自社製品、技術、ナレッジを学習コンテンツ化する編集術

まだ市場が成熟しておらず、ターゲットとしていた人々の啓蒙活動が必要な段階において、営業活動として有効に感じるのが『自社製品、技術、ナレッジを学習コンテンツ化したワークショップ』です。

ワークショップは企業セミナーとか講座といっても良いです。
この1年、ワークショップをプロジェクト活動の軸に据えて行ってきた経験を元に、企業の学習コンテンツの作り方とその活用方法について、まだ粗々なのですが自分自身の整理を兼ねてまとめてみました。

まず、前提整理です。


1.なぜ学習コンテンツか?

・一般的な営業手段ではなかなか契約に結びつかない。
・情報収集など緊急度の低い見込客から優良顧客を発掘、育成したい。
といった課題を抱える企業に対し、新しい営業及びマーケティング施策になり得るから。


2.学習コンテンツとは何か?

・その学習内容が学習者の業務における課題解決につながるものであること。
・自社製品、技術、ナレッジ等から学びの要素を取り出し、学習に必要なツールや資料を提供するなど、一つの学習プログラムとして成り立っているものを指す。
・セミナー、講座、ワークショップといった形態をとり、オンラインオフラインは問わない。
※本稿では特に体験を重視する「ワークショップ」を学習コンテンツの主要手段とします。


3.なぜワークショップを主要手段とするか?

・座学よりも実際に体験した方がユーザーの理解度が高まるため。
・自社製品を学習コンテンツにおけるツールとして操作、利用する機会をつくるため。


4.学習コンテンツを作る目的は何か?

・見込客の獲得
・優良見込客の育成
・新規契約促進
・継続購入促進


5.学習コンテンツをつくるメリットは?

●顧客視点
・抱える課題に対する普遍的な考え方と具体的な解決手段を学びながら体験することができる。
・当該製品が解決する課題と製品についての理解が深まっているので、製品導入時の社内説明が楽になる。

●社外視点
・企業イメージの向上。
・学習コンテンツを実施、発信し続けることで、このテーマ、課題に対するオピニオンリーダー、第一人者と認知されることが期待できる。
・広告がブロックされる時代において、広告ではない手段で見込客にアプローチすることができる。

●社内視点
・自社内に散らばっていたり、暗黙知と化していたナレッジを掘り起こし、整理することができる。
・社員の自社製品、技術、ナレッジに対するリテラシーの向上(理解の深まり)。
・他社に教えることによる価値の再発見、アイデアの共創が期待できる。


6.一般的な学習コンテンツをつくるよりも楽な理由

学習プログラムを受けてほしいターゲットは、自社製品のターゲットとほぼ同じで、学習コンテンツ通じて課題解決できるツールは製品として既に存在しているので、コンテンツ作成のコストを大きく抑ええられる。


7.学習コンテンツを作ると良い(と思う)企業

・定額制サービス
・ユーザーが操作する必要のある製品を提供している
 (例:オンラインビジネス系はいいんじゃまいか)
・単純なコスト削減だけではなく、使いこなすことで更なる成果を上げられる製品を提供している。


・・・と前提を共有したところで、
ここから、学習コンテンツの作り方をスライドを交えて紹介します。


自社製品、技術を学習コンテンツ化するうえでの手順を、ざっくり区切ると下記の4ステップにまとめられると思います。

01.望ましい状態の定義と製品特長を整理
02.定義を実現するための考え方、手順を整理
03.プログラム進行への落とし込み
04.学習コンテンツ要素の教材整備


以下、最近私が携わった動画制作アプリサービスを例にとって、詳しくみていきます。
(図が見にくい点はご容赦ください)

自社製品、技術を学習コンテンツに仕立てていくにあたり、まず必要なのが自社製品、技術から学習コンテンツの要素を引き出していくことです。
そのためのステップは大きく2つあり、
1つ目が「本来その業務を行うにあたって最も望ましい状態を定義」することです。



「望ましい状態」の定義づけは、業務範囲が広すぎると定義しきれなくなってしまうので、「動画制作」という広い枠ではなく、「Eコマースで使用する販促動画制作」や「社内研修で使用するマニュアル動画制作」など、できるだけその範囲を狭めると良いと思います。
ただここは来場者のターゲット層にもよるので、対象のズームイン・アウトを行って調整する必要があります。

そうして定義づけた望ましい状態に対し、各社の製品が十全であるということは稀でありますから、自社製品が望ましい状態にどのようにアプローチし、どの要素に対してはているのかという事を再認識するプロセスです。

一般的な企業セミナープログラムを聴講すると、自社製品に都合のいいようにプログラムを組み立てているマッチポンプ的なものに遭遇することがありますが、自社製品が「望ましい状態」に対してフォローできていない点があったとしても、学習コンテンツとする以上は、それに対する答えも準備しておくべきです。


学習コンテンツ要素の引き出しステップ、2つ目は「定義を実現するための考え方、手順を整理」すること。


望ましい状態に対して、自社製品がどのような考え方、思想で以てアプローチしているかという「内容」と「そこに至ったプロセス」を明らかにします。
この行為をスライドでは「望ましい状態と製品間に橋をかける」と便宜上呼んでみましたが、ここで導き出される内容が、学習者が最も学びたいポイント=学習コンテンツとして価値のあるものになります。

