬けの作り方
茶碗に飯を盛る時、腹の空すき加減にもよろうが、ぜいたくものは飯を少なく盛ることである。
少なく盛った飯に、かつおのさしみ三切れを一枚ずつ平たく並べて載せる。
それに醤油を適当にかけて加減する。その上にわさびを添える。


並べたかつおの上に、徐々に熱湯を注ぐ。かつおの上の方から平均してまんべんなくかけていくと、かつおの上皮がいくらか白んでくる。
そうして、上のかつおが、湯に浸る程度に湯を注ぐ。
次に、かつおを箸で静かに御飯の中に押し込むようにすると、裏の方のまだ赤い色をしたところまでが白くなってくる。
透明な湯は乳白色になり、醤油もまじって茶碗の中にこもってくる。


もっと味を濃くしたい人は、ここで茶碗の蓋をして、しばらく静かに放置し、中に充分に味がこもるのを待って、濃淡好みの茶漬けとした上で、口に掻かき込む段取りとなるのである。
どちらかといえば、蓋をしない茶漬けの方が香気も高く、熱く、かつおも熱し過ぎないので、美味いのであるが、蓋をする方は、飯がほとびていけない。

その上、かつおが熱し過ぎるというのは野暮やぼである。かつおの生っ気けを好まない人は余儀よぎないことであるが、前者のやり方の茶漬けに越したことはない。

さらに、ぜいたくものは湯をかけてミディアムレアになったかつおを、出汁だけとって捨ててしまう。
湯をかけた後のカツオは優しいタタキのような味にるのだが、私はこれを食すのが好きである。
この茶漬けは、ほかになにひとつ惣菜そうざいを用いる必要がなく、最後にひと切れの香こうのものを添えて、ぜいたくな味を満足させれば足りる。



・・・以上、魯山人風に三重県紀北町名物かつお茶漬けをお伝えしました。


※元ネタ
底本:「魯山人の食卓」グルメ文庫、角川春樹事務所

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