Crying at night Airlines

去年から今年にかけて、何度目のフライトになるだろう。

30分ほど前に不安定な気流を抜け、客席のベルト着用ランプも消えている。

落ち着いた気持ちで目を閉じると、エンジン音が赤ん坊の寝息のように聞こえてくる。

窓の外に目をやると、はるか遠くに漂う雲海の向こうが白み始めている。

さぁ、そろそろ管制塔と交信しよう。

「Narita Higashi Tower, MAEDA TK, 10 miles final」
「MAEDA TK , Narita Higashi Tower, Runway 22, Cleared to Land」

管制塔からすかさず返信が入る。相変わらずこの管制官は仕事が早い。

「MAEDA TK Cleared to land on 22」

復唱すれば、次のタスクは着陸のアナウンスだ。

「レディース&ジェントルメン。当機は間もなく成田東国際空港に到着いたします。今一度、お座席のシートベルトをご確認ください」

私は少しずつハンドルを倒していく。

ここから着陸までの時間はどれだけフライトを重ねても緊張するものだ。

地上の誘導灯が近づく。

OK、さぁ着陸だ・・・








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「・・・・・・みなさま、本日、成田東上空たいへん混み合っておりまして、当機の前に3機待機中です。今しばらくお待ち下さい。今一度、管制より着陸の許可を待ちますため、再度離陸致します。」

思わぬアクシデントに見舞われたが、もう少し上空で揺られながら、着陸許可を待とう。

両腕はずいぶん重くなってきたが、まだ焦ることはない。

「MAEDA TK , Narita Higashi Tower, Runway 22, Cleared to Land」

やれやれ、また同じ滑走路とは。

「レディース&ジェントルメン。当機は再び着陸体制に入ります。ただいまベルトサインが点灯いたしました。どうぞ皆様お席にお戻りになり、安全ベルトをお締めください。また化粧室のご利用はご遠慮下さい」

高度を下げる。

今度こそ問題ない。

前輪が滑走路に触れた。








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・・・・・・・・・

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・・・・・・今度は滑走路に接地したものの、滑走路上の障害物のせいで停止できなかった。

これで今年に入って何度目のTouch and Goだ。

いや、Touch and Goも想定内の運航形態。

少し着陸を急ぎ過ぎてしまったようだ。

もう一度。

もう一度アタックしよう。

しかし燃料はあとわずかしか残っていない。

両腕も、腰も、背中も限界だ。

もう一度、高度を下げる。


「Runway Insight(滑走路視認)」


いよいよ高度100フィード台に再突入する。


「Approach minimum(着陸決心高度)!」


もってくれよ、オラの両腕!


「landing(着陸)!」


・・・

・・・・・・・・・

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2回のGo aroundとTouch and Goを繰り返してしまったが、無事着陸することができた。
いや、正確には今朝も、か。


私は眠りにつくわが子にそっとアナウンスする。


「本日は、MAEDAエアラインをご利用いただき、真にありがとうございました。また、あなたと機上でお会いできることを、心からお待ち申し上げます。」

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