この学習コンテンツの要素が日ごろの業務の中でアーカイブされ、すぐに取り出せるようになっていると楽なのですが、たぶんそういう事を行っている企業は稀でしょう。
ログをひっかき回さないといけないとか、ベテランに聞き取りを行わなければいけないといった事があろうと思います。
そうして聞き取った、取り出した情報を整理分類していく姿は、まさに社内民俗学者と言ってもよいのではないかと思いますが、そこで必要になるのは根気というよりは、その仕事への愛とか、その仕事の成果、そこで蓄積した知恵(とその当事者)への尊敬だと思います。


話しが横道にそれました。
学習コンテンツの要素を引き出したら、今度はそれをプログラムに落とし込んでいく作業です。


上図は学習コンテンツをワークショップ形式で実施した場合のプログラム進行表です。
順序としてはこちらをふまえておけば間違いはないでしょう。

1.前提整理、課題共有
2.望ましい姿の定義
3.望ましい姿の実現方法をレクチャ
4.ツール(自社製品)を使用した実践
5.実践成果への評価、助言

プログラムとして提供していく中で、学習者の知らなかったこと、不足していた知識などを「うめる」作業と、誤解や新しい環境への適応といった「ただす」作業がありますが、これは2の「望ましい姿の定義」で行います。

3の「望ましい姿の実現方法をレクチャ」が、シート2で導き出した学習コンテンツ要素を伝える部分になりますが、どの要素を入れ込むかはプログラムの時間条件や自社製品の内容によって変わるでしょう。

4の「ツールを使用した実践」は営業観点上ぜひとも自社製品を使用すべきですが、赤裸々に言えば、
「弊社製品を使用しなくても望ましい姿は実現できるけど、弊社製品を使って頂くのが最も良いですよ(早い、安い、高品質などのストロングポイントをプッシュ)」
というたてつけになっていないと意味がないです。

5の「実践成果への評価、助言」は本職のプロとしての腕の見せどころで、ここで的確な評価、助言ができるかどうかが、その後の導入に大きく影響してきます。
書きそびれていましたが、このワークショップの司会進行係はもちろん、講師役は全て自社社員でやるべきです。高いお金を払って外部のその道の第一人者(という人)を連れて来てはダメです。


ここまでできれば、後は学習コンテンツの進行をスムーズにするためのワークシートや事例紹介資料の作成を行えばOKです。
その教材も新規に作成するよりは、できるだけ既存のコンテンツで流用できるものがあれば流用すれば良いです。


まだまだ粗い内容ではなはだ恐縮ですが、自社製品や技術を活かした学習コンテンツ制作の方法としてご参考頂ければ嬉しいです。


・・・と、上述した考え方をベースに企画したワークショッププログラムを、宣伝会議さんで実施することになりました。

『BtoB企業のための 自社セミナー企画実践講座』


良き内容にして参りますので、ご興味のある方は、ぜひご参加ください!


※以下、その他、留意するポイントやこの記事を書きながら感じたことランダムに並べておきます。


●営業(売り込み)とのバランスはさじ加減が難しいので適宜チューニングした方がいい。

●自社製品を学習コンテンツ化するためには、日ごろ体験したもの(そこで行った工夫や体験した悩みなど)をアーカイブしたり、マニュアル化する等の作業を行っておくとラク。

●くれぐれも自社製品の使い方を学習コンテンツにするのではなく(それは学習コンテンツと呼ばない)、製品がアプローチしている業務そのものに対する考え方を学習コンテンツにしよう。
(逆にいうと、使い方程度の話では集客できない)

●マイナス状態だった作業が自社製品によって0(ゼロ)の状態になり、それを使いこなす考え方、ナレッジによってプラスαの効果が得られるようになれば、顧客は自社製品を使い続けてくれるのではないか。

●1回きりで終わらすのがもったいない場合(見込客とのコミュニケーションを取り続けたい場合)、宿題を出したり、内容を切り分けて複数回開催したりすれば良い。

●製品そのものではなく、製品が解決する業務課題を学習コンテンツにすることで、競合製品との違いを明確化できる。そのテーマにおける学派の一つのような位置づけができ、単純に価格だけで見られることが減るのではなかろうか。

●学習コンテンツをつくる過程で出会うであろう様々な知見は、オウンドメディアなどにも使えるんだろうが、学習コンテンツそのものがオウンドメディアの代替物というか、役割の一端を担う気がする。

●学習コンテンツをつくる時に必要なのは、その仕事と仕事人への愛と尊敬である。
(というか、やってく中で芽生えると思う。少なくとも私は芽生えました)

●当たり前なのだがあえて言うと、学習コンテンツをつくるには自社社員がそのサービスの最もヘビーユーザーであることが必要。サービスの機能や操作に関する理解度ということはもちろんだが、動画サービスをやっているなら、自社サイトのコンテンツを全て動画化するくらい使い倒している方がいい。その成果を記録して公開できる状態に準備しておくことが、学習コンテンツづくりに直結する。


また、学習コンテンツをつくって、実際にワークショップとして実施した後の「引上げ」や実施前の「集客」については、多くのサービスやweb記事が存在しているので、そちらを参照してください。

一点申し上げれば、効果的な引上げと集客の一手段として、自社と関連する業務に従事する企業も学習コンテンツを作っていれば、彼らと共同で実施するのが効果的でありましょう。
その時に「お試しパッケージ商品」などを作っておくと良いかもしれません。

ちなみに、以上のような考え方で企画、運営してきたワークショップの実例は、実施レポートという形で下記でご覧頂けれますので、よろしければご覧下さい。

http://1roll.jp/workshop

